王家への呼び出し2
「はぁっ……建物は変わったけど、この街は相変わらずきれいなままだなっ……はぁっ……」
シークは息を切らせながら海辺を走り、なつかしさに浸っている。
「初めて見たけどきれいだよねー」
隣を走るカーラは、余裕そうに言った。
「はぁっ……初めて? ……はぁっ……」
「だってずっと森の中にいたからねー。あっちも良かったけど、ここも新鮮だよー」
「そうか……」
それは間違いなく、シークの氷体を管理するためだったのだろう。
一体この家系は、何代にわたってシークの氷体を管理、いや守り続けてきてくれたのだろうか。
「はぁっ……それにしてもカーラは体力があるなっ……はぁっ……」
シークに体力がないのは間違いないが、それと比較せずともカーラの体力は底なしのようだ。
「小さいときから森を走り回ってたからねー。魔法はからっきしだけどー」
「はぁっ……魔力は溢れるほどあるじゃないか」
シークは昨夜の様子を思い出す。四百年前若き賢者と呼ばれたシークよりも多い。あれだけの魔力を持つ者は四百年前もいなかった。
「でも全く制御できないんだよねー」
「そうか……」
魔法とは自身の魔力で魔法陣を構成し、その魔力を変質させることで発動する。
魔法の威力は魔力量と変質の効率で決まるが、制御できないということは魔法陣を構成できないということであり、つまり魔法が使えないということだ。
「魔法っていうのは魔法陣の描画が最高にして最大の奥義で、効率や魔力は二の次らしいからねー。魔法を使うことは早々に諦めたよー」
カーラの悲し気な言葉は、シークにとっては違和感の塊だった。
「なんだその奥義は?」
シークは立ち止まって聞いた。
「おかーさんが言ってたよー」
「どういうことだ……」
魔力、魔法陣の描画、変質効率はそれぞれが魔法の重要な要素だったはずだ。もしかしたらこの世界の環境が変わってしまったのだろうか。
試しに手のひら大の魔法陣を描き、魔法を発動する。
人の頭ほどの氷塊が生まれた。
「昔と何も変わっていないじゃないか」
「きれー」
カーラが氷塊を覗きこんだ。
「こういうこともできないのか……」
「できるわけないよー」
カーラが笑いながら答えた。
もしかするとこの国の魔法教育の方針が変わったのかもしれない、とシークは無理やり自信を納得させた。
それにしてもカーラほどの魔力量を活用できないのはもったいない。何かいい使い方は無いものだろうか。
「そうだ」
シークは自身がかつて利用した武器を思い出した。
「思う存分、というわけにはいかないだろうけど、カーラでも強い魔法が使える方法に心当たりがある。うまくできそうならば作ってみるよ」
「ほんとっ?」
カーラが飛びついてきた。
「手先の器用さには自身があるからな。すぐには無理だけど期待していていいぞ。それに魔法を使えなくても魔力を活用できる戦い方も知っているから、機を見て教えよう」
「やったっ」
カーラがぱぁっと笑顔になった。やはり魔法が使えないというのはコンプレックスになっていたのだろう。
恩人一族、いやシークの家族のためだ。
なんとしてでも彼女に魔法を使わせてあげたい。そう決意を新たにしたところで、アルベルがこちらに歩いてきた。
「いたいた。そろそろ行く時間だから、二人とも身支度を整えなさい。シーク、お前は汗だくだから、準備をする前にまず水を浴びなさい」
「私はー?」
「お前は汗一つかいてないだろう。帰ったらとっとと着替えなさい」
「えー……」
「まぁ、シークが帰るまでに浴びてしまえるなら、シャワー使ってもいいぞ」
「やった。じゃあ弟くん、先帰ってるねー」
カーラはすごい勢いで走り出した。
それはシークの全速力以上の速度だ。
カーラは速度を維持して走っていき、しまいにはシークの視界から消えてしまった。
「とんでもないな……」
わが姉は、とんでもないスタミナを持っているようであった。