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追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る  作者: 星里有乃
旅行記6 もう一人の聖女を救う旅
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06 精霊魔法使いの青年と魔女姉妹


 雨がひどく降りしきるある日、精霊国家フェルトから魔法道具の買い付けにやってきた『精霊魔法使い……即ちドルイド』の青年が、魔女姉妹の家で雨宿りをすることになった。ザァザァとした雨音は次第に強くなり、今日はもう止むことはないだろうと想像がつく。


「先ほどお会いしたばかりなのに、雨宿りさせて頂けるとは思いもよらなかった。申し訳ありません、うちのポメーラまで休ませてもらって」


 金色の髪に優しげな目元の青年は、ポメラニアンによく似た幻獣を一匹連れていた。正確には子犬にような幻獣が濡れ細っているのを心配して、魔女姉妹の姉がドルイドを家へと招いてしまったのである。


「ふふっ。私はこのポメーラちゃんが、びしょ濡れになるのを見てられなくてこの家に招いたのよ。ほらポメーラちゃん、タオルで身体を拭きましょうね」

「きゅいーん!」


 プルプルと濡れた毛を必死に乾かそうとする幻獣を優しくタオルで拭いてやり、風邪をひかぬように暖炉の前で温めてやる。すると来客が来たことに気づいた魔女姉妹の妹が、珍しく男性を家へ招いたことに驚いて声をあげた。


「まぁティアお姉ちゃんが男の人をうちに招くなんて、珍しい。もしかして、カレシさんとか? あれっでも、隣村の魔法教師の求婚は断っていたわよね」

「もう! クロナったら、すぐに何でも恋愛の話に変換したがるんだから。私はこの幻獣ちゃんを雨から助けようとして、飼い主さんとも知り合ったのよ。自然の流れでこうなったの」

「えぇっ? その犬って幻獣だったの、どう見てもポメラニアンじゃん。あれっでもおでこに綺麗な宝石が付いてる。うちのルンと同じカーバンクルなのかなぁ」


 既に魔女姉妹の家では使い魔の黒猫ルンが飼われており、実のところルンも黒猫によく似た幻獣であった。カーバンクルは額に宝石をつけた小動物であることが原則で、犬や猫はもちろん、ウサギやリスに似たカーバンクルも存在する。魔力を秘めた宝石が何かしらの小動物の肉体に宿り、幻獣となるため見た目上は種族に幅があるのだ。


 幻獣のお客さんに興味が沸いたのか、ルンもぴょっこりと隣の部屋から現れて『みゃあん』と柔らかく鳴きながら歓迎してる。


「おや、妹さんかい? 可愛らしいね。初めまして僕の名はミゼルス、精霊国家フェルトの魔法使いで、普段は魔法グッズのショップを運営してるんだ。このポメラニアン似の幻獣、ポメーラと気ままな旅をしている。よろしくね」

「魔法錬金師のクロナよ! まだ子供だって馬鹿にする人もいるけど、私の作るグッズは超一流なの。ねぇ、フェルトでお店をやってるなら、アタシの作る道具も置いてみない?」

「クロナちゃんは、随分としっかり者だね。どれどれ、ほう……錬金自動料理鍋か、先進的で凄いな」

「でしょっもっと褒めてっ! うふふっアタシ、ミゼルスお兄ちゃん大好きっ!」


 気さくなミゼルスに妹クロナも驚くほど懐き、ミゼルスと幻獣ポメーラは魔女姉妹の家でしばらくお世話になることになった。これまでは姉妹二人暮らしで男手がなかったが、ミゼルスが来て家の雰囲気が変わっていった。次第にミゼルスと姉のティアは恋仲となり、クロナも『表向きは』二人の結婚を喜んだ。


 だがミゼルスの滞在期間に限界が来て、帰国をしなくてはいけなくなる。


「ミゼルス、やっぱり帰ってしまうの? やだわ、離れたくない……」

「一旦、フェルトに帰らなきゃ行けないけれど、結婚式を挙げるためにもう一度ここに戻るから。ティアはクロナちゃんの面倒を見なきゃいけないし、しばらくはここで以前みたいに暮らして……」


 当時は飛空挺がまだ発達しておらず、フェルトへは海路と陸路を両方使わなくてはいけない。


 分かっていたつもりの別れが、永遠の別れに思えたのかティアはポロポロと涙を流し始める。とはいえティアはまだ十三歳のクロナを置いて、フェルトに移住することは考えられなかった。三人でフェルトに移住することも検討されたが、移住権が発生するのは妻となるティアだけで、妹のクロナの移住は不可能だった。


「……行けば、いいじゃん。アタシ、そんなに子供じゃないし、お姉ちゃんのお荷物になりたくない」

「えっ? クロナ、駄目よ。あなたはまだ子供だし、とてもじゃないけど一人でなんか……」

「もうっ! だから、子供じゃないって言ってるでしょっ! お姉ちゃんの……バカッ」


 怒って自室へと閉じこもってしまうクロナに、ティアは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ティアがクロナを子供扱いすればするほど、クロナの自尊心は傷ついていき、やがて姉妹の間に小さな溝が出来ていく。


 ――そして、まさかクロナもミゼルスに淡い恋心を抱いているとは……。この時、ティアとミゼルスは夢にも思わなかった。


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