06 注目と再会は突然に
「これがトップ聖女の潜在魔力? 当ギルド始まって以来の最高数値だっ! はっ……取り乱してしまって申し訳ありません。確かに潜在魔力はトップですが、現在魔法は初級しか使えないとのこと。特殊なケースですので、専用のクエストを組みます。しばらくお待ち下さい」
最初は冷静に魔力検査を行っていた検査係も、底知れぬティアラの魔力に感嘆の声をあげてしまう。気付けば興味本位なのか、もしくは野次馬根性が沸いてしまったのか……他の受験者がティアラの様子をチラチラと見ている。
『あの銀髪の女の人って、フェルトのトップ聖女のティアラさんじゃないか? 確か、魔力切れを起こして退任されたはずだったのでは』
『それがさ、ハルトリア公爵家の次男に見初められて、この国に嫁いで来たらしいよ。魔力は戻ったとしても初級ランクだろうし、魔法がちょっと出来る公爵夫人として生活するのでは?』
『てっきりフェルトのお妃様になるのかと思っていたけど、マゼランス殿下には既にクロエ様がいるしなぁ。良い縁談があれば、ハルトリアでまとまってもらうのが良い方法か』
銀髪碧眼というハルトリアでは若干珍しいティアラの容姿は、目に留まりやすい。フェルト移住組の中には彼女が元トップ聖女ティアラ本人であることを認識しているようだ。かつてのティアラは、それこそフェルトが誇る凄腕聖女だったが、今では魔力切れを起こしていて一般レベル魔力に落ちていることも認識していた。
(私のことを認識している魔法使いが、何人かギルド入会試験を受けにきているみたいね。顔見知りは王宮関係で働いていた人だけのはずだから、王宮を退職した人が増えているってことかしら?)
結婚に関してはフェルト公認の縁組みだと誤解している人も多いようで、本当は駆け落ちのようなノリで逃げてきたことを知る者は少ないだろう。すると、人懐こい性格の元王宮勤めの黒魔法使いが、ティアラに話しかけてきた。
「ティアラ様? あぁっ! やっぱりそうだわ、ハルトリアにいらっしゃるというお噂は本当だったのね。お久しぶりです、元・フェルト王宮所属黒魔法使いのサーシャです。覚えていらっしゃいますか」
焦げ茶色の髪をおかっぱに切り揃えた少女サーシャは、昨年王宮に入ったばかりの新人黒魔法使いだ。王宮に慣れずに困っていたサーシャをティアラが助けたことが幾度かあり、懐かれていたが別れを告げる間もなくティアラは追放されてしまった。
大公国ハルトリアのギルド入会会場にサーシャがいるということは、既に王宮を辞めてしまった証拠でもある。
「サーシャ、まぁお久しぶりね。聖女を退任した時には、ろくに挨拶もさせてもらえない状況だったけど。フェルトの移住者も元気そうで何よりだわ……本当に良かった」
「実は、ティアラ様が退任されてからさらに王宮の内政は悪化してしまって、経費削減のために黒魔法使い部隊は解散になったんです。フェルト国民は移住希望者が増えていて、四方八方に散り散り状態ですが。ティアラ様がいるなら、この大公国ハルトリアは安泰ですね」
以前と同じように期待と羨望の眼差しで話しかけてくるサーシャに、もう昔のような魔力を持たないティアラは申し訳ない気持ちになってしまう。今のティアラは、以前のような魔力はないため、頼られる側ではなく頼る方の人間だ。
あまり期待しないで欲しい旨を伝えたかったが、それぞれ番号を呼ばれてテスト受付に戻ることになってしまった。
「ティアラ様、このメモを……今の我々黒魔法使いチームが暮らしている魔法使い寄宿舎の住所です。もし良ければ遊びに来てください! ご武運を祈ってます」
「ありがとう、入会テストお互い頑張りましょうね」
* * *
ティアラに課せられた専用の入会テストは、錬金術師になりたいという将来設計を踏まえた魔法錬金素材の採取と納品のクエストだった。テストに合格し錬金素材に詳しくなれば、オリジナルのポーションや装備品を作ることも可能だ。
「おっ……テストの内容は採取メインの納品クエストか。ところで、知り合いに会ったみたいだな、さっきの魔法使いの少女は王宮出身者か?」
テスト内容の用紙を受け取りジルの元へと戻ると、先ほどの黒魔法使いの少女サーシャについて問われる。
「えぇ、王宮黒魔法使いのチームは、まるごと解散になったそうで。今はハルトリアの魔法使い寄宿舎で、暮らしているそうよ。フェルトがお抱えの魔法使いを切るなんて、いよいよ国が解散するカウントダウンが始まっているのね」
「もしかしたら、ハルトリアのギルドは今後、崩壊後のフェルトの支援をしていくことになるかも知れない。まずは、このギルド入会テストを成功させないと」
――ティアラとジルの夫婦共同クエストが、ついに幕を開けた。




