10 初めての夜は、新月の明かりの下で
いよいよ始まったハルトリア公爵一族の食事会は、使用人の腕によりをかけたフルコースと美味しいワインで和やかに行われた。有頭海老のパン粉焼き、海の幸を活かした魚介類のサラダ、平目のムニエル、定番の牛フィレステーキ、彩り野菜のパスタとピッツァ、デザートのティラミスなど。
未成年のティアラとミリアにはぶどうジュースが振る舞われ、全員がハルトリアの自然の恵みを味わうことが出来た。
ジルとバジーリオ兄弟が恐れていた大公は、ティアラに対しては非常に友好的で、なぜ二人が恐れていたのかティアラには理解出来ないほど。娘のミリアが大公に懐いているところからすると、二人が語っていたようにレディに優しく男にだけ厳しいのだろうと察せられた。
「はははっ! それにしてもジルのお嫁さんが、我が亡き妻が連れていた幻獣と同じ種類のを連れてくるとは。いやはや、不思議なこともあるもんだな」
「えぇっ? オレが小さな頃に飼っていたあの犬って、実は幻獣だったのか。てっきり、テリアだとばかり」
「何だ、ジルは気付いていなかったのか。まぁ無理もないか、魔力を失った幻獣はただの犬に見えるからな。ワシはテリアもポメラニアンも、幻獣と同じくらい大好きだぞ」
ハルトリア鉱山近くの森には、幻獣の住処が幾つかあるとされている。もしかするとポメ自身もハルトリア出身なのかも知れないと、ティアラは不思議な縁を感じていた。
「ポメ。あなたの仲間が以前も、ハルトリア公爵家で飼われていたそうよ」
「くいーん!」
大公がポメに対しても好意的で、食事会の席に同伴させてくれたのは、以前も幻獣を飼っていたからなのだろう。すると、ご機嫌なポメを見てハルトリア大公は、懐かしそうにハルトリアに伝わる昔話を語り始めた。
「幻獣の中でもカーバンクルはその額に埋め込まれた宝石で、飼い主を幸福に導くとされている。ワシの妻は生まれつき身体が弱かったが、それでも子供を数人産んで何年も延命出来たんだよ。幻獣が死んですぐに、妻も死んでしまったがな」
再び家に幻獣がやって来たことで、切ない気持ちになったのか、亡き妻を思い出して目頭を熱くするハルトリア大公。
「大公様……」
「いや、妻はもう天国に旅立ったが、その魂は幻獣に守られて共にあると信じているよ。ティアラさん、ジルのために最後の魔力を使わせてしまって、済まなかった。代わりと言ってはなんだか、幻獣のポメ君と一緒にこのハルトリア家で幸せになって欲しい。今宵は新月……新しい家族を迎えるのに、縁起もよかろう。これから末長く、よろしくな」
父とティアラのやり取りを見て、ふとジルが大切なことを思い出した様子。
「そうだ……まだ伝えていなかったよな。ティアラ……ようこそハルトリア家へ!」
「ジル、大公様……みんな。こちらこそ、末長くよろしくお願いします!」
ティアラがハルトリア家に迎え入れられた夜の新月は、とても清らかで美しい。婚約者ジルと過ごす夜もきっと初々しいものになると、ティアラは乙女心をときめかせるのだった。




