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追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る  作者: 星里有乃
旅行記4 夫婦初めての共同クエスト
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09 これがクエストというもの


 ティアラのギルド入会テストは予想よりも順調に進み、錬金素材のうち二つは午前中のうちに調達することが出来た。

 最後の採取場所である古代湖畔へとバスで移動すると、モンスター出没区域ながらも観光を兼ねた冒険者の姿がチラホラ。もちろん、遊びではなくクエストを受理してから来ているのだろうが、楽しそうに談笑している姿は観光客と変わらない雰囲気だ。


「湖畔エリアに無事着いたけど……心なしか、みんなリラックスしている気がするわ。それほど強いモンスターも出没しないみたいだし、採取がメインのスポットなのかしら」

「そのようだな、出没モンスターはレベル1から3前後の温厚なモンスターのみ。採取可能な素材はエーテルをはじめ、ボートで魚釣りも可能。大型の自然公園と言った方が、しっくりするぞ」


 湖畔管理事務所には冒険者向けの開放スペースがあり、そこで持参したランチボックスを食べられるようになっていた。テーブルと椅子がいくつも並び、フードコートのような使い方がされている。併設の売店で購入したものを食べる冒険もいたが、ティアラ達はギルドから支給されたランチボックスがある。


「ドリンクは売店にたくさん売っているけど、クエストにぴったりな疲労回復の蜂蜜入りミルクティーがオススメですって。今日は比較的気候も暖かだし、コールドタイプの方がいいかしら」

「へぇそのうち、蜂蜜は錬金でも使うだろうし、勉強のためにも飲んでみるといいな」


 ドリンクを売店で購入してさっそくテーブル席に座り、リュックからそれぞれランチボックスを取り出す。清潔のためレモングラスの香りのするウェットシートで手を拭き、食事の準備は万全。中身が分からない箱を開けるのは、幾つになってもドキドキするものだ。


「さてと、せっかく食事スペースも提供されているし、ギルド支給のランチボックスを頂くか。オレが所属しているガンナー系のギルドでは、飯盒にザックリとした昼飯が詰められているのが定番だが。魔法系ギルドでは、どんなメニューなのか?」

「容器からして飯盒ではないし、パニーニか何かよね。きっと……では、オープン!」


 期待と不安が入り混じる中、ランチボックスの蓋を開けると、パニーニよりも薄いパン生地に具がたっぷりと詰め込まれたサンドウィッチ。


「これは……トラメッツィーノだっ。しかも、随分と具材をたくさん入れて気合が入っているな。そうか、これが魔法系ギルドの特製ランチボックスか……はははっ上品な中にもワイルドさが漂っているぜっ」

「ハルトリアの人達はパンをサンドしたものを、パニーニやトラメッツィーノのように細かく種類分けしているのね。具材はエビとアボガド、トマトとチーズのピッツァ風、クリーム多めのフルーツサンドも! 一つ一つ大きくて、こんなに食べられるかしら?」

「フルーツサンドはドルチェの枠だろう? ハルトリア人は甘いものは別腹、サラダもあるしヘルシーだぜ。では、いただきます!」


 トラメッツィーノとは、ハルトリア風のサンドウィッチのことで、国民食のパニーニと比べるとパン生地が薄いものを指す。屋台で出来立てをホットな状態で提供しているパニーニとは対照的に、携帯食として常温のまま食べることを想定しているものが大半だ。

 ギルド支給の手作りトラメッツィーノで空腹を満たし、売店の冷たいハニーミルクティーで心も癒される。ポメもお水とおやつを補給出来て、満足そうな様子。


 だが、穏やかな空気は一瞬にして砕かれた。外でバトルを行う魔法の弾ける音が聞こえ、助けを求めて初級冒険者が休憩所に飛び込んできたのだ。


「きゃああっ! 誰か、Sランク冒険者はいませんか? 凶暴な外来種が湖畔に混ざったみたいで、太刀打ちできないの!」

「えっ……外来種。まさか、この辺りでは生息していないはずのモンスターが?」


 すっかり観光に来たような気分になってしまっていたが、突然の悲鳴にティアラは我に帰る。平和に見えても冒険者指定スポットは、いつ何が起きてもおかしくない。


 ――これがクエストというものなのだと、実感せざるを得なかった。


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