ウサギとガブリ
都へつづく煉瓦の道を、よいせよいせと進む馬車の中で、ウサギは目を覚ましました。
どうもぼんやりして、近い記憶がありません。頭はずきずきと痛んでいます。
耳の生えているところを抑えながら、ウサギは薄暗い車内を見わたしました。1匹が旅をできそうな少しの荷物と、お金のたくさん詰まった袋がありました。
「あら、起きたの?」
御車席から声がします。ウサギはその姿を一目見ようと、幌のすき間をのぞいて――きゅっと声を詰まらせました。
『近づいちゃだめよ、皮をはいで食べられちゃうわよ』そうやって、何度もお母さんから聞かされていた、怪物ガブリがそこにはいたのです。
馬車が止まります。
ウサギはすきをついて逃げようとしました。しかし、ズキン――強く頭が痛んで、動けなくなってしまいました。
「あら、まだ激しく動いてはいけないよ」
荷台へ来たガブリは、医療キットを取り出すと、ウサギの頭に触れました。
『油断しちゃだめよ、食べられちゃうわよ。』お母さんの声が木霊します。
「ほら。まだ痛む?」
痛みがやわらぐと、ウサギは息を荒くして、威嚇しました。ウマがヒヒンといさめます。
ウサギがようやく警戒を解いたのは、三ヵ月ほどいっしょに過ごしたころでした。
★★★★★★
「昔からね、誤解されてきたんだ」
ある夜、ガブリは語りました。
「野蛮で恐ろしいやつだって。近づくとひどい目に合うぞって。私たちだって、色々いるのに。都の新聞社には載らない、優しいやつがさ」
ウサギは目を細めます。ガブリはあわてて手をふりました。
「ちょっと、そんなんじゃないわよ。私のことじゃなくて、友達のこと」
ガブリはひと時だけ、遠くを見つめました。
「でも、あなたたちは私の支えよ。都まで、ついて来てくれる?」
ウマは鳴きました。ウサギは一度視線を下に送って、ガブリの潤んだ瞳を見上げました。
★★★★★★
ウサギがガブリと出会ってから、三十が十二回ほど太陽がのぼりました。
都へはあと少しでしたが、ウサギたちは困り果てていました。最近、誰も、ガブリに物を売ってくれないのです。ウサギは計算ができなくて、ウマは乗り物扱いなので商売をする動物はいません。
ウサギは一生懸命に計算を覚えようとしましたが、時間は待ってくれません。ガブリはすっかりやせ細り、命は尽きかけていました。
ウサギは決断します。ナイフを運んで、ガブリの前に持っていきました。
私を食べて、故郷へ帰って、老いるまで生きてくださいと、熱い瞳で伝えました。
ガブリは――、
ガブリは、首を横にふりました。
「友達は、食べないよ」
掠れた声で言いました。
「お金、全部使って。干し草、ニンジン、いっぱい買って。それから――」
目を閉じて、笑いました。
「ありがとう」
ウサギとウマは、星が眠るまで泣きました。そして歩き出しました。
お金をもとに、勉強して、たくさんお金を稼いで、ガブリに立派なお墓を建てました。
ウサギは寿命がくるその日まで、相手を噂や見ため、レッテルで決めつけてしまうことを、厳しく注意したといいます。
了