05 トップ聖女の潜在魔力
初めて訪れる魔法系ギルド協会本部は、入会試験のために集まった人々でいっぱいだった。想像よりも多い人だかりに、ティアラは大公国ハルトリアにも魔法の使い手がこんなにたくさんいたのかと困惑する。
「フェルトにいた頃は、魔法使いがたくさんいるのが当たり前だったけど。ハルトリアはそれほど魔法にチカラを入れていない国だと聞いていたから、この受験者の数には驚きだわ」
「いや、ハルトリアにこれほど魔法使いが増えているのは、多分フェルトからの移住者が増えたからなんじゃないかな。現にティアラだって、フェルトからの移住者だろう?」
「あっ……そういえば」
言われてみれば、この一ヶ月半で精霊国家フェルトからの人口流入は、過去最多だという情報だった。
ティアラが追放された後もフェルトの治安は良くなる気配はなく、国民は移住出来そうな国を探して流出する一方だという。自分が聖女として祈りをずっと捧げていた国が、いよいよ解散となりそうなのは哀しいものである。だが、この時代の変換期を乗り越えてこそ、新たな希望が見えるのかも知れない。
「まぁハルトリアも以前よりは魔法教育にチカラを入れているし、他の国に引けを取らないように頑張るんだろうな。けどオレみたいなガンナーが、一線でやっていけるのもハルトリアの良いところだ。今日のテスト、しっかりサポートしてやるからな」
「ジル、ありがとうね。私の我がままに付き合ってくれて。一度魔力を失くしている私の挑戦を応援してくれて」
新たな第一歩を他の移住者達と同時期に踏み出すことになったティアラだが、彼女は他の魔法使いと違って魔力を一旦失っている。本当の意味で初心者として、再スタートを切らなくてはいけないのだ。
お礼を述べながらも不安な気持ちが増してきたティアラに、ジルは優しく微笑んで『夫婦なんだから、協力するのは当たり前だろ』と、そっと耳元で囁く。
(この人を好きになって……夫婦になって良かった)
半ば勢いで結婚してしまったジルとティアラだが、いざという時に助けてくれる人、信頼出来る人に嫁ぐことが出来たことをティアラは心の奥底から幸運に思う。
やがて書類の手続きが全て終わり、ついにギルド特有の基礎ステータス検査となった。ギルドの魔力検査係の男魔導師が数値検査用の魔導書を開き、魔法陣のページの上に手を乗せるように促す。
「えっと……以前は聖女として回復魔法を得意としていましたが、一度魔力切れで退任しておりまして。今は微量に魔力が戻っているので、初級魔法使いから始めてゆくゆくは、中級以上の錬金術師を目指したいと思っています。よろしくお願いします」
「ほうっ……ティアラ・ハルトリアさん、十八歳。以前の職業は……フェルト公認聖女。ふむ、魔力切れのためSランク職業から、初級ランク職業への転職希望ですか……。なかなか珍しいケースですが、魔力切れで転職を余儀なくされるの方はたまに見かけますよ。でははじめましょう……あくまでも潜在数値を割り出すので、以前の魔力も換算されます」
検査係がステータス確認の呪文詠唱をすると、魔法陣にかざした手を中心にティアラの潜在的な能力が一気に魔導書に刻まれていく。
マジックポイントを表す数値がみるみるうちに上がっていき……いち、じゅう、ひゃく、せん……。
「こっっこれはっ! こんな数値見たことがない、いや噂には聞いていたが。規格外の上級魔力……これが、トップ聖女の潜在魔力っっ?」