04 芽生えるオーナーの自覚
「ティアラさん! ついに錬金魔法ショップ開業を決心なされたのですね。我々魔法系ギルドも、新たなお店のサポートをさせて頂きますので」
満面の笑顔でティアラの開業決定を祝うのは、魔法グッズ管理会の案内書を手渡してくれたギルドの受付嬢だった。
基本的にギルドという組織は、会員となっているプロ魔導師にのみ商品を販売する組織である。ティアラのようなギルドメンバーが個人の店舗を持つことで、間接的に外部の運営に関わることは許されているらしい。
「えぇ、よろしくお願いします。それで、お店では魔法グッズの取扱いだけではなく、占いコーナーを設けるのが一般的だと聞いたのですけど。ギルドで占い師の紹介って、してもらえますか?」
「もちろんですっ。当ギルドの占い師はフリーの者が多いため、日替わりでシフトを組めばバラエティに富んだ占いを提供できますよ。しかし、これまでは観光と距離を置いてきた当ギルドのメンバーも、観光業に進出出来るとは……ワクワクしますっ」
俗に言う人材派遣の形式で占い師をギルドから雇い、店舗の占いコーナーを盛り上げてもらうことになった。エリアマネージャーとの話し合いの結果、観光地という立地において錬金魔法グッズのみならず、占いなどの参加コーナーを設けた方が集客が良いとアドバイスがあったためだ。
さらに店員もギルド所属の魔法使いが数人、応援メンバーとして働いてくれると言う。故郷フェルトから移住してきた顔見知りの魔法使い達も加わる予定で、意外なところで再びフェルト時代の仲間と働くことになった。
錬金魔法ショップ・ティアリィの店舗計画は以下の通り。
一階:錬金魔法グッズ、お土産各種、魔法ギルド公認占いコーナー
二階:冒険者向け装備品、魔法書籍、ギルド出張所
三階:魔法グッズ管理会ハルトリア支部事務所、スタッフ休憩スペース
四階:錬金工房、素材ストックルーム
五階:オーナーの臨時居住スペース
(ハルトリア家が思ったより大きな建物を所有していた関係で、雑貨屋というより魔法グッズのビジネス集合ビルになったちゃったけど。ギルドや魔法グッズ管理会から貸しスペースの賃料をもらう事になったし、まぁいいわよね)
もともとハルトリア一族が所有していた建物のため、ビルオーナーとしても動くことになったティアラ。
ギルドや魔法グッズ管理会にスペースや事務所を貸すことになったため、意外なところで家賃収益が発生することになった。お店を持つことで夫の家に遠慮があったティアラだが、結果としては空き物件を有効活用出来たというところだろう。
「それではしばらく研修で留守にしますが、ロンドッシュから帰国したらまたお伺いします。魔法ショップの経営について、学んでこないと」
「ティアラさんの旦那様とポメちゃんも一緒に研修ですよね、魔法都市ロンドッシュは魔法使い憧れの場所なんですよ。良い旅を……!」
報告が済みポメと一緒にギルドから出て二十分ほど観光地に向けて歩いていくと、錬金魔法ショップを開店する予定のビルに到着。
ショップ予定地は隣街のヴェネツィーのように全面的な水路区域というわけではないが、運河と至近距離のため送迎車や搬入車以外の乗り入れは限定されている。そのため観光客と同じ目線を意識して、ティアラも徒歩で移動を試みたのだ。
「明日からは研修で魔法都市ロンドッシュか、これから頑張らないとねポメ!」
「きゃうん!」
ゴンドラや水上バスが行き交う運河近くで、煉瓦造りのビルは外壁の補修工事と内装の改修工事の準備が着々と進んでいた。自分の店を持つことが次第に現実味を帯びてきて、ティアラは思わず気を引き締め直す。
それはオーナーとしての自覚の芽生えでもあった。




