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追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る  作者: 星里有乃
旅行記3 時を超える祝祭
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03 お揃いのアミュレット


 パニーニと思い出話でお腹と心を満たした後は、ついにメインのゴンドラデート。ポメのような小型犬タイプの生き物も一緒に乗れる特別チケットで、ハルトリアの運河を渡って行く予定だ。


「犬連れのお客様ですね、足元にお気をつけてお乗り下さい」


 ぐらっと揺れるゴンドラは、一見すると不安定なのではと思ったティアラだが、不思議としっかりと水辺に浮かんでいる。足を乗せようとすると、ちゃぷんと水がゆらめく音がして、ティアラは思わず躊躇してしまった。


「わぁ……私、ゴンドラって初めて。ちゃんと乗れるかしら?」

「よしっ手を貸して……ほら、大丈夫だ」


 先にゴンドラに乗ったジルに手を取ってもらいティアラ、続いてポメと乗り込んでいく。この時間帯の犬連れチケットはティアラ達だけだったのか、貸し切り状態のゴンドラは橋を潜り住宅がひしめく細い水路をゆっくり進む。


 途中、同じく水路を進む別のゴンドラとすれ違い、ポメを見つけたよその乗船客が『ワンちゃん、元気かい?』と呼びかけながら手を振っている。ティアラもポメを膝の上に乗せて応えるように手を振り、ゴンドラに揺られる緊張感から解放されつつあるのを感じていた。


「この国の運河って、住宅地の中に馴染むように巡らされているのね。路地のように水路を渡って街を移動できるなんて、不思議な気分だわ」

「今でこそ丘の上の邸宅で暮らしているが、昔は集合住宅で暮らしていたからな。この細い運河を渡っていると、昔を思い出すよ」


 長く続く運河は、その気になれば他の島の入り口まで移動できるコースもあるが、今回はデートコースのため周遊ルートを選んだ様子。


 ハルトリアの中心地はほとんどが集合住宅で、それなりのお金持ちでも一軒家に住むものは少ない。俗に言うメゾネット住宅が、ハルトリア新都市地域の一般的な住まいのスタイルである。

 ティアラが住むことになった丘の上の邸宅は、公爵家ならではの極めて贅沢な住まいと言えるだろう。ぼんやりと周辺の集合住宅の景色を眺めていると、船頭がオールを漕ぐ手をピタリと止めた。


「そろそろ、我がハルトリアの運河を守る水の精霊様の銅像前に着きます。精霊様にお祈りしたいことがある場合は、今のうちに考えておいて下さいね」


 今回のゴンドラデートの目的の一つは、水の精霊と対面させることでティアラの体調不良を緩和させることだ。ジルと夫婦となったことで、フェルトの精霊の加護が切れてしまったが、どっちにしろ遠方のハルトリアに移住した時点で加護は次第に無くなる運命だろう。


「お願いごとか……大それたお願いごとはないけれど、ジルと穏やかな家庭を築けるようにって頼もうかしら?」

「それから、ティアラの体調不良も治るように頼まないとな。船頭さん、オススメのお祈りの仕方ってありますか?」


 今後は独身の聖女としてではなく、『ジルの妻』という新たなポジションで水の精霊様から加護を受け直すことが重要だ。大公国ハルトリアの公爵一族の妻になるのなら、尚更御加護は必要となるだろう。

 ジルが船頭に効果的なお祈りの仕方を問うと、船頭はやや考えてから何かを思い出したように皮袋の中を探り始めた。


「お祈りの際にオススメのアイテムとしては、この精霊様の刻印が印されたアミュレットがありますよ。コイン表には精霊様のお姿、裏側には魔法陣が刻まれています。ひとつ5ドラクマで、値段はパニーニとコーヒーセットと同じくらい。ペンダント用のチェーンをつけても10ドラクマで、大変お得ですよ! コインはキーホルダーにも出来ます」


 さり気なくビジネスっぽさが残るアミュレット販売だが、お土産の平均相場を考えるとごく普通の価格設定と言える。ちなみに安いバルで飲むコーヒーなら、およそ1ドラクマが相場だ。


「くいーん! きゃうん」


 すると、ポメがキラキラと輝くアミュレットに興味津々で、自分も欲しいと訴えているようだ。


「コインを留めるチェーンがお洒落で可愛いし、ご利益がありそうね。ポメの首輪にも付けられそうだし。是非、購入させていただくわ」

「じゃあ、アミュレットをセットで3つ」


 巷のギルドで販売されている初級冒険者用のアミュレットと比べると、かなり安い部類なので装備品と考えればお得だろう。


「毎度っ。ご夫婦やペットさんもお揃いのアミュレットなんて、素敵な運河の思い出になりますよ。では、アミュレットを装着したら、いよいよ運河を守る水の精霊様にご挨拶です! 参りましょうっ」


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