05 そのページを捲るとき
伝説の魔女姉妹に関する記述は、それほど多く残されていない。ティアラは姉妹が暮らしていたとされる民間を改装した郷土資料館に足を運び、ようやく一冊の書物を手に入れた。
貴重品のため本来は貸出しない本らしいが、魔女狩り防止活動を支援したいと、郷土資料館の管理人が厚意でティアラに貸してくれたのだ。
「管理人さん、こんな貴重な資料を貸していただけるなんて、ありがとうございます。写本を作ったらすぐにお返ししますね」
「いやはや、これも何かの縁だろう。まさかフェルト出身の聖女様が、伝説の魔女姉妹のお姉さんの方にそっくりだとは。まぁそっくりと言っても、記述に似ているというだけだが……きっとその書物も、ティアラさんに読んでもらいたくてここで眠っていたのだろう」
「ふふっそうだと嬉しいです。この書物の写本をリメイク版として発行して、魔女狩り防止活動の一環に出来れば、姉妹も喜ぶかも知れない」
年代物の伝記は今こそ作者不詳だが、リメイク版という設定でなら発行しても良いと許可が下りたのである。これから写本を作り魔法グッズ管理会と連携し、発行までの準備に取り掛かる。手探りで始まったティアラの魔女狩り防止活動は軌道に乗りつつあった。
「では公爵様、ティアラ様、また来週お待ちしております」
「ええ、また」
宿泊している宿に戻るためにバス停で待つティアラとジル、そしてポメ。トントン拍子に話が進んだものの、これから写本作りを行わなければいけない。
「ティアラ、この伝記を現代の魔女狩り防止の啓発書として発行するんだろう。段取りはだいたい決まっているのか」
「ええ、ジル。まずは写本を作ってそのあと魔法グッズ管理会の方で、装丁や発行時期の相談するの。ショップの開店まで、間に合うと良いんだけど」
気がつけば夕刻の陽が田舎の街に降りてきて、二百年前もこの夕焼けを姉妹が見たと思うとティアラは不思議と胸が熱くなった。
(私のルーツかも知れない伝説の魔女姉妹、一体どんな生活をしていたのかしら?)
宿に戻りティアラがそのページを捲るとき、まるで記憶が蘇るかのように伝記が動き出した。
* * *
今からおよそ二百年ほど前、魔女発祥の地イングリッド北西の村に美しい姉妹がいた。
姉は銀色の髪が特徴的な優しい娘で、未知の回復魔法を使いこなした。いつしか彼女はその不思議な治癒能力から『白の聖女』と呼ばれるようになる。北西の村に住む人々は、怪我や病気に悩むと『白の聖女』の元へ行き治療をしてもらうのが普通となっていた。
「白の聖女様はオレ達貧困の者にも無償で治癒魔法をかけてくださる。ありがてえ話だ……もちろん、回復して金が入ったら何か礼はするつもりだが」
「この間なんかは、かなり酷い子供の怪我をリンゴ一つの報酬で治したそうだよ。人が良いというか、何というか」
「我々村人にとっては、本当に聖女様のような娘だが、悪いやつに恨まれなきゃ良いけどね」
人が良すぎるのが玉に瑕の白の聖女には、強い黒魔法の使い手である妹がいた。姉とは違いお人好しというほどではないが、妹が作り出す魔法道具は家事や日常に潤いを与えてくれるため貴重な存在である。
ずっと一緒に暮らすと思われていた姉妹だが、姉に恋人が出来て二人の道は大きく分かれた。