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追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る  作者: 星里有乃
旅行記6 もう一人の聖女を救う旅
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03 伝説の姉妹にルーツを感じて


 バスの中で感慨に浸る間も無く、宿泊施設が併設されている大型薬草園に到着した。資料館は錬金術やハーブに関心の高い人なら、思わず何時間でもいられるほどの薬草サンプルも見学出来るという。魔女の見習いらしきとんがり帽子の少女や、魔道士の家族連れもチラホラ。

 それなりに綺麗な場所でホッとする一方で、予想外の賑わいに驚いてしまうのも事実だ。


「ここが私達がしばらくお世話になる宿泊施設ね、アロマ用の薬草園と一緒みたいだけど。想像していたより、ずっと立派だわ」

「ポメと寝泊りできる宿泊施設はここだけらしいが、随分と洒落たところじゃないか。これだけ広い敷地と素材があれば今後はもっと伸びそうだがな」

「そうね、一般旅行者もチラホラいるし、それなりにオープンな土地柄みたい。魔女狩りが数年前に行われたなんて、嘘みたい」


 アロマテラピーのためのローズマリーやカモミールの花畑が美しい宿泊施設は薬草園に併設されているもので、敷地内の散策も可能。花々を育てながら養蜂も行っており、気がつけば蜜蜂がふわふわと花の周辺を舞っている。


「くうーん」

「ふふっポメ、蜜蜂のお仕事を邪魔しちゃだめよ。さあ、建物の中に入るから……来て」

「きゃうん!」


 珍しく蜜蜂に気を取られて入りポメを促して、薬草園を抜けてペンションの中へ。受付付近の売店にはフェアトレードの対象となる使い魔用のブラシや、滋養に良い甘い蜂蜜なども販売中。他の宿泊者がお土産を片手に買い物中でそれなりに観光需要もあり、一見すると平和に見える。


「よし、まだチェックインまで時間があるから、荷物だけ預けて食事としようか。ポメが一緒に食べられそうなところは、外のテラス席か? あれっ外で食べられるタイプの飲食店は二軒あるのか」

「これだけ大きな宿泊施設ですもの、レストランも二軒くらいあって当然なのかも。薬草園自慢のハーブを用いたメニューが自慢のレストラン。ねぇジル、こっちにしましょう」



 * * *



 魔女の故郷という土地柄、宿泊施設には使い魔連れでも飲食可能となっているレストランが二つ。田舎料理専門店と薬草料理専門店の二種類あったが、そのうちの薬草料理専門店を選ぶことにした。

 テラスからは薬草園に咲く季節のハーブの花畑を眺めることができ、日差しも温かく心地よい空間だ。


「いらっしゃいませ、本日のオススメランチは魚の香草焼きとコテージパイのセット、薬草ポトフ付きです。ハーブティーやデザートはお好きな種類から選べるようになっております。使い魔ちゃんにもランチセットをご用意しておりますので、是非」


 素朴な若草色のワンピースに白のシャツという田舎風メイド姿のウエイトレスが、メニューの説明をしてくれる。写真付きのメニュー表には、使用されている薬草の効用などが記載されていてティアラの好奇心をくすぐる。


「わぁ……ほとんどのメニューにここのハーブが使われているのね。素晴らしいわ! せっかくランチタイムに来たわけだし、本日のランチがいいかしら?」

「そうだな、この辺りの名物だっていうコテージパイにも興味があるし。デザートは自分で選ぶのか……どれどれ」


 選択式となっているデザートセット一覧を見ていくと、『魔法のりんごケーキとハーブティー』や『猫使い魔のチーズケーキセット』など、この辺りの御伽噺をイメージしたセット名が付けられていた。その中に一つだけ、とても気になるものを発見する。



『白の聖女と黒の魔女のケーキセット』

 今から二百年程前に実在したとされている聖女と魔女の姉妹伝説をモチーフにした『コーヒーゼリーとクリームケーキの二層ケーキセット』です。姉である白の聖女の子孫は外国に渡り、ドルイドにそのチカラを伝えたとされています。また、妹である黒の魔女の子孫は北西魔女地域に残り、今でも魔女文化を伝える活動をしています。



「この辺りに伝わる姉妹の伝承……これって、何だか私やクロエと被る気がするわ。気のせいかも知れないけれど、聖女のルーツのような気がするの」


 当たり前だが現在のティアラとクロエは姉妹でもなければ、親戚関係ですらない。だが二百年前の遠い昔に、共通の先祖があってもおかしくはない。ティアラの母方の家のルーツはこの辺りの魔女地域にあるようだし、クロエはずっと魔女地域で育った少女だ。


「ああ、オレも少しそう感じたよ。それに魔女狩り防止運動をしたければ、姉妹の伝承について知っておいた方が説得力がつくだろう。今回の旅の目的……どうやら本決まりだな」

「えぇ! でも、取り敢えずは腹ごしらえが先よね。ふふっ薬草料理、楽しみだわ」


 しばらくして運ばれてきた薬草料理の数々は、心と身体に染み渡るような優しい香りが漂っていて。ティアラは自分の中にこの土地がもう一つの故郷として刻まれているような……そんな予感がしてならないのであった。


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