ショートコント「探し物」
「んー、ないなあ。この辺にあると思うんだけどなあ」
「何してんだ、ヒロシ。探し物か?」
「ああ、マサルか。いや、この辺に俺のスマホを忘れてたと思うんだけど、見つからないんだ」
「そうか。だったら俺も探してやるよ」
「え〜? 整理整頓出来なくて、しょっちゅう物をなくして探しまくってるマサルが〜? しかも大抵自分じゃ見つけられなくて、俺らが探してやる羽目になるマサルが〜?」
「俺はもう昔の俺じゃない。実はな、俺、スーパーパワーを授かったんだ」
「スーパーパワー?」
「そう。例えば、ここにあるコーヒーの空き缶にこう手をかざすとだな」
「うぉっ!? 手に空き缶が吸い付いた!」
「磁力を発生させられるんだ」
「すげー!」
「これで磁気カードを三枚ダメにした」
「磁力出しっぱなし!? 損害出てるぞ!」
「他にもな、電球と蛍光灯とLEDを持つだけで点けられる」
「全部光る原理違う気がするけど……。体帯電してないか? さわったらビリッとか行かない?」
「それは大丈夫だ。多分」
「その『多分』が不安なんだけど!」
「手から糸を出してビルの間をビュンビュン飛び回ったりも出来る」
「アメコミ界隈から怒られそうだぞ。それより、そんなパワーどうやって手に入れたんだよ?」
「感染症のワクチンを注射したら、こうなったんだ」
「それ本当にワクチン注射か? なんか違うもん注射されてない? どこで注射したんだよ」
「近所のマッドサイエンティストを自称するおっさんとこ」
「それ絶対違う注射だ! 大体なんで、そんな怪しい所でワクチン注射してもらってんだよ!?」
「いや、早くワクチン打っときたくて。タダでやってくれるって言うから」
「間違いなく実験台にされてるぞそれ! そんなわけわからん注射したのに、よく平気でいられるな」
「まあ、やっちゃったものはしょうがないし」
「呑気だなおまえ。まあいいや、探してくれるなら。でも、その力でどうやってスマホ探すんだよ?」
「俺の能力はこれだけじゃない。実は俺、脳内で携帯に電話をかけられるんだ。もちろんタダだ」
「携帯会社の商売あがったりだな」
「しかも5G対応だ」
「最先端!」
「脳内でソシャゲもやり放題!」
「おおー」
「調子に乗って課金しすぎたけど」
「おまえそのうち身を滅ぼすぞ……」
「まあそれはそれとして、おまえのスマホ鳴らすぞ」
「おう。……って、なんでおまえ、自分のスマホを出してるんだよ?」
「いや、おまえの携帯番号忘れたから」
「……それで直接電話かけた方がよくね?」
「まあ、いいじゃんよ。……ぬんっ!」
〜〜♪〜〜♪〜〜
「あっ、鳴ってる。この辺りだ」
「お、これじゃね?」
「ああ、これだ、俺のスマホ! ありがとうなマサル!」
「良かった良かった。じゃ、俺は行くわ」
「え? どこ行くんだよマサル」
「ちょっとな、旅に出ようかと思ってるんだ」
「旅!? またなんで?」
「俺にも探さなきゃならないものがあるんだよ」
「探し物か? 水臭いな、せっかくスマホを探してくれたんだ。俺も探してやるよ」
「いや、これは俺が探さないといけないものなんだ」
「一体何を探してるんだ?」
「実はな、この能力を得たのはいいんだが、どうやって活用すればいいのか全然わからなくてな」
「まあ、それぞれ使い道が限られそうな能力だからな」
「考えてるうちに混乱して、頭の中がぐちゃぐちゃになって。だから旅に出ようと思ったんだ」
「え、それって……」
「そう、『自分探しの旅』にさ」
ヒロシは思った。結局、今回もマサルには見つけられなくて、俺らが探してやる羽目になりそうだと。