07 聖女は等しく運命を辿る
「ふんっ。偽聖女ティアラのヤツ、なんだか妖しげな男から、列車の乗車チケットなんて貰っちゃって。一体、何なのかしら!」
遠隔魔法でティアラを見張っていたクロエは、水晶玉を一旦停止してデスクの席から立った。
追放された聖女がその後どのような人生を歩むのか、興味本位で見張っていただけだが。それなりに順調そうな旅路に、見ていてイライラし始めたのだ。
「如何なされましたか、クロエ様。本日は、王太子様とディナーのご予定。そろそろドレスアップを致しましょう」
お付きのメイドがクローゼットを開けて、クロエのドレスを準備し始める。聖女は魔力を捧げる祈りの儀式の他に、王太子に付き添い食事の席に華を添える役割がある。
これまで食事会の付き添いは、聖女ティアラが行なっていたが、本日よりクロエがそのポジションだ。
「そっか、今日は大事な食事会なんだっけ。くだらないことに気を持っていって、危うく準備を怠るところだったわ。ティアラのヤツ犬を引き取っていたから、あの犬の元飼い主かなんかが列車のチケットをくれたのね」
「もしかすると、退任された聖女様を気になさって」
メイドは淡々とした口調だが、心なしか笑顔が張り付いている。
「うん。ここの王宮を辞めた聖女の足取りって、分からないものが多くて……」
クロエが続きを言おうとした瞬間、メイドの手が『ギュウゥッ』とクロエの肩を掴んだ。『これ以上、その話をするな』ということだろう。
「本日は、肩を出さないドレスに致しましょう」
突然の痛みに驚きながらも、クロエはこの場所が『精霊国家フェルトの王宮』という閉鎖空間であることを思い出す。例えば、クロエが今日のうちに人知れず死んだとしても、いくらでも隠蔽出来るのだ。
危険と隣り合わせなのは、追放された聖女ティアラだけでなく、同じ聖女の自分も等しい運命なのだと。クロエはようやく、認識するのであった。