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紛い物


 「ええ?」


 「やっぱり、鼻の下伸ばしてたんだね。お兄ちゃん?」


 結月が目を覚ます前から千紘にはどうやら悟られていた様だったので、この際結月を安心させるために潔く言ってしまったがまずかっただろうか。


 「ごめん。もう我慢できそうにないや。殺っちゃうね?」


 まずかったわ。


 「ま、待て。ごめん千紘! わ、わかった! なんでも一つ! なんでも一つ千紘の言うことを聞くってのはどうだ?」


 すると千紘の虚ろだった瞳に一筋の眼光が宿る。


 「へーお兄ちゃん、なんでも一つ私の言うこと聞いてくれるんだぁ?何にしよっかなー、、、、、、まあ答えは一つに決まってるけど」


 まずい、あれは何か企んでいる奴の顔だ。事前に布石を打っておこう。


 「出来る範囲でだ。お前の告白を受け入れるとかはなしだぞ」


 「そんなこと言える立場なの? まあいっか。お兄ちゃんの気持ちは私が自分で振り向かせるよ」


 「ああ、そういうことで頼む」


 どうやらなんとかなったみたいだがこの後なにを要求されるのか。俺は恐ろしくなり身震いすると、告げられた真実に驚きつつも安心している結月に視線を向ける。


 「あの、えっと、とし君。さっきのはどういう事?」


 「そのままの意味だ。結月みたいな可愛い幼馴染だったら、自分のすべてを管理されてもいいかなって思ってしまったんだ」


 隣から歯ぎしりが聞こえてくるが無視して続ける。


 「ナース服と言い哺乳瓶と言いいちいちポイントが高い。一回本気で監禁されないか検討したよ」


 結月は顔から湯気を出して恥ずかしがりながらも恐る恐る訪ねてくる。


 「つ、つまりとし君は私にお世話されたいってことかな?」


 「ま、まあ、あの時はそう感じたな。最もあれは結月が俺の血でおかしくなってたから、、、、」


 「いいよ、、、」


 俺が補足しようとしていたところに結月は割り込む。


 「え?」


 「と、とし君さえよければ、私がとし君を・・・・・」


 その瞬間、千紘が何か言おうとしたが、この事は俺が告げなければいけないので千紘を遮り、結月にきっぱりと言い放つ。


 「ごめん。それはできない。俺には好きな人がいる。その人への思いにはその恋の結果が出るまで噓はつきたくない」


 「そっか。やっぱりさっき言ってた好きな人って言うのは私じゃないんだね。ちょっと期待してたんだけどなぁ」


 再び結月の瞳が潤い始める。しかし、希望の、いや、()()()()はまだ消えていない様だった。


 「で、でもね!それなら私も千紘ちゃんみたいに・・・・・」


 しかし、千紘もそこまで甘くない。


 「はいはい、結月ちゃんさっき自分で資格ないって言ってたよね?終わった女は引っ込んででね?」


 「お、おい千紘」


 「そんなことより、お兄ちゃん?」


 千紘に話し合かけるがそんなことお構いなしだ。


 「っ!? な、何だ?」


 「なんでも一つ言うこと聞いてくれるんだよね?」


 「あ、ああ出来る範囲でな。で、何なんだ?」


 千紘は嬉しそうに笑う。それはもう艶めかしく。


 「私を()()()?」


 「は?」


 「私に吸血して。今、ここで」


 「おい千紘。お前何言って、、、」


 吸血は催淫毒によって回数を重ねれば重ねるほど依存性が高まっていき最終的には一日に複数回吸血されないと満たされない体になってしまう。だからこれ以上吸血自体したくないのだが、それに加えて結月の目の前ですることで結月の吸血されたい欲求を刺激してしまう。


 恐らく千紘は結月に吸血を見せつけて、心を折り、あきらめさせようとしているのだろうが、はっきり言って逆効果だ。


 「じゃあ、交渉決裂かな?」


 千紘がハンマーを構える。ここは従うしかないか。ごめん結月耐えてくれ、そう心の中で結月に謝意を述べたところで、おれは覚悟を決めた。


 「わかったよ」


 千紘は上着を脱ぎ捨て、俺の首に両手を回し抱き着きながら耳元で囁く。


 「いいよ、お兄ちゃん。来て」


 千紘の一言が切っ先となり俺の理性が外れる。


 「んんっ!? 来たぁ! お兄ちゃんの牙が刺さってるぅ!」


 俺の瞳と脳内が紅に染まって行くのを感じる。やっぱり俺は人間なんかじゃない。実の妹にさえ、獲物として、毒牙をむき出しにしてしまうのだから。


 そんな消えゆく人間としての意識の中で俺が視界の端に捉えたのは、指をくわえて、ブルブルと震える結月だった。


 「ああ、と、とし君! わ、わたしもぉー!」


 結月が物欲しそうな顔で悲痛な声を漏らす。恐らく襲い来る吸血欲求に必死で耐えているのだろう。


 「自分にはお兄ちゃんと結ばれる資格はないんでしょぉ?もうあきらめるんでしょぉー? 黙ってみてなよぉー?」


 千紘が嘲笑う。


 「と、とし君! 私、おかしくなりそう! 耐えられない!」


 結月は髪の毛をむしり始め、目は血走り、唇を嚙みながら血と唾液を垂れ流している。


 流石にもう見ていられない。俺はそう感じると吸血鬼の本能に支配されていた意識が帰って来た。俺にもまだ人間を同胞を憐れむ気持ちがあるのだろうか。俺はまだ人間なのだろうか。


 「もう、終わりだ」


 俺は千紘にそう言い放ち、牙を抜く。


 「何でぇぇ!? まだ途中なのにぃ」


 「これ以上は、流石に結月の命が危ない」


 すると千紘はまるで仮面を付け替える様に恍惚な表情から虚ろな仮面に顔を変える。


 「この期に及んでまだ結月ちゃんのこと? 今度は私がシてあげる」


 そう言って千紘はおれの首を掴むが、まだ残っていた吸血鬼の本能が俺の口と体にを動かし、千紘を払いのける。


 「いい加減にしろ。図に乗るなよ? 人間ごときが」


 「ご、ごめんね。お兄ちゃん」


 ここに来て初めて千紘が俺に怯みを見せる。そんなに気迫があったのだろうか?


 「いや、今のは・・・・その・・・・・」


 「ごめんね。私が悪いから」


 千紘が急にしおらしくなる。これが吸血鬼本来の特性なのだろうか?


 少し考えていた俺だったが、今はそんなことより結月だ。結月はというと先ほどから項垂れて動かない。髪も乱れているので表情がよく分からない。


 「お、おい。結月」


 声をかけても返事がない。暫く黙り込んでいた結月だったが。


 「フフッ」


 笑い出した。


 「私、分かったんだぁ」


 「へ?」


 「人間は平気で噓をつく。勿論、私も。 とし君からは身を引くつもりだったけど、何かが切れる音がしたんだぁ。奪っても構わないって、そう思えたよ。」


 「ど、う言う意味だ?」


 顔をを上げた彼女は、もう楽しそうに笑っていた頃の面影は何処にもない。虚ろな瞳は深さを増し底なし沼の様で、ほんのり上気した頬と共に不気味なコントラストを彩っている。


 「だからねー?私は奪うよ? 千紘ちゃんから、とし君の好きな子から、とし君から、とし君を奪うよ? それが生きるってことだと思うから」



 おっっっっっっっもぉぉぉぉぉぉ。


 さらにその言動にさっきまでしおらしかった千紘までもが反応する。


 「分かった。それが結月ちゃんの選択なんだね? どうする?私はこのままやりあってもいいけど?」


 なんがバトル漫画のワンシーンみたいになっているが需要なんてないので今すぐやめて頂きたい。結月と千紘が見つめあっている。虚ろな視線が交じり合い、何処までも続く深淵は両者の間にブラックホールでも生成されたかのようだ。


 「私も別にしてもいいけど、やめとくよー。ここでやりあったら、とし君と結ばれる前に警察に捕まっちゃうからね。 だから私も千紘みたいにとし君にアプローチしていくことにするよー。 でも邪魔になってきたら・・・・・」


 「うん」


  「「殺り合おうね?」」


 こっっっわ。 ヤンデレVSヤンデレこっわ。てかそんだけ狂ってるのにそう言うところは、冷静なのか

ともうよくわからなくなって来た俺だった。


 「ところでさぁ?お兄ちゃん」


 「あ、ああ」


 いきなり話が振られてたじろいでしまう。


 「結局、お兄ちゃんの好きな人って結月ちゃんじゃなかったんだね。でもお兄ちゃん、私と結月ちゃん以外に知り合い居ないはずだよね? ホントにいるのかなぁ? お兄ちゃんの好きな人って」


 「どうなんだろうな」


 俺はどこか遠い目をする。


 「は? 意味わかんないんだけど?」


 俺にだってわからない。好きな()といっていいのだろうか。


 なぜなら俺の思い人は、



























              俺と同じ、()()()()()()()()()なのだから。





 

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― 新着の感想 ―
[一言] 紛い物…吸血鬼,あるいはその他生物なんでしょうかねぇ?
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