幼馴染みの告白
「だから、何も無かったんだって!」
「じゃあ、その手の傷は何!?」
結月の家に行った次の日の朝、金曜日。俺達は昨日結月の家にお邪魔した件で言い争いをしていた。
「あんた達、昨日の朝はあんなに仲良しだったのに今度はどうしたのよ?」
母さんは今朝も困惑している模様だ。
「その傷、結月ちゃんが本性を表したんじゃないの?・・・・・・あーん」
「だから、猫に引っ掻かれたんだって!・・・・・・ん、んま」
「相変わらずそれはするのね、、、、」
「だって明日から合宿だもん。短期だけど2日もお兄ちゃんに会えないから、喧嘩しながらでもお兄ちゃん成分補充しなきゃだし」
「と、ともかく何も無かったんだから、もう結月のこと不用意に疑うのやめろよ」
その瞬間、太ももに激痛が走った。温かい感触がじわりと広がる。
「いっっ」
なんとか声を押し殺す。
「なんで、お兄ちゃんはあの女を庇うわけ? もしかしてあの女が好きな人なの? てゆうかお兄ちゃんは私とあの女どっちを信じたいの?」
恐る恐る太ももを見るとフォークがグサリと刺さっていた。
「千紘です、、、」
「だよね?」
ヤンデレこっわ!俺じゃなきゃ傷も再生しないし声出して終わってるぞ。でも、、そこがいい。
「お母さん。お兄ちゃんがお茶こぼしたー」
そう言って千紘は母さんから布巾を受け取ると、俺の膝のフォークを抜いて、血を拭き始める。
昨日の引っ掻き傷は直ぐに治すと怪しまれるのでそのままにしているが、今回の傷は千紘以外知らないので即座に再生させた。
「まぁ、いいや。明日からはこれで我慢しよ」
千紘が布巾を回収しながら何か言っているがあえて何に使うのかは聞かないことにした。
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学校からの帰り道、今日も結月と二人で帰宅しながら談笑する。とは言っても何処にも寄り道せず、帰宅するのだが。
「へぇ、千紘ちゃん今日の夜から合宿なんだー」
「ああ、頑張るよな」
千紘はテニス部に所属している。後から分かったことだが、俺がテニススクールに所属していたことがきっかけで入部したらしい。
俺はスクールの頃、吸血鬼の体質のせいで色々と問題が起こって辞めてしまったが、千紘は俺が好きなものを自分も好きになりたいから続けていくらしい。
俺が千紘のことを語っていると、結月がとんでもない提案をしてきた。
「じゃあね、私たちも合宿しようよー!」
「は? いつ、どこで、何の?」
「今日、私の家で、動物に慣れよう合宿!」
いやいや、突っ込みどころ満載なんだけど。
「昨日行ったばかりなのにか? それに合宿って事は俺が結月の家に泊まるってことだろ? 流石にそれはヤバくないか?、、ほら、親御さんにも悪いし」
「小さいころはよく泊まってたじゃん!」
「今と昔は違うだろ、ほら俺達もう高校生だし」
「それに今日から月曜日まで、、私の家、親居ないんだ」
健全な男子高校生が聞いたら卒倒してしまいそうなセリフを言う結月だったが、その表情はそう言った色恋沙汰とは無縁の感情を物語っていた。
俺はこの表情を知っている。小さい頃から結月は寂しい思いをしていた。両親は医者で、忙しいために一人っ子の結月はいつも一人だった。そんな時、俺に見せるあの寂しそうな表情。
「わかった。しよう合宿!一回家に帰って荷物持ってくるから先に帰って待っててくれ」
そう言って家路を急ぎ、俺は駆け出した。
「断れるわけないだろ、、あんな顔されたら」
まるで今は居ない千紘に言い訳をするように俺は呟いた。
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「お邪魔しまーす。ごめん、遅くなったな」
時刻はもう7時を回っている。何を着て行けばいいかとか、荷物に悩んでたり、妹が出発する時間に被らないようにしていたら到着が遅れてしまった。
「いいよー、気にしないで!ちょうど今できたところだから!」
何がだ?と聞こうとする前に、リビングから美味しそうな香りが漂って来る。
手を洗ってからリビングに来てみると机には美味しそうな料理の数々が並んでいる。
「これ、、、結月が作ったのか?」
「そうだよー。いつも一人だから自然とね、、」
それにしても、スペアリブやフレンチオニオンスープなど素人の俺には分からないが、手のかかりそうな料理もある。
料理の腕前にも驚いたが、家に着くまでに2時間いくか行かないかぐらいの時間でこれだけの料理が作れるものなのか?もしかして準備していたのか?
「すごいな、旨そうだ。俺も頂いていいのか?」
「当たり前だよー。ほら、食べよ?席について!」
浮かんでいた疑問は、花が咲いたような結月の笑顔を前に沈んでいった。
「「いただきます」」
どれも美味しそうで何から食べていいか判らないが取り敢えず気になっていたオニオンスープからいただくことにした。
「う、うま!!飴色になってる玉ねぎが甘いと思ったらもう溶けて無くなってくる。お店に出せるレベルなんじゃないか?」
食レポなんて柄じゃ無いのにしてしまうレベルだわこれ。
「もう!とし君、大袈裟だよー」
でも、なんだかおかしな感じがする。本当にうまい料理ってめまいがするのか?
「なんだか、旨すぎて眠くなってきたわ」
「なにそれー。いくらなんでも褒め方が変だよー」
「そ、うか、、、、な」
結月が微笑んだ所で俺の意識は途絶えた。
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「え?とし君もう気がついたの? この薬、猛獣でも三日三晩眠り続けるんだけど」
気がつくと俺の頭上には、見慣れない、、、いや、覚えのある天井が広がっていた。
どうやら薬を盛られたみたいだ。吸血鬼は薬や毒と言ったものには強いが、抗体をもっていないと効果が出てしまうことがある。
「ここは、、、、? 結月の部屋?」
「そうだよー!ここは私たちの愛の巣」
そう。ここは小さい頃よく俺達が遊んだ結月の部屋だ。壁には小さい頃の俺達の、いや、俺の写真が無数に飾られている。
「ここは、今はお父さんが使ってるんじゃないのか?」
「ごめんね?とし君。あれは嘘。これからは私と、とし君の二人っきりでここで暮らすんだよ」
「は?結月、それってどういうことだって、え?」
ベッドに寝かされていた俺は起き上がり、結月を問いただそうとするが、身動きが取れない。どうやら俺は体に拘束具を付けられているようだ。
「どうしたの?とし君?落ち着いて。ほらお水飲む?」
そう言って結月が指し出してきたのは、、、、
「ほ、哺乳瓶!?」
「ほら、飲めますかー?」
「んぅ、んーーーーーぼぅ、もういいって!!」
「あーこぼしちゃったねー。今拭くから待ってて」
そう言って結月は俺の口周りを拭き取ってゆく。なんだこれ?ってかよく見たら、結月はナース服を着ている。結月の後ろの机には尿瓶も見える。
なんで、そんな物をと思ったら結月の両親は医者だったことを思い出した。
「おい、これ、本当に何なんだ?説明してくれよ」
すると結月はにっこりと微笑む。あの目だ。あの虚な瞳。千紘と同じ目をしている。
この時点で俺は千紘の言っていたことは正しかったと確信した。
「とし君はねーなにもしなくていいんだよ? ご飯もね、お風呂もね? トイレもね? そ、そう言うこともね? 全部私がやってあげるから」
「は?え?」
「学校も行かなくて良いんだよ。ずっと一緒に居ようね?」
これ、いわゆる監禁というやつじゃないか?全然、現実的じゃないのだか、そこの所どうするつもりなんだろう?
「でもね一つだけ、とし君にお願いがあるんだけどね?」
「なんなんだ?」
「私ね。小さい頃にね?とし君がケガした時に血を拭いてあげたんだけどね?その時の香りが忘れられないの。だからね、、、、、、」
「私に血を飲ませて欲しいなって」
やっぱりか、、、、薄々勘付いては居たが、、、
「ごめん、結月。それはできない」
しかし、結月には俺の拒否は届いていない様で、注射器を取り出すと身動きの取れない俺に詰めよってくる。
「はーい。とし君。採血の時間ですよー」
信じていたのに裏切られた悲しみ、怒り、千紘のことを信じられなかった事への後悔。
俺の中で様々な感情が錯綜するなか最後に残ったのはたった一つのシンプルな答えだった。
バブみがすごぉい