11 最高品質のレアポーション
偶然にも錬金術師の仮免許を本日から取得していたティアラは、思い切って自分に錬金をさせて欲しいと告げた。緊急時ではあるが錬金ポットは法律の制限上、資格所有者しか使えない。
治療に当たっていた白魔法使いや錬金術師のMP切れ、だが怪我人の治療は一刻を争う状態。仮免許とはいえ、急を要する現場ではティアラに錬金をさせてみる以外、怪我人の治療方法はないだろう。
「これ、ギルド入会テスト用の仮免許証です。たまたま今日のクエストのために仮免許を貰っていたから。この仮免許証で、錬金ポットを使えないかしら?」
「まぁ! 確かに、錬金術師の仮免許証だわ。しかも、前職は聖女様……おおっ……精霊様よ、救いの手を差し伸べてくださったのね。ティアラさん、エーテルとポットはこちらです。あと、ポーション用のレシピと呪文詠唱の基本書がここに」
救護隊の白魔法使いが、ティアラを錬金ポットが設置してある台座へと案内してくれる。治療室では、簡易ベッドで手当てをしてもらっている冒険者達の呻き声が聞こえてきてティアラの胸が痛んだ。
(以前の魔力があれば、すぐにでも助けてあげられたのに。ううん……諦めちゃダメよ、今の私でも出来る方法で役に立たなきゃ!)
説明役として先程まで怪我人達のために錬金を行っていた中級錬金術師が、レシピをレクチャーしてくれるらしい。
「初めまして、ティアラさんですね。まさか、仮免許状態の方にお願いすることになるとは……申し訳ありません、私がMPを切らしてしまったばっかりに。ですが、元・聖女様であればかつての回復魔力を活かして、錬金が成功する可能性も高いと思われます」
「そう、全力を尽くしていくわ……錬金レシピには、上級ポーションと書いてあるわね。目覚めの花、安らぎの貝殻は採取したものと同じだけど、エーテルの種類がギルドテストのものより上位のものなの?」
初めて行う錬金にも関わらず、用意されたレシピは予想を上回る上級錬金のレシピだった。ティアラがギルド入会テストで採取した基本ポーションよりも、ランクが高いものを作らなくてはいけない。
「はい、重症患者用のポーションは、こちらのレシピの方が効果的なので。呪文詠唱が上手くいけば、おそらく完成するかと。流石に魔法初心者には難しい詠唱ですが、一度他の魔法職で上級に就いていた方なら、成功率はかなり上がるはずですわ」
錬金を行う道具には数種類あり、オーソドックスに鉄の釜で煮込んだり、サイフォンコーヒーのようなポットで抽出する場合がある。
今回のポーションは抽出タイプで作るようで、一見するとコーヒーセットにも見えるミルとポットで錬金を行うようだ。日常的にバルでエスプレッソコーヒーを嗜むお国柄とマッチしているが、嗜好品を作るのではなく薬を錬金で作るのだと肝に免じる。
貝殻と花をミルで砕いて粉末状にし、エーテルを水の代わりにポット注ぎ、仕上げに錬金の呪文を詠唱。
「命を司るエーテルよ、その息吹をポーションに変え、魂を繋ぐ妙薬となれ……!」
ティアラの言葉に導かれるように、ぐつぐつと音を立てて材料の色はやがて虹色に変化していき……見事、上級ポーションが出来上がった。
仕上がったポーションを耐熱性のガラス瓶に淹れて、レクチャーをした錬金術師に見てもらう。するとポーションを見るや否や、目を見開いて奇跡を目撃したかのように感嘆の声をあげた。
「こっ……これは、上級なんてものじゃありません。最高品質のレアポーションですわっ」