06 お姉ちゃんって呼んでもいい?
今回、何気ないお喋りから判明したハルトリア公爵家の家庭の様子は、以下の通り。
ハルトリア大公は、旧都市部の本宅で仕事をしていて、今日からティアラが暮らす予定のお屋敷にはいない。
ジルの実母は既に亡くなっていて、今はミリアの母である元・メイドが奥さんとしての務めを行なっている。
大公の子供はミリア以外の殆どが既に独立していて、ジルとジルの兄が領地の仕事を手伝っている。
ミリアは末っ子で、将来は魔法使いを目指して名門魔法学校受験勉強中。今のところ自宅学習がメインで、現在は学校には通っていない。
領地は大まかに分けて三つの地域に分かれており、内海に面した新都市地域がジルの担当地域。
ハルトリア公爵家のみならず、この地域の人々は皆甘党。朝食は甘いドルチェが普通だが、スマートな大人はエスプレッソのみで済ませるものも多い。
(お屋敷に着く前に、外で食事をする機会をもらって良かったのかも知れないわ。フェルトにいた頃とはハルトリアは食文化が違うし、ジルの家庭の事情も結構複雑だし)
キャメルカラーの革手帳に、覚えたてのハルトリア公爵家情報をメモしていくティアラ。万年筆を走らせるティアラを見て、ジルは『ミリアもああやってメモする癖をつけると、賢くなるぞ』とアドバイス。
ポメはお腹が満たされて眠くなったのか、珍しくウトウトと仮眠を取り始めた。
穏やかな時間がゆっくりと流れて……ティアラを取り巻く空気は次第に精霊国家フェルトのものから、大公国ハルトリアのものへと変化するのだろう。
* * *
三人とも食事が終わり、炭酸水が僅かに残るだけとなった頃。タイミングを見計らったように、執事がバルの入り口に現れた。
「おっ……そろそろ時間だな、屋敷に戻るか。ポメはもう一度バスケットに戻ってもらうけど、あと少しの辛抱だからな」
「きゅきゅーん」
ジルは手早くポメをバスケットに収めて、移動の準備を始める。ティアラもジルに倣いコートを手に持ち、支度を始めるが……そこでティアラの服をちょっぴり摘む小さな手が。
「ミリアちゃん、どうかしたの?」
「あのね……お屋敷に戻ると、ミリアいろいろ習い事があって自由に話せないから。お屋敷に戻る前に聞いておこうと思って。ティアラさん……お姉ちゃんって呼んでもいい?」
恥ずかしそうにティアラの許可を取ろうとするミリアは、お喋りをずっとしていた時とはまるで別人のよう。もしかすると、自分に気を遣って明るく振る舞っていたのだろうか、とティアラは思った。
(わざわざ許可なんか得なくても、自由にお姉ちゃんって呼んでいいのに。そういえば、ミリアちゃんはジルのお父様とメイドさんの間に生まれた子……想像しているよりも遠慮している部分があるのね)
「もちろん、改めてこれからよろしくねミリアちゃん」
「うん! ティアラお姉ちゃん」




