04 朝食は甘いドルチェから
「ティアラとミリアは、先に席で待ってていいからな」
「はぁい! このワンちゃん、ポメって言うんだね。分かりやすくて可愛い」
ミリアはすっかりポメを気に入った様子だが、さすがに幻獣とは気付いていないみたいだ。オープンテラスの席には、すでに犬連れで食事をする先客の姿。バスケットからポメを出してやると、チラチラと他の犬がポメを意識し始めた。
「きゃうん、きゃわわん」
耳にピンクの水色のリボンをつけたトイプードルが、ポメに向けて何かを投げかけるように吠える。だが、ポメは然程相手にしてないのか、ジッと様子を見てお澄まし顔。
「ポメ、他のワンちゃんとも仲良くね」
「くいんっ」
当たり前だよ、と言わんばかりに返事をするポメは、犬基準で言うと賢い小型犬に見えなくもない。実際のところ、ポメの種族はハルトリア鉱山地域から森林に生息する幻獣カーバンクルなのだが、周囲の犬達の様子からしても犬同士と思われているようだ。
「ポメって、偉いね。他のワンちゃんも最初は吠えてたのに、ポメを見習って大人しくなっちゃった」
「そ、そうね。ポメって身体は小さいけど、意外と中身は男らしいところがあるから」
すっかりただの犬だと思い込んでいるミリアに、誤魔化しながらティアラはポメの威圧力の正体を説明する。このギルド施設を兼ねている飲食店という特殊な施設には、冒険者寄りの人々が多い。
ポメが幻獣であることを説明するのは、冒険者達の目が気になってしまうのだ。幻獣として聖女として現役ならともかく、ポメもティアラも魔力を失っているため、クエストの類は今のところ出来ない。変に過去のスペックを明かさない方が、保身のためにも良いだろう。
「お待たせ、今朝のドルチェはクリームたっぷりだぜ。ハルトリア流の甘いブリオッシュ、ラズベリードーナツだ」
「わぁ! ピンク色のドーナツもあるねっ。これがラズベリー味なのかな」
しばらくすると、ジル自らクリーム入りクロワッサンやドーナツ、エスプレッソのセットを持って席に戻ってきた。お店のサービスなのか炭酸水もついていて、食事を喉につまらせる心配もない。
ミントの香りがするウェットシートで手を拭き清潔にしてから、ハルトリアのドルチェを実食。
「では、初めてのハルトリアでの朝食……頂きます。んっ……? 思ったよりずっと、甘いっ」
「だろ。この国のレディの朝食は、これが常識なんだぜ」
そういうジルは、クールな見た目に似合わずクリーム入りクロワッサンとエスプレッソをスマートに食べていて、想像よりも甘い物に慣れているようだ。母国の朝食なのだから、当たり前だろうが。ジルの意外な一面を垣間見た気がして、ティアラは嬉しくなって思わずクスクスと笑い出した。
「ふふっ。ジルの意外な一面を見れて、何だか嬉しい。こうして、だんだんと家族になっていくのかしら?」
「そういうティアラも……ほれ、口元にクリームがついてるぞ!」
ジルは長い指でティアラの口元についたクリームを優しく掬い取って、ペロッと自分の舌で舐めとった。まるで、間接キスか何かのような仕草に、ティアラは思わず顔を真っ赤にする。
すると、二人のやりとりの一部始終を見守っていたオマセなミリアが一言。
「今日の朝食の一番甘いドルチェは、ジルお兄ちゃんとティアラさんの間接キッスで決まりだねっ」