10 駆け出しの錬金術師
「誰か助けてっ。外で暴れているモンスターは、かなり凶暴なんです。巨大な雷魚の一種で、今は陸地に上がって暴れています。最低でもSランクの腕はないと、討伐出来そうもなくて」
湖畔管理事務所附属の冒険者休憩所は和やかなムードから一転、ピリピリとした空気に変わってしまった。逃げ込んで来た冒険者は、頭に怪我をしている様子で、命からがら救助を求めて来たことが窺える。管理事務所の救護班が、怪我をした冒険者達を治療室へと連れて行く。
先程まで愉しく食事をしていた冒険者の中に腕に覚えのある者が数人、武器を整えて出撃の準備をし始めた。ティアラの夫であるジルも、小型拳銃の弾を確認して先頭に向けスタンバイする。
「ジル、もしかして……あなたも外来種退治に行くの?」
「あぁ……こんな時こそ、Sランクの腕が必要な時だからな。他にも冒険者が討伐に参加するみたいだし、心配いらないよ。ティアラはポメと、ここで身を守っているように」
ティアラが止める間も無く、ジルは黒い上着を翻して素早く討伐部隊と合流しに、屋外へと行ってしまった。ポメがティアラを励ますように、足元で『くんくん』と見つめてくる。
「そうよね、ジルは強いもの。他の冒険者もいるし、みんなと協力すれば外来種一匹くらい倒せるわ。きっと」
「きゅーん」
初めての夫婦共同クエストなのに、一緒に戦闘の場に立てないことをティアラは哀しく思った。例え戦闘に参加出来なくても、以前のように回復魔法が使えれば戦闘が終わった後に役立てたはずだ。
次々と休憩所へと駆け込んでくる人々の中には、果敢に凶暴外来種に挑んで怪我を抱える者も多く、難関モンスターだと推測出来た。
(こんな時、私はこうして安全な場所で身を守ることしか出来ない。せめてもう少し魔力が復活していれば、錬金術が使えていれば……)
「誰か、この中に白魔法使いか錬金術師の方はいませんか? 治療用のポーションが足りなくなってしまったんです!」
「僕、初級だけど回復魔法使えます」
「アタシも……」
外来種は広範囲攻撃呪文を使用するようで、一匹で複数の冒険者にダメージを与えたようだ。怪我人を助けるため再び救護班が、人員を求めて休憩所に現れた。
「すみません、上級ポーションをお持ちの方、もしくは仮死状態を蘇生する呪文の使い手はいませんか?」
初級白魔法使い達が急いで治療室へ向かっていたが深い傷の冒険者がいるようで、それだけでは治療が追いつかない。
(何か私に出来ることは? 幸いポーション錬金の素材なら、三つのうち二つは揃っている。足りないのはこのエリアで採取出来るエーテルだけ。治療室に在庫があるかも知れないし、一か八か……やってみよう!)
震えて待っているだけの待機状態は性に合わなかったのか、ティアラはクエストのために採取した素材を手にスッと立ち上がって治療室へと足を運ぶ。
「すみません、ポーションの素材はここに二つ揃っているのですが。エーテルだけがまだで……エーテルの予備はありますか? 素材が揃えば錬金で治せるかも知れません」
「ええ! 湖畔で採取したエーテルならたくさん。あなた、魔法系ギルド入会クエスト受験者の方ね。錬金術師の数が足りなくて……既にみんなMPの限界値を超えているの」
錬金に使うポットや釜の類は、ギルド入会クエストに合格した資格所有者しか持つことが出来ない。ハルトリア一族には錬金術師はおらず、嫁いで来たティアラも実際の錬金はまだこれから。
だが、この一ヶ月半で理論や素材の知識、呪文詠唱の方法は取得済み。あとは、採取後に実践あるのみの状態だった。偶然にもティアラは、本日から錬金ポット使用許可の仮免許を持っていた。
素材は揃ったが術者が足りない……ティアラは勇気を出して錬金ポットの使用許可を申し出る。
「駆け出しの錬金術師ですが……私に、ポーションを錬金させてください!」