03 境遇の似ている幻獣
路上ではあまり長く立ち話出来るような雰囲気ではなく、ティアラは親子に軽く会釈をして場を立ち去る。
(知らなかったわ。私が聖女として魔力を捧げている十年の間に、これほど人々が貧しくなっていたなんて)
王宮に勤め始めた頃のティアラは、幼いながらに国への貢献であると信じて、聖女として毎日魔力をささげる祈りを行っていた。風邪をひいて頭が痛くても、女性特有の月のものがある日でも。休まずに、毎日毎日、自分の命を削って魔力を捧げたのに。
それにも関わらず、街はまったく良くなっていなかった。むしろ、十年前よりも貧富の差は広がるばかりで、このままでは行き倒れる者が増えるであろう。
(王太子は、空から降りてきた新たな聖女クロエに贅沢三昧させて、貧しい市民には目も向けない。クロエのドレスを1枚買うお金で、どれだけの人々が救えるか)
思いもよらない街の様子を目の当たりにして、王太子への未練はみるみる覚めていった。あの男に着いていっても、心地よい未来なんかなかったのだ。
自らも国を出るために、移民列車を使わなくてはならない。けれど、今日はもう列車を手配する時間はなく、宿が必要だった。
裏道を出て、表通りの冒険者達が集うギルド街へ向かうと1匹の子犬、いや幻獣が店の前で吠えながら何かを訴えていた。
「わりぃな。魔力が切れたお前のことは、このギルドじゃもう飼ってやれないんだよ」
「くぃーんっ!」
魔力が切れた幻獣、自分とよく似た境遇の小さな生き物に、思わずティアラは足を止めた。