18 久しぶりの家族と過ごす時間
公爵家夫人として、そしてフェルト出身の元・トップ聖女として。ティアラは無事、祖国における魔女狩り運動を阻止することが出来た。その代わり、解散を予定している祖国からの移住者を受け入れ活動をさらに、強化しなくてはいけない。
「毎日、ショップの経営や移民受け入れの話し合い……本当に忙しいですよね、ティアラ様は。我々スタッフは交代で休みをもらっておりますが、ティアラ様はほとんど休まれていないのでは?」
「大丈夫、こう見えてもまだ私、十代なのよ! 多少休みがなくたってへっちゃらだわ」
「いえ、ティアラ様は実年齢も見た目も十分若々しいのですが、やはり疲労は後々響きますゆえ。そろそろお休みを取って頂かないと……いや、明日から数日は有給消化のために休んでいただきましょう! それに、可愛いポメ君にもそろそろお休みが必要ですので!」
スタッフルームで、いつものようにサンドウィッチの軽食で済ませていたティアラ。連日働きづめのティアラを案じて、ついにスタッフの白魔法使いや応援のギルド受付嬢から有給消化を言い渡される。
「えぇっ? 有給消化って……やだ、もしかして私って有給を一度も使っていなかったのね」
「きゃうーん」
ポメと顔を見合わせて、働きづめだったことを反省するティアラ。そのような話の流れで、ポメと一緒に数日の有給を貰うことになった。
* * *
久しぶりにハルトリア公爵邸に戻り、夫のジル、義妹のミリア、義兄のバジーリオ、義父にあたる大公様ら家族と共に夕食を囲むことに。プライベートな会食であるため、ドレスコードを必要以上に意識しないで済む平服による気軽な食事会だ。
「しかし、家族揃って食事会なんて久しぶりだね。ティアラさんもジルも……それにポメ君も移民受け入れの仕事で走り回っていたが、まだ先は長い。この辺りで一旦休んで、英気を養ってくれたまえ」
メインの牛ステーキはもちろん、ハルトリアの魚介類をふんだんに使ったスープ、パスタやサラダ、パエリアも今ではティアラにとって故郷の味である。トマトとバジルのオーソドックスなチーズたっぷりのピッツァは、ハルトリア邸シェフ自慢の逸品。
家族の会食ということでペットである幻獣ポメも同席し、メイドさんお手製の幻獣用スペシャルフードに舌鼓を打っている。普段はカロリーの関係で控え気味の【くるみ】付きで、ポメも満足そうだ。
初めてこの国を訪れた日も慣れないティアラをもてなす為、食事会を開き受け入れてくれた。そのことが、つい最近のように思い出される。
「ねぇ、ティアラお姉ちゃん。これからもっとフェルトの移住者が増えるんでしょう? 私にもお手伝い出来ることある?」
「そうね、移住者の中には子供もたくさんいるの。ミリアちゃんより、ちょっと歳下の子や同い年くらいの子達に、ハルトリア文化を説明するボランティア役が必要だったから。お願いしようかしら」
「ふふっ。一応、これでも公爵家の一員だもの。説明役は任せてね」
魔法使いを目指す義妹のミリアは、初めて出会った時よりも随分としっかりとしてきた。すると頷きながら会話を見守っていた義兄のバジーリオが、向かいの席からティアラを見つめて一言。
「近頃ずっと忙しかったから、ティアラさんの美貌に翳りが出てしまったら……と不安になっていたが。元気そうで何より、流石に若い人は違うね。でも、無理しちゃダメだよ。僕もそろそろ、アンチエイジングにチカラを入れないと」
「ありがとう、バジーリオさん」
相変わらず女性を口説くようなイケメン特有の甘いボイスで、ティアラに接するバジーリオだが、内心は働きづめのティアラを心配していた様子。
「兄貴もついに、アンチエイジングか……。オレもティアラくらいの年齢の時は、休みの日は寄宿舎に籠もってられなくて出掛けてばかりだったし。あの頃は良かったよ」
「そうだよ、ジル。失念しがちだが、十二歳も年下のお嫁さんを貰ったんだ。お前もうっかりしてると、ティアラさんと見るからに歳の差カップルと呼ばれる日が来ちゃうから、アンチエイジングに励むように!」
すると会話を聴いていたのか、チョコチョコとポメがジルの席まで寄ってきて……オヤツの【くるみ】をコトンとジルの手元に置いていった。
「あ〜ハイハイ。分かりましたよ! ってポメ、お前……オレにこの【くるみ】でアンチエイジングしろと?」
「きゅいーん、きゃうん!」
クリクリした瞳とふさふさの毛並みで、ジルを見つめて自慢げなポメ。おそらくこの【くるみ】が、ポメお勧めのアンチエイジングフードなのだろう。
「あははっ良かったね、お兄ちゃん。ポメはアンチエイジングの達人なんだよ。幻獣は、何百年も生きられるんだから!」
「何百年? このちっこいのが……まさか! でもまぁ有り難く、アンチエイジングフードは頂くけどさ」
冗談を交えながら食事の時間は過ぎていき、やがて空に星が輝く時刻となった。ティアラは久方ぶりに心の安らぎを得て、その日はベッドに潜ってすぐに眠ってしまった。
――夢の中で誰かが呼びかける声に、意識を目覚めさせるその瞬間までは。




