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02 聖女様と呼ばれて


 久しぶりに見た街の光景は、ティアラが記憶していた頃のものより殺伐としていた。飲み屋の軒先で地べたに座り酒を飲む者、お椀を手に持って物乞いをする親子、夕刻から客引きをする化粧の濃い女性。


 特に物乞いをする親子に対しては、見てみない振りをする者もいたが。ティアラは、わずかでもチカラになれるようにと、手持ちのお金をささやかながらお椀に入れた。


「よろしければ、どうぞ」


 シャランッ!

 銀貨数枚がお椀の中で転がり、音を立てて存在を示す。ティアラにとっては、数日前までの収入のごく一部であったが。この親子にとっては、1ヶ月分の食費だ。


「いいんですかっ? こんなにたくさん。なんて慈悲深い方なのかしら、ありがとうございますっ。1ヶ月分の食糧だわ……移民列車にも乗れるかも。ほら、お前もお礼を言って!」

「お姉ちゃんありがとう。まるで……伝説の聖女様みたいだっ」


 煤で汚れた少年の満面の笑顔は、ティアラの心に深く突き刺さった。先ほどまでは、王宮を追放されて絶望しか感じていなかったけれど。この親子の食費のために追放されたのなら、それもまた神の思し召しだろう。


 ティアラが偶然、この場を通らなかったら、この親子は餓死していたかも知れないのだ。


「何か美味しいものでも、食べてね。列車の切符代にしてもいいし」


(聖女様か。追放されて、初めて市民にそう呼ばれるなんて)


 ふと空を見上げると、ぴゅうっと冷たい風が吹き付ける。


 迫りくる冬の風は、ティアラに何も答えを告げない。だが、追放されたはずのティアラは、人々の心を救う聖女そのものだった。


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