11 伝統料理で魔女達の故郷を知る
運命を変える占いを受けた日から一夜明けて、ついに本格的な研修が始まった。
魔法グッズ管理会本部の研修は、基礎的な経営ノウハウや接客マナーに加えて、魔法使い業界の暗黙的ルールを覚えることだった。今週の新規開業者はハルトリア夫妻のみのため、じっくりと学ぶことが出来る。会長の魔女ベルベッドから直接指導されつつ、これまで知らなかった知識を増やしていく。
「ロンドッシュ系の魔法使いは、占星術や占い学で行動を決めている者も多いの。だから季節ごとに星の動きに合わせたグッズを販売すれば、需要と供給が噛み合うと思うわ。あと伝統的なお守りとして【うさぎのグッズ】をすごく重宝するから、来店する魔女達がいろいろなグッズを身につけていても驚かないでね」
「うさぎのグッズ、ですか。確かにハルトリア人の中には、リアルファーを嫌がる人もいますし。けど素材としては、供給することになりそうだわ。何か代わりのものがあると、良いんだけれど」
資料として配られた書類には、うさぎの足とされる『ラビットフット』なるお守りが、人気グッズとして紹介されていた。可愛らしいうさぎがお守りのために命を奪われるのは、慈善活動の妨げになる気がして気乗りしない。
すると受付兼助手の魔法使いが、すかさずティアラに新商品を紹介してきた。昨日はジルにもフェアトレードの使い魔用ブラシを勧めていたし、商売上手な様子。
「あぁそれでしたら、輸出向けに最近製作しているイミテーションのラビットフットを導入されては如何でしょう? 若い世代はリアルファーを嫌がる人も多く、お守りとしても効果があり需要が高まっている商品です」
「まぁこれなら、うさぎ達の命も守れるし安心して提供出来るわ」
ホッとして見本のイミテーションを手に取るティアラとジル、ふと思い出したようにジルが魔女狩りの伝承について語る。
「うさぎの足の類は、古いタイプの魔法使いが愛用しているらしいが、魔女狩りの根拠にもなっているって言われているそうだ。確かにイミテーションものを増やした方が、魔女狩り防止の活動に説得力が出ると思うぞ」
「そうだったの、けれど魔法グッズ管理会もこうしてイミテーションを作ったり努力しているのだから。次第に魔女に対する誤解も、なくなるわよね」
こうして販売商品の検討をしながら研修は続き、無事に初日の研修日を修了。
「本日は研修お疲れ様でした。我々はまだ管理のお仕事がありますが、ジルさんとティアラさんは観光がてら、この商店街で夕食を摂って行かれたらどうですか?」
「昨日はホテルの食事だったらしいけど、ロンドッシュ伝統料理のお店にも是非挑戦して欲しいわね。それも勉強の一つよ……伝統料理で故郷を知るの」
「そういえば、旅行案内のはフィッシュアンドチップスが載っていたのに、まだ食べていなかったわ。助言ありがとうございます、ベルベッドさん」
ベルベッドに促されて、伝統料理をまだ食べていないことに気づくティアラとジル。この辺りの飲食店は使い魔を連れた魔女に対応しているため、小型犬タイプの幻獣ポメを連れていても入店可能だ。
「パンフレットにオススメ店が載ってるぞ。フィッシュアンドチップス専門店、コテージパイやスコッチエッグなどの郷土料理が自慢の店、ローストビーフの有名店。随分とたくさんあるな」
「うふふっ私ね、フィッシュアンドチップスを、モルトビネガーとタルタルソースで食べたいのっ。田舎料理のコテージパイやサラダも一緒に。そして、お休みの日はローストビーフにしましょう!」
「ははっ。予定が盛りだくさんだな、じゃあ今宵はロンドッシュ伝統料理で乾杯だ!」
狭い路地を行き交う魔女達に紛れて、夫婦と幻獣は今宵の晩餐へ。
伝統料理で魔女達の故郷を知るとは粋な考えである。ロンドッシュ名物フィッシュアンドチップスは、甘酸っぱいモルトビネガーとタルタルソースの調和でたまらない味わいだったという。




