10 同じ未来を夢見るために
魔法文化を守り魔女狩りの哀しい歴史に終止符を打つべく、ティアラは慈善家を目指すことにした。故郷フェルトにて聖女クロエを魔女として断罪することが、未来予知によって確定したためだ。
例え因縁深い相手であろうと追放された故郷であろうと、これ以上フェルトという国が哀しみに満ちていくことをティアラは見過ごせなかった。
「最後に魔女狩りが行われたのは今から三年前、水晶玉を介して見えた映像が本物であれば聖女クロエの母親が最後の被害者よ」
「クロエのお母さんが断罪されてから、まだ三年しか経っていないのなら、魔女狩りを実行した団体もまだ生き残っているはず。クロエがああいう性格になったのも、弾圧されていたからなのかも」
魔女ベルベッドの情報によるとティアラの予想よりもごく最近に行われた魔女狩りに、ティアラは一瞬言葉を失う。断罪者の娘であるクロエがどのような暮らしをしていたのかは想像し難いが、クロエが常に警戒心と人を疑うような態度をしていたのにも合致がいく。
「今どき魔女狩りという行為そのものが、現代では珍しいことだもの。慈善家としては、魔法文化の保護活動の一環で魔女狩り防止もすることが出来るわ。特に貴女の使っている魔法は、ロンドッシュの魔女文化とは多少異なる古代フェルト独自のものですもの。貴女自身のルーツを守ることにも繋がる」
「私のルーツ、精霊国家フェルトでのみ行われていた自然力の魔法のことですよね。確か他所の国の人々はフェルトの魔法使いのことを【ドルイド】と呼んでいた。もしかすると失われるかもしれないドルイドの文化も後の世に伝えられたら、この活動がフェルトの移住者達にとっても意義のあるものになる」
ほぼ今後の方針が本決まりになったが、夫のジルにこれからのショップ運営や慈善家活動について報告しなくてはいけない。
(ショップ運営についてはかなり協力的なジルだけど、慈善家として生きていきたいという私の目標を果たしてどう感じるかしら)
ティアラはふと不安になったが、自分が好きになった男性なら心根の部分を理解してくれると信じて、想いを素直に打ち明けることを決意する。
* * *
ジルの待つ魔法グッズ管理会本部一階へと戻ると、受付魔法使いの男性とジルが木製のブラシを手に何やら盛り上がっている様子。
「どうです、この北西魔女地域特製のブラシをワンちゃんに使ってみては? ポメラニアンの毛並みがツヤツヤになること請け合いですよ」
「へぇ使い魔用のグッズがこんなに生産されているとは、流石は魔女文化の本拠地ってヤツだな。よし、せっかくポメを飼っていることだし、これも何かの縁だ! この北西魔女地域の生産品を提携して、発注しよう。売り上げの一部を魔女狩り防止の資金として寄付すると、慈善活動としてもいいだろう。今から魔女狩りを廃止すれば、うちの妹の将来も安心だ」
「ジルさん、実に素晴らしい心がけです! 妹さんが本格派の魔女を目指しているとはいえ、なかなか出来ることではありませんよ」
ティアラの聞き間違いでなければ、ジルの口からハッキリと『売り上げの一部を魔女狩り防止の資金として寄付すると、慈善活動としてもいいだろう』との提案の声。
よく考えてみればロンドッシュ周辺地域の生産商品を輸入して販売するのだから、魔女文化とは切っても切れない。妹ミリアの将来を憂いてのことだとしても、自然と寄付や慈善活動に気持ちが向かう人は珍しいだろう。
「おっ……ティアラ、占い終わったみたいだな。そうだ、良い商品が見つかったんだ。北西魔女地域で生産されている使い魔用のこのブラシ、うちのショップにも輸入するといいんじゃないかって。もちろんフェアトレード扱いで売り上げは一部寄付してさ、魔女狩りの歴史に終止符を打つ手伝いも出来る」
「ええ、とても素敵な提案だわ! 実はね、私もジルに報告したいことがあるの」
結局、対照的なようでいて似たもの同士が夫婦になるのだと、ティアラはこの日実感するのであった。二人で同じ未来を夢見るために。