召し2
あいかちゃんが中学生になると初等協会は卒業となり、私は今度は3歳の男の子にレッスンをした。
あいかちゃんの時とは違って、3歳の男の子のレッスンは大変だった。まず、話を聞いてくれない。私は子育て経験もなかったので、男の子が自分の手にペンで落書きした時も叱っていいのかもわからずにいた。(男の子のお母さんは、別のクラスのレッスンに参加していた。)
そして男の子は幼稚園に入園すると間もなく引っ越してしまった。
次に召されたのは、あいかちゃんが中学3年生になったとき、セミナリーの教師だった。
セミナリーというのは、中学3年生から高校3年生が受けるレッスンで、大抵は月曜日から金曜日の早朝に行われる。
早起きして学校に行く前に教会に行ってレッスンを受けるのだから、自分からやりたいと言う子はまずいない。(少なくとも、私は知らない。)これも親が熱心に送り迎えしてくるのだ。
中学や高校になると部活で日曜日教会に来なくなる子は多いが、このセミナリーは参加させられるのだ。
このセミナリーの教師は私だけではなく、他にふたり召されていた。ひとりはN兄弟で、もうひとりはあいかちゃんのお父さんだった。
初めてセミナリーが行われる日、その日はあいかちゃんのお父さんがレッスンをする日だったのだが、私もレッスンに参加した。N兄弟と宣教師も一緒だ。
あいかちゃんたちは少し遅れてきた。あいかちゃんはお父さんの後をしぶしぶ歩く。朝ということもあって、機嫌が悪そうだった。
あいかちゃんが席に座り、お父さんが前に立つ。前の方にはホワイトボードもあった。
私とあいかちゃん親子の他にN兄弟と宣教師も参加していた。
あいかちゃんのお父さんが質問をした。明らかにあいかちゃんに対して質問をしているのだが、あいかちゃんは一言も喋らない。代わりに宣教師が答えるというのが続いた。
このようにあいかちゃんがほぼ喋らないレッスンが続いた。これは私がレッスンしてもN兄弟がレッスンしても同じだった。
しかし、喋らないレッスンはまだましな方だった。それよりも最悪なことが起こるのである。
ある、私がレッスンする日のことである。その日、あいかちゃんとお父さんはなかなか教会に来なかった。いつも遅れてくるのだが、その日はいつもより来るのが遅かった。
始まる時刻を15分過ぎたとき。
お父さんが先に部屋に入ってきた。その後ろからしぶしぶあいかちゃんが入ってくる。
いつもと違うのは、あいかちゃんが泣いていたことである。
……えっ。泣くほど嫌がるのに、無理やり連れてきたのこの人。
そして、こんな雰囲気でレッスンするの、私。
戸惑っている私に、お父さんはしれっと言った。「遅くなってすみません。始めてください」
……は?この人、娘が泣いてるのに、レッスンの方が大事なの?
そう思ったけれど、正直に言えずに私はレッスンをした。
後日、お父さんに私は言った。
「無理やり連れて来なくていいですよ」
すると彼は、少し怒ったように、それが家の方針だ、とかそうすることが正しい、などと言った。
その後、同じようなことを聖餐会のお話しでも話した。
このお父さんは教会のことを一生懸命やるので周りからすばらしい兄弟だと思われているのだが、このお話しもすばらしいと言われていた。
私は全くそう思わない。だって聖典に「強制はダメ」って書いてあるもの。
私はその時から、このお父さんと距離を置いた。何を言っても無駄だった。
あいかちゃんはその後、高校卒業までは無理やり教会に連れて来られたけれど、高校を卒業してからは一切教会に来なくなった。