04 初級冒険者への第一歩
春の陽射しが輝く休日の朝、ティアラとジルは久々に夫婦揃って、ハルトリア新都市部の中心地に出向くことになった。
「ティアラお姉ちゃん、ギルド入会試験頑張ってね。ギルド協会って、会員限定でいろんな魔法グッズ売ってるんでしょう? ミリアもそのうち入会したいなぁ。あっジルお兄ちゃん、お土産よろしく」
「はぁ……今回はティアラの入会試験がメインで、遊びに行くわけじゃないから、土産は分からないけど。まぁ頑張るよ」
「ふふっ行ってきます、ミリアちゃん」
ギルド協会に興味津々の魔法使いの卵ミリアに見送られて、黒塗りの高級車で出発するジルとティアラ。邸宅から車で五分ほどの距離のはずだが、その服装は近所の市街地や港周辺を優雅に散策するような雰囲気ではない。
妻のティアラは爽やかなライトグリーンのワンピースに魔導師ローブを重ねて、腰には革のウエストバッグ、手にはショートロッドを装備。夫のジルは黒の上下にダークブラウンのブーツ、軽装だが小型拳銃に加えて予備のナイフやバトル用のグローブを着用。さらに幻獣ポメも珍しく勇ましい表情で、やる気の様子だ。
「いよいよ、来てしまったわね。ハルトリア新都市部、魔法系ギルド協会統括本部。初級魔法系ジョブに転職するための簡単なクエストとはいえ緊張するわ」
「一旦ギルドで現在のステータスチェックを行い、ランク確定を貰ったら各々クエスト地へ移動。錬金術師に転職するためのクエストなら、それほど難しくないはずだが油断は禁物」
「きゃわんっ」
市役所や図書館を彷彿とさせる大きな煉瓦造りの建物は、この街きってのギルド協会だ。運転手と爺やはギルドクエストに参加出来ないため、駐車場に車を停めて別棟のカフェコーナーで待機となる。
「ちょうどギルドが開く、十分前に到着ですな。ティアラ様、ジル様……それにポメ君。我々付き人は別棟の飲食店で待機となりますが、遠巻きながら応援しておりますので。御無事で……おぉ精霊様どうかお二人と一匹を見守っていてください」
「お祈りありがとう、爺やさん」
「心配すんなよ、行ってくるぜっ」
かつて長男バジーリオの妻が新婚のうちに殺害されたこともあり、爺やはティアラに対して過保護だったが。自分で自分の身を守れるようになりたいというティアラの意思を尊重して、今回のギルド入会試験を応援してくれている。
既に入口前には、テスト受験者が列を作って待っていた。待機している間、募集要綱をもう一度読み直してみることに。
『魔法系ギルド入会試験募集要項』
ハルトリア新都市部に当魔法系ギルドが設立されて、はや五十年を迎えることが出来ました。今月はいよいよ、恒例のギルド入会春試験が行われます。
入会試験の条件は以下の通りとなります。魔力を活かしてアルバイトをしたい初級魔法使いの皆様、現役からブランクのある中級魔法使いの皆様、奮ってご応募ください。
募集年齢:12歳から59歳まで。11歳以下はジュニアギルドを、60代以上はシニアギルドを紹介することが可能です。
装備:初級ランクから中級ランクの冒険者装備を各自用意してください。
魔法ランク:初級回復魔法及び、攻撃魔法の使い手。ブランクのある復帰組は中級魔法使いも応募可能です。
助っ人制度:一名、クエスト時に助っ人を雇うことが出来ます。傭兵を雇うほかにも、既にパートナーがいる方はコンビで応募が可能です。
使い魔について:幻獣や使い魔は、小型から中型を一匹のみ連れていくことが出来ます。
「どうだ、ティアラ。不明な点はなかったか?」
「ええ、ジル大丈夫よ。お屋敷の負担にならないためにも、魔力を取り戻して護身くらいは出来るようにならないと!」
やがて時間が来てギルドの重厚な扉が開く……ティアラはついに初級冒険者への第一歩を踏み出した。




