領都インズィット
父の魔物討伐から数時間が経過し、まもなく領都に到着する時間となった。
「領都はもうすぐだな。」
「そうなの?楽しみ!」
「ネディスの適性の儀は明日だから、今日は着いたら宿を探そうか。そのあとは買い物かな?」
ネディスは適性の儀、そして買い物というワードに目を輝かせ、喜んでいた。
「買い物も適性の儀も楽しみだなぁ!」
早く着け早く着けと言わんばかりに窓からの景色を眺め、待ち遠し気な顔をする。
その様子を両親はにこやかに眺めているのだった。
そうして領都に到着した。待ち受けていたのは検問だった。
「何これぇ!」
「検問ってやつさ。領都に悪いやつが入らないように一人一人見て確かめているんだ。」
悪いやつが中に入ってきたら困るだろう?とネディスに問いかける。
「それはそうだけど……人多くない?」
領都の検問所の前には、百人ほどの行列が続いている。
「まぁ、しょうがないんだ。適性の儀を行うのは基本的に領都だからな。近くの村から出てくる人たちがいるからな。ほら、父さんたちと同じ人たちさ。」
そう。適性の儀を行うのは年に一回。六歳になった子供を対象に行われる。開催期間が限られ、その上行われるのは領都のみとなっているため、付近の村々から押し寄せてくるのだ。
検問所の衛兵たちはこの日はてんてこ舞いで、必死に対応している。
「おとなしく順番が来るのを待っているしかないさ。」
ちなみに、行商人は別の入り口で検問を受ける。ここは領民や旅人専用の検問所だ。
行商人の場合は積荷の検査などがあるため、ここよりも設備と人員が整備された場所で受けることになっている。
そうして待つこと一時間ほど。ようやくネディス達の順番になった。
「入領の目的と人数を。」
「三人。目的は息子の適性の儀のためだ。」
「ふむ……見たところ不審なものはないな。よし。どうぞ。」
「ああ。有難う。」
父が主導して検問をしてもらった。
ネディスはあっけなく入れたことに驚いた。
本来なら検問時には接触による確認が入るのだが、今回は目的が明確であり人数も不自然ない状況。更には子供の顔立ちが両親と類似する点が多数みられたことから、問題ないと判断されたようだ。
「さっ、ここがインズィット領の領都だ。」
検問を抜け、開けた場所に出ると父が振り返りながらそういう。
目の前に広がるのは荘厳な建物。道もキチンと整備されており、飛び出た岩などは見られない。人の賑わいの様を見る限り、治安もさほど悪いわけではなさそうだ。多くの人が笑顔で生活している。
どうやらこの付近は検問の前ということもあり、わずかな露天が開かれ、建物は民家ではなく宿屋などの施設のようだ。
「ふわぁ……すっごい……」
ネディスは驚きのあまり語彙力が消失してしまう。
村長の家でしか見たことがないような建材で作られた建物や道。初めて見る大勢の人だかりに圧倒される。
「ほら、驚くのはいいがとりあえず宿を取ろう。」
父さんの昔よく行ってた宿があるんだ。と言いながら家族を連れ街に入っていく。
町中を進むと、少し年季の入ったこじんまりとした建物が見えてきた。
「ここが父さんが昔よく使ってた宿だ。値段も安いし防犯もしっかりしてる。何より飯がうまいんだ。」
そういいながら入っていく。
父の過去の姿を見られるかもしれないと、少しの期待を抱いてついていく。
「おう、らっしゃ……んん?おめぇさん、ラエフェか!?」
「おうおやっさん!久しぶりだなぁ!」
宿屋に入ると受付でくつろいでいた男が声を荒げる。
父の昔馴染みのようだ。
「いやぁ久しぶりだなぁ!仲睦まじい様子で何よりだ。体を見るに元気そうだが、後ろのはお前さんの息子かい?」
「おう。俺たちの自慢の息子、ネディスだ。」
突然矛先が向かってきたネディスは驚きながらも、挨拶を交わす。
「は、はじめまして。ネディスです。」
「おう初めまして。俺はこの宿の主だ。気軽におやっさんとでも呼んでくれ。」
なかなかいい肉体を持っている主人は、敢えて名前を言わなかったのか。ともかく獰猛な笑顔を見せ、そういった。
「んで、今日は何拍するんだ?」
「息子の適性の儀に来たからな、とりあえず二、三泊ってところだ。」
「あいよ。じゃあ部屋の鍵はこれな。飯の時間もいつも通りだから、覚えてるな?」
「もちろん。ありがとよ!」
そうして一家は部屋へと移動していく。