05 高級列車のプラチナチケット
「そこのお嬢さん、もし旅に出られるのなら、このジル・ハルトを雇ってみませんか? 一見、優男に見えるかも知れませんが、これでもSランクガンナーです」
幻獣を引き取るために、ギルドの前で一定時間過ごしていたのがいけなかったのか。フリーのガンナーから、声を掛けられてしまうティアラ。おそらく、ティアラとギルド従業員の会話を聞いていたのだろう。
(どうしよう。幻獣の引き取り手続きを行なっている間は、ここで待っていなきゃいけないのに)
端正な顔立ち、黒髪の鋭い瞳、そして用心棒にはとても見えないスリムな体型。いわゆる容姿端麗なこの男の本当の目的は何だろうか、とティアラは勘ぐる。
魔力が切れているとはいえ、聖女育成機関で簡単な護身術の基礎くらいは習っている。普通の旅であれば、用心棒は要らないのだが。
「あいにくだけど、私。本当にごく普通の何気ない旅に出るだけなの。モンスターとのバトルが起きそうな危険区域とかも、避けて通っていく予定だし。悪いけど……」
高額な報酬でも請求されたら、さすがのティアラでも貯金が尽きてしまうかも知れない。だが、交渉を上手くいかせるためか、意外なセリフを口にし始めた。
「いやぁ、このジルも風の噂を聞きつけたというべきか。なんでも、追放された聖女様が、この国から出るために準備されているとのことでして。モンスターは避けられても、【王宮の暗殺者】からは逃れられるかどうか?」
(この男、私が王宮から追放された聖女だって、知っていたのね)
「だったら、どうだっていうの?」
「ふふっ。威勢の良い女性は、結構好きですよ。今日の夜中、隣国へ向かう特別列車が走ります。準備を終えて気が乗ったらどうぞ」
しつこくし過ぎない主義なのか、一旦はティアラの前から立ち去るジル。
無理やり手渡された小さな用紙は、隣国へ旅立つ高級列車の『プラチナチケット』だった。このチケットを手に出来る者は王族か、上流貴族かといったところだが。
(民間人じゃ絶対に手に入らないランクのプラチナチケット。彼は一体?)