06 幻獣『ポメ』と一緒に
「おーい、手続きが終わったぞ。幻獣に記録されてたデータは全部削除しておいたから、これで正式な相棒になれるぜ。っておい、あんたの手のそれプラチナチケットじゃないかっ?」
「ええ。先ほどの通りすがりの方に、頂いてしまって」
「ふうん。かなりの金持ちじゃなきゃ、こんないいもの手に入らないが。まぁ……幻獣を一匹助けたんだ。一つくらい、良いことがあるさ」
(このチケットをどうするかは、後で考えるとして。今は幻獣君が優先だわ)
「きゅーんきゅんっ」
データ削除を終えて無事フリーになった幻獣が、ティアラに手渡される。焦げ茶色の体毛をふわふわさせて、尻尾を振る姿はほとんどポメラニアンだが。おそらく、新しい飼い主としてティアラを正式に認識したのだろう。
(捨てられた幻獣、魔力が尽きて追放された私と似た境遇の小さな生き物。ここで会ったのも何かの縁だし、仲良くなれるといいな)
「よろしくね、私の名前はティアラよ。あなたの名前は……どうしようかしら? 多分、レンタル用の幻獣なんだろうけど」
幻獣のふかっとした頭を優しく撫でてやると、ゴロゴロと猫のような声で甘えてきた。犬のようであり、猫のようでもある不思議な幻獣。新たな名前をつけて欲しいのかキラキラとした瞳で、ティアラのことを一心に見つめる。
「うーん。猫みたいな泣き声も出せるみたいだけど、見た目はどうみてもポメラニアンだし。見た目優先でポメでいいわね、いいポメ?」
「きゅいんっ!」
どうやら、『ポメ』という名前で了承したようで、元気よく返事をひと声。
まだ乗車するか否かすら決めていないが、高級列車の発車時刻まで時間がある。それに万が一、乗るにしても準備が必要だ。ジル・ハルトと落ち合う前に、ポメを旅しやすい状態にしてあげたい。
ティアラはポメのために、使い魔ショップのあるストリートに足を運ぶことにした。
* * *
その頃、王宮の聖女専用部屋に設置された水晶玉には、順調なティアラの様子が映し出されていた。
「さっきのスカした紳士、いきなりティアラに列車のチケットなんか手渡して。あの男、一体誰なの?」
追放後の様子を水晶玉から覗いている者が、一人。例の『伝説の聖女クロエ』が、ティアラを遠隔魔法で見張っているのだった。