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妹の秘密


 「おはよう。ちひろ」


 「・・・・・・」


 帰ってきたのは沈黙だった。顔を伏せ目も合わせてくれない。


 俺の挨拶を無視するこの少女の名前は、住田 千紘(すみた ちひろ)。俺の妹だ。

 

 小さい頃は、「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」とくっついて来たものだが、中学に入ってからというもの高校1年生の現在に至るまでずっとこの調子だ。


 とは言っても原因はおそらくだが判明している。思春期というのもあるのだろうが、一番の理由は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺、住田 寿樹(すみた としき)は8歳までは身寄りがおらず孤児院で生活していたが、あることがきっかけで、この住田家に養子として引き取られた。


 「おい。目に隈ができてるぞ。テスト期間が近いのも分かるけど、夜更かしもほどほどにしろよ」


 「・・・・・うっさい」


 千紘がボソッとしているがそれでいて、深淵の底から発せられたかのような冷え切った声で返事をする。


 千紘は、俺と同じ高校に入学したばかりだが、入学早々可愛いと男子の間でしばしば話題に上がっている。艶のある黒髪のボブカットで、顔とスタイルの整った可憐な少女。それでいて学校では誰とでも分け隔てなく会話できる明るい性格らしい。男子新入生の憧れの人枠を独占しているほどだ。


 そんな千紘が目に隈なんて作ってきたら大変なことである。


 ただ、俺としては、たとえ仮初だとしてもかけがえのない家族の一人なので仲良くしたいのだが、そのあまりお節介をやきすぎてしまう癖がある。注意しなくては。

 

 千紘はまだ眠いのかそれとも、俺に朝から出くわしてしまったからなのか自分の部屋へと戻っていく。


 「俺も嫌われたもんだなぁ」


 「まあ、あの子もそう言う年頃なのよ、大人になったらまたいい感じの距離感に戻れるわ。だから気長に待ってあげて」


 そうぼやいていると、弁当を作っている母さんが片手間に俺を慰める。それもそうだと思った俺は席に着き、朝食の味噌汁をすする。アサリのだしがきいており体に染みたが、それよりも母の慰めの方が俺の心に染みていた。



*************************************



 あれから40分くらい経っただろうか、千紘は一向に部屋から出て来ない。通常ならまだ、もう少し時間の余裕はあるが、千紘はいつも友達と学校に行く。このままでは待ち合わせの時間に遅れてしまうだろう。すると、俺の心配通り、顔に焦燥を浮かべた千紘が部屋から飛び出してくる。


 「もーお母さん!起こしてよー!」


 そう言ってリビングの机に置いてある鞄を回収し、俺の前を横切ってゆく。その時だった。


 「・・・・・あんたも、挨拶なんてするくらいなら、起こしなさいよね。ホント使えない」


 ひ、ひどすぎる。てか、あんたって、、、、、。


 俺は兄の宿命に打ちひしがれていたが、その間に千紘はさっさと家を出ていった。


 それからしばらくしていよいよ俺も出ようと身支度をしていた時だった。


 「ねぇ寿樹。あの子ここに置いて行った鞄だけ持って行ったわよね?」


 「うん、そうだね」


 「じゃあ、あの子お弁当忘れていったわ!ここには入れてないもの。それに昨日部屋でやってた課題も忘れていったんじゃない? 寿樹、悪いけど学校であの子に届けてあげてよ」


 「まじか。千紘は絶対に嫌がるぞ」


 「じゃあ千紘が課題忘れて恥ずかしい思いをしてもいいのね?」


 確かに。大切な妹だ。皆の前で恥ずかしい思いをさせる訳にはいかない。


 「わかったよ」


 そう言って、渋々母から二人分の弁当を貰うと、千紘の部屋に課題のやってあるノートを探しに行く。普段は鍵が閉まっているのだが今日は急いでいて忘れていったのか開いている。

 

 不可抗力とは言え、妹の部屋に入るのは罪悪感があったが、もう何年振りなのか、暫く入っていなかった妹の部屋に少し好奇心がくすぐられていた。


 中に入ると、そこは想像通りの女子高生の部屋という感じだった。ベットには、大量のぬいぐるみ。微かに香る香水の匂いが鼻腔をくすぐる。ただ、一つ想定外だったのは、俺たちがまだ小学生の頃、仲の良かった頃の写真が写真立てに飾ってあったことだろうか。


 「あいつも何やかんや言って俺のこと家族だと思ってくれてるのかな?」


 とても心が温かくなったが、今は感慨にふけっている場合ではない。


 「おっと、課題のノート探さなくちゃな。これか?」


 そう言って一冊のノートを手に取る。中身を確認するため、最新のページを開いたがどうやら課題のノートではないようだ。


 「なんだこれ?、日記か?」


 他人の日記を盗み見るのは気が引けるが、なかなか俺に素顔を見せない千紘が普段何を考えているのかが気になってしまい読み進めてみることにした。


 が、読み終わるころ俺はこの日記を読んでしまったことを後悔するのだった。


 

_____________________________________


6月17日


 今日は朝からお兄ちゃんに心配されちゃった!!!

 

 そうだよね!私がお兄ちゃんに一番ふさわしんだから、お兄ちゃんに見合う女の子にならなきゃいけないよね!

 

 それに比べてあの女は・・・・・お兄ちゃんの幼馴染を名乗るあの女は・・・・・最近、いつもお兄ちゃんと一緒に帰ってる。お兄ちゃんの隣で!!!!!!


 そこは私の場所なのに!!!!!!!!!!!!!


 お兄ちゃんと歩くのも、お兄ちゃんと寝るのも、、お兄ちゃんと交わるのも、お兄ちゃんと生きるのも、()()()()()()()()()()全部ワタシ。


 貴方にも、誰にも渡さない。


 お兄ちゃんにおはようって返したい!けど我慢、我慢。


 お兄ちゃんにに付きまとうあの女を殺したいけど我慢、我慢。


いつか二人で暮らすため、誰にも邪魔させないため、、、、、、、、、、、


でも最近、ちょっと我慢の限界かもなぁぁ


_____________________________________


















 「やべぇこれ。ガチの奴だ」











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