おかしいのはどっち?
「一旦、落ち着いて話し合おう」
俺は、千紘にそう切り出した。
今日は色々な事が起こりすぎている。朝、妹の真意を知り、それが妹にバレて、妹が兄を殺害。が、実は兄は生きており、兄は吸血鬼でそのまま妹を吸血。今は血まみれになった部屋を掃除している。
ざっと要約するとこうだが、もう聞いただけで頭がバグりそうだ。そして、それは千紘も同じだろう。
なかったことにしてしまいたいが、そうも行かないので、ここは一度落ち着いて話し合いたい。
「うん 」
千紘が生返事をする。
「おい、本当に聞いてるのか?」
先ほどの吸血の余韻がまだ残っているのか千紘は未だ心ここにあらずと言う感じだ。さっきから俺の血の付いた雑巾を眺めている。
「お兄ちゃんのちぃ・・・・・・」
「ああ、そう言うことか。千紘、後で説明するけど、ついてる血とか絶対に舐めたりするなよ」
「はぁーい」
ダメだ。もう今は何を言ってもムダみたいだな。
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部屋の掃除も取り敢えず終わり、千紘が落ち着きを取り戻した所で、俺達は俺の部屋でベッドに腰掛けている。
「それじゃぁ、まずお互いの事を知ろう」
「いいよ。でもお兄ちゃんも包み隠さずに全部教えてね?お兄ちゃんまだ何か隠してるでしょ?」
「ま、マジか」
「ほらね。言ったでしょ。何でもお見通しだって」
千紘に嘘はつけなそうだ。この際全て説明してしまおうか?迷う。
「じゃぁまず千紘から。いつから俺のこと好きだったんだ?」
「出会ったときからずっとだよ。私が7歳の時、小学校の入学式ではしゃいで車に轢かれそうになった時、たまたま通りかかったお兄ちゃんが命がけで庇ってくれたよね?」
「ああ、」
それは事実だ。まぁ、吸血鬼の運動能力と再生能力があったからやっただけで、もし俺が普通の人間なら絶対にしない。
「でもお兄ちゃんは意識不明の重体になっちゃってお医者さんは難しいって、でもお兄ちゃんは私の元に戻ってきてくれた。その後、お父さんとお母さんにお兄ちゃんと一緒に暮らしたいってお願いしたの」
「そうだったのか?」
「うん」
それは初耳だった。
「それからお兄ちゃんは外に出るのが怖くなった私の手を引いてくれた。私の閉ざされた世界をまた、広げてくれた。私にとってお兄ちゃんは世界そのものなんだよ?」
「お、おう」
「だから好き。愛してる」
「あ、ありがとう・・・・」
余りにもストレートな告白に少したじろいでしまう俺だったが、正直とても嬉しかった。だが
「あれは俺が吸血鬼で助かる算段があったからした事だ。命がけとか、そんな大層なもんじゃ無い」
「でも、私の手を引いてくれたし、それ以外にも私は照れ隠しとお兄ちゃんに本当の私がバレないために冷たく当たってたのにいつも私のこと気にかけてくれてた。それだけで十分だよ!」
「そうか、ありがとな」
「次はお兄ちゃんだよ?まずお兄ちゃんが吸血鬼ってどう言うこと?」
「ああ、俺は吸血鬼と人間のハーフだ」
正式には、ダンピールと言うらしい。
「加えて俺は高貴な血筋らしくてな。始祖、つまり最初の吸血鬼に近い血だ。だから、日光を浴びたくらいじゃ死なないし、人間と同じ食べ物で暮らしてゆける。千紘と殆ど変わらないな」
「へー以外」
「だけど、千紘にも気をつけて欲しい事がある」
「何?」
「二つある。一つ目は俺に血を見せない事だ。いくら始祖の血が濃いとは言え、血を見せられれば吸血衝動は抑えられない。吸血には中毒性があるんだ。下手をすると吸血無しでは生きていけなくなるぞ?」
「えーいいじゃん?お兄ちゃんと私はずっと一緒にいるんだからぁ?それは承諾しかねるなー。さっきは気持ち良かったし」
「そう言う問題じゃないだろ。はぁ、二つ目は俺の血を見ないことだ。吸血鬼の血も人を惹きつける力がある。加えて吸血鬼の体液を摂取した生物は、眷属になってしまう。汗とか唾液ならまだいいが、血とかそう言う濃いものはダメだ」
すると千紘は目を輝かせた。
「なりたい!お兄ちゃんの眷属! ずっと側にいるから、可愛がってね? それと眷属は私が最初で最後だよ?」
「ダメだ。絶対、ダメ!もうこの話はやめだ!もうないのか?質問」
「ちぇーお兄ちゃんのケチ!でも、気が変わったらいつでも言ってね?私、お兄ちゃんの為ならなんだってできるから?」
すると千紘の雰囲気が変わる。さっきの虚な瞳だ。場の空気は一気に緊張を帯びる。まるでここだけ重力が上がったみたいだ。
「じゃぁさ?私の気持ちに答えられないって、アレどう言うこと?」
「そ、それはさっき言っただろ?」
「違う!私は分かってるよ?あれ嘘でしょ?本当の理由教えてよ」
そこまでお見通しならもう仕方ない。洗いざらい話すとするか。
「っ!? わかった。それはな・・・・・・・」
重たい雰囲気が舌にのしかかる。それでも言葉を紡ごうとする俺を見て千紘が息を呑んだ。
「俺は千紘に異性である前に妹だと言ったな。あれは嘘だ」
「え?」
千紘の張り詰めた雰囲気は一転キョトンとしたものになる。
「俺は中学になってから日々可愛くなってゆく千紘のことを異性として気になっていた」
「へ?」
「でも、まだ良かったんだ。その時、いや今日までは。千紘は妹だ。と自分に言い聞かせる事ができた。だが、」
「ふぇ?」
「今日のアレはズルくないか!? 俺めちゃくちゃヤンデレ好みなんだよ!!」
分かってる。俺も言ってて思う。
これもうどっちがヤバい奴かわかんねーな。
投稿して半日で、日間ランキングに載ることが出来ました。これもひとえに、読み専の方・スコッパーの方・読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。