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ある少女




「ベルタ様?ベルタ様?」


どこからか使用人の声がする。


オルシーニ家。王国騎士として輝かしい功績により爵位が与えられた先々代の意向のもと、子爵家でありながら国の中心から少し離れた緑豊かな土地に屋敷を構えている。



その屋敷で名前を呼ばれている少女は、よく整備された中庭の芝生に身を預けていた。


チュールスカートやレースで彩られた首元が愛らしい薄いアメジスト色のカジュアルドレスに包まれており、ドレスで引き立てられたさらりと流れる桃色の髪は、緩やかにカーブを描き、丁寧に紡がれた絹糸のようである。


彼女は使用人の声でぱちり、と目を覚ますと緩慢な動きで体を起こし、一度伸びをする。

そして、辺りを見回す様子もなく30メートルほど離れた使用人の方へ顔を向けた。


「ここにいるわ!」


まだ眠気の残る笑みで使用人に向かい、手を振る少女。子供特有のあどけなさと懐っこさを向けられて、嫌な気持ちになるものはそうそういないだろう。

しかし、今は状況が悪かった。


「ベルタ様!またそのような場所に横になられて!」


少女、もといベルタがいるのはオルシーニ家の中庭。青々と敷き詰められた芝生の上に座り込んでいた。その背中には多少の土汚れと葉っぱがついており、寝転んでいたのが丸わかりだった。


ずんずんと肩をあげて近づいてくる使用人に怖気付く様子もなく、ベルタはドレスの汚れを払いながら立ち上がる。


「気持ちいいのよ?地面に寝そべって空を見つめるの。草の匂いと空の青さを一気に知れるわ!」


いつのまにか寝てしまったのだけど、と悪びれずに言ってのけた少女に、使用人から怒りの声が飛んだ。


「いけません!ベルタ様はオルシーニ家のご息女として立派な淑女になっていただくのですから!」



こうなると長い。

ベルタは反省している素振りで、内心ため息を吐く。


決められたレールなんて絶対に嫌。

今世こそは自分で生き方を決めるんだから。


ベルタは転生者である。

前世は裕福な家庭の一人娘であった。暮らしには苦労しなかったが両親はとても厳しく、髪型、洋服、学校、挙げ句の果てには結婚相手まで決められている。そんな環境で育ってきた彼女は、死ぬまで反抗できなかった。


なにもかも全て親に従った結果、親が見つけてきた夫は浮気ばかりで家に帰って来ず、舅姑からは事あるごとに文句を言われた。耐えかねて親に相談すれば、それも私の責任なのだと。元の体質故かストレスからか子供も出来ず、ますます形見の狭くなる生活。

覚えているのはどこまでだったか。



親の人形。そんな人生うんざりだ。



転生したと理解した瞬間、目が覚めた。

やっぱりあの環境はおかしい。

元の生活の異常さは、ふんだんに親の愛情を感じる今世で十分思い知った。


そして今世こそは何にも縛られず自由に生きると心に誓ったのだ。



「聞いていられますか、ベルタ様?」

「もちろんよ」



初心に帰っていて使用人の話など全く聞いてなどいないが、使用人は怒ると毎回同じ話をするので問題ない。大きく纏めると、いい嫁ぎ先にいけるように女磨きをしろ、ということである。


ベルタは今の自分を客観的に見る。


ありがたいことに、今世の私の顔は派手さはないがバランスよく整っている。それどころか可愛いと自分で言えるくらいである。というかめちゃくちゃ私のタイプ。

ピンクの髪に青い目というなんともメルヘンチックな外見、肌も子供特有の綺麗さで、転生最高、と思ってしまうのも仕方がないだろう。


毎日鏡を見るたびに可愛い、とため息をついてしまいそうだ。

側から見るとただのナルシストだから気を付けてるけどね!


実際9歳という幼さの補正はあるが、十人に聞いたら十中八九が可愛いという外見に、上等な生地で作ったドレス、よく手入れされた髪。

外側だけ見れば、大人しめの愛くるしいお嬢様だ。

可愛い顔に生まれたのだから、その顔に見合った行動を、というのも使用人の口癖である。



未だ説教を続ける使用人の話の、区切りの良いところで口を開いた。


「ところで私に何か話でもあったのかしら?」


今日のお稽古は全て終わっていた。特に言いつけられていた用もないと記憶していた。

ベルタを呼びにきた筈の使用人に本来の要件を促す。


「あら、そうでした。申し訳ありません。

フェリクス様がお帰りになられたら、隣の森へ狩りに向かうようですので、同行したいのであれば準備をしておくように、との伝言です」


私としては行かせたくないのですが、と使用人は頬に手を当ててため息をついた。

しかし、ベルタは使用人の言葉など全く意に介さなかった。


「本当!すぐに準備するわ!」


伝言を聞いた瞬間、丸みの帯びる瞳をきらめかせ、ドレスの裾をたくし上げ、軽快に走り自室へ向かった。

またもや使用人の叫び声がオルシーニ家に響いたことは言うまでもない。






軽やかに歩く蹄の音がする。


ベルタはオルシーニ家の正門が見える部屋で、フェリクスの到着を待ちわびていた。

遠くから聞こえ始めたその音に心を踊らせる。

思わずそわついたのを勘違いした使用人には、お手洗いを勧められてしまった。使用人にはまだ聞こえてないのだろう。


しばらく蹄の音が聞こえたのち、キキ、と独特の金属音を響かせながら門扉が開く。

そこにシンプルながらも品のある馬車が入ってきた。フェリクスの乗っている馬車である。

それを確認して、すぐにベルタは部屋飛び出しフェリクスの元へ向かった。

今度は怒られないように早歩きで。




「フェリクスお兄様!」


馬車から降り、使用人達に外套を預けながら軽く談笑しているフェリクスの元へ走り寄る。

フェリクス・オルシーニ。ベルタよりも青みの強い髪に、王子然とした整った顔をしている彼はベルタの兄である。

兄がこんなに綺麗な顔をしているのだから妹の私も可愛くなるわけである、とベルタは兄の顔を見るたびに思う。


「ベルタ!」


齢十二の少年であるフェリクスは、駆け寄ってきたベルタを軽々と抱き上げその場で一回転をした。

ストン、とベルタを地面に降ろした後、フェリクスは腰を屈めてベルタと視線を合わせた。


「ただいま、ベルタ」

「お帰りなさい!フェリクスお兄様!狩りへ行かれるの?」


挨拶もそこそこに、本題を切り出したベルタにフェリクスは苦笑する。


「あぁ、俺の準備が終わったら出発するつもりだよ。ベルタも準備を……、と終わってるみたいだね」


準備をしなさい、と続けたかったようだが、ベルタの顔と格好を見てそれ以上は言うのをやめた。


ベルタはフェリクスからの伝言を聞いて、すぐに自室に戻り動きやすい格好に着替えた。長袖のアンダーウェアに半袖のシャツ、そして七分丈のキュロットパンツである。本心を言えば、ショートパンツのようなもっと体に沿った動きやすいものを着たかったのだが、使用人がお察しの通りである。


こんな可愛い顔と細い体をしてるのだからミニスカートとかも履きたいのだけど、この世界では貴族が足を出すのはあまり良しとされない。

転生も一長一短だ。



「じゃあ詳しい説明は後でしよう。私の準備が終わるまで少し待っていなさい」

「わかりました、フェリクスお兄様」


ぽん、とベルタの頭をひと撫でし、フェリクスは自室に向かった。


普段通りの狩りなら説明などなく、森へ行き適当に散策するだけである。

説明がある、ということはいつもの狩りとは違うのだろうか。


なにか不穏な空気を感じる。



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