03 夢が広がる開店計画
ハルトリア一族が所有する店舗用の物件は、多くに人で賑わう港の近くの観光地だった。驚いたことに五階建ての煉瓦造りの建物が、そのまま一棟空き物件となっていたらしく、ショップを開くには絶好のロケーションだ。
好条件の立地に魔法グッズ管理会のエリアマネージャーも絶賛し、かなり乗る気の様子。
「いやぁ想像以上に素晴らしい物件が、空いていたんですねぇ。駅やバスから通いやすい良い物件が、まさか丸ごと一棟空いているとは」
「この建物は一年前まで雑貨屋店だったんですが、店主が高齢になって引退したんです。そうそう建物一棟借りる人もいないし、しばらく空けておいたんですが。妻のティアラが店をやるなら、一棟全部使用出来ていいんじゃないかって」
「えっ一棟全部、使っていいの?」
ジルの大胆な提案に驚きつつも、ハルトリア新都市部には一般向けの魔法ショップは無いことを思い出し、潤沢に在庫を管理出来る方が適しているのだろうとティアラは推測した。
「もともと、一階から二階までを店舗として使っていたらしくて、カウンターはそのまま残っている。事務所だった三階までは内部の階段で繋がっていて。四階と五階は居住スペースとして活用していたから、階段と玄関は個別に設置済みだ」
「居住スペース? そちらも空きになっていたのね。練金ルームとしても、使えるかしら」
「もちろん。観光客が増える時期はどこも彼処も忙しいから、寝泊り出来るスペースも確保した方がいいぞ。オレも手伝うから、寝室や何かは時折使うだろうし」
(一階と二階部分が店舗、三階が事務所と休憩所、四階と五階は錬金ルームとストックルームってところかしら? いざという時に、寝泊り出来る居住スペースも確保出来そう。やだ、私ったらもうお店の計画で頭が一杯になっちゃう)
ティアラの予想では、建物の一階部分だけをショップとして借りるのを想定していたが。ジルが提案するプランでは建物を一棟そのまま、ティアラの好きなように使っていいとのこと。
「この辺りは、飲食店、花屋、ガラス工芸店やゴンドラ乗り場など、お客さんが絶え間なく訪れる場所です。一般の方向けの魔法ショップは今のところないので、ある程度の集客は見込めるでしょう。この土地ならではのお土産品を制作するもの良いですね」
エリアマネージャーが、より顧客集客率を上げるプランを提案。
店の窓を開けるとその先には、行き交う人々の活気で街全体がキラキラと輝いていた。
「こんな賑やかで綺麗な場所に、自分のお店を持てるなんて!」
「きゃうん、きゃうん!」
ポメもこの場所を気に入ったようで、尻尾を振りながら嬉しそうに見学している。
「……どうだ、ティアラ。気に入ったか? これだけ好条件ならオーナーの話、挑戦する気になるだろう」
「もうっ! こんな良い物件まで紹介してもらって、断れるはずないじゃない。ありがとうジル、やるわ……素敵な錬金魔法ショップを!」




