02 お店の名前は店主の愛称で
「ジル、お帰りなさい。出張お疲れ様」
「お兄ちゃん、お帰り〜」
「きゃうん」
妻ティアラと妹ミリア、そしてペットのポメに出迎えられて、ご機嫌で出張から戻ってきた夫のジル。彼から開口一番発せられたのは、魔法ショップの話題だった。どうやらジルとしては既に、魔法ショップを運営する気のようである。
「ただいま! 朗報だぞ。実はハルトリア一族所有の建物にショップを開業するのに、ちょうど良い物件が余っているらしくてさ。親父もそのまま物件を空けておくのも勿体無いし、社会勉強だと思ってショップに挑戦したらどうかって」
「えっショップ用の物件、もともとハルトリア家が所有していたの? よく考えてみたら、領主様の一族なんだから所有物件数も多いわよね。けど私まだ、ショップを開く心の準備が」
案内書を送ってきた魔法グッズ管理会とて、財政事情を調べないで案内を送るはずもない。そもそも大公国ハルトリアの領主一族の資産や所有物件は公開されているため、積極的に調べなくても見当はつきそうだ。開業にあたって家賃などを心配していたティアラだが、もともと所有している物件であれば問題ないだろう。
「こういうのは、時流に乗ったものがちだよ。それにしても『錬金魔法ショップ・ティアラ』か、なかなかいい店舗名じゃないか!」
「錬金魔法ショップ・ティアラ……その店舗名って、私の名前から取ってるじゃない! それともこの業界の加盟店って、店主の名前を店名につけるの?」
いつの間にか、店舗名まで決定している上に何故か自分の名前が付けられていて動揺するティアラ。
だが、店舗開店マニュアルをよく読んでみると、『加盟店の店舗名には、店主さんの名前や愛称を付けるのが一般的です』としっかり記載されていた。
「ね、ねぇ。せめて、本名じゃなくて愛称で登録したいわ。『錬金魔法ショップ・ティアリィ』とかなら、そこまで恥ずかしくないかも」
「えっ何? ティアラお姉ちゃん錬金魔法グッズのお店やるんだ。ミリアの好みも反映した品揃えにしてね、楽しみ!」
ショップオーナーのお誘いが来ていることは、まだ幼い妹ミリアの前では内緒だったはずだが。ほぼ本決まりになったことから、ジルは話題をオープンにしてしまったようだ。明日以降はお喋りなミリアを介して、家庭教師の先生や魔法スクールの生徒の耳にもショップ開業の噂が回るだろう。
「よし、じゃあ店舗名は『錬金魔法ショップ・ティアリィ』で申請しよう。さて、百聞は一見にしかず。明日、魔法グッズ管理会のエリアマネージャーと一緒に、物件の下見をすることになったから。ティアラが気に入れば、契約して内装リフォーム期間中に夫婦で研修を受けて。これから忙しいぞ!」
その後は慌ただしく一日が過ぎ、翌日の物件下見の準備で大忙し。錬金魔法ショップ・ティアリィの開店に向けた活動は、始まったばかりだ。
 




