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前編「先輩、かわいい」






――先輩あのひとはヒーローで、後輩あたしは怪獣だった。






 抜けるように青い空、遠くから聞こえる誰かの笑い声、新築されたばかりの真新しい屋上。

 春のあたたかな日差しに、つい、うとうとしてしまう季節。

 人気の少ない屋上――といっても施錠されているわけではなくて、ただ単に教室から遠くて不便だから誰も使っていない――の一角に腰を下ろす。



 いつも通り、一人だった。



 あたしと先輩が出会ったのは、そんなある日の昼休みだった。



「――いつもそこにいるよな」



 第一印象はなんか怖そうな人、だった。

 というか、知らない男の子、それも体の大きな年上に話しかけられたら普通はびっくりする。

 そうだ、自己紹介をしよう。


 あたしは今年の誕生日で一三歳、この春に進学したばかりの中等部一年生。

 人より少し背が大きいけれど、花も恥じらう乙女です。


 それに対して先輩――つまり突然、三歳も年下の女の子に話しかけちゃう困った人――は、身長一七四センチ、一五歳、高等部に進学したばかりの一年生。

 中等部と高等部が一緒の敷地にある、大きな学校だから、こういうこともある。

 それで、先輩はあたしより二二センチも身長が高い。

 目鼻立ちはきりっとしてて大昔のお侍さんみたいで、今どきのイケてる美形ってやつにはちっとも似てない。

 中世が舞台の映画で、血みどろになって刀とか槍とか振り回してそう――って言ったら、ものすごく凹んでたので二度と言わないと心に決めている。


 閑話休題。

 とにかく、当時のあたしはびっくりしたので、不用意にも返答してしまった。

 なんだこいつ、という本音もばっちり顔に出ていたと思う。


「いたら、悪いんですか?」


 警戒心と反骨心と不機嫌さが絶妙にブレンドされていたと思う。

 我ながらアレはダメな反応だった。

 しかし先輩は気にした風もなく、こともなげに言った。


「悪いってことはないな――ただまあ、アレだ。そこ、俺の定位置だったもんでさ。邪魔したか?」

「邪魔です」

「遠慮ないな」


 この時点でだいぶ毒気は抜かれていた。

 体は大きいし、顔つきだって厳つい方なのに不思議と安心できる人だった。

 男の子に抱く印象としてはどうなんだと思うけど、先輩からはママと同じ雰囲気がしたから。

 初日の会話はそれっきりで、先輩はおもむろに懐から取り出したお弁当――後で聞いたところによると先輩が自分で作っているらしい――をむしゃむしゃ食べると去って行った。

 何しに来たんだろう、この人。

 そんな風に思っていたが、不快感は感じなかった。

 今にして思うと、先輩は突飛なようで距離の測り方が上手い人だったんだと思う。


 とにかく、あたしの一人きりのお昼は変わった。

 何かにつけて先輩がやってくるようになったのだ。

 どういう理由で先輩がやってきていたのかは、すぐに種明かしされた。


「せんぱい、ひょっとしてあたしの顔知ってました?」


 どこかであたしの噂を聞きつけて果敢にも踏み込んできた、といったところだろうと当たりをつけてはいた。

 その程度に、あたしを襲った不幸は有名だ。


「おう。図書室、俺も常連だからな」

「あー……」


 心底、嫌そうな声が出ていたと思う。

 図書室に入り浸っていたあたしは、おなじく図書室の常連である先輩――なんでも新聞部の資料閲覧でよく利用するのだとか――に顔を覚えられていたらしい。

 つまり先輩にとっては前々から顔を知っていた後輩、ということで。


「一方的にマークしてるのってストーカーみたいですね」

「ま、同じ図書室利用者のよしみだな――あとは俺の趣味」


 流された。

 理由になっていないし、こんな寂しいところで弁当食べるのが趣味のやつなんてそういないので尋ねてみた。

 

「友達いないんですか」

「今は気まずいんだよ……」

「喧嘩でもしたんですか」


 そんなところだよ――というのは、たぶん嘘だった。

 先輩は世話焼きでお節介野郎である。

 そしてあたしは他人からかわいそうと思われるのが大嫌いだ。

 まず馬鹿にされていると感じるし、言葉ばかりの慰めを笑顔で受け流すのだって楽じゃない。

 だから一人でいられる場所へやってきたのに。

 この先輩も、あたしをかわいそうと思っているのだろうか――そう考えると、猛烈に腹が立ってきた。

 なので不意打ち気味に暴言をぶつけた。


「三年ぐらい先に生まれたぐらいでえらそうにしないでください」

「……そういうの、あんまり口に出さない方いいと思うぜ。気持ちはわかるけど」


 生まれた順番で尊敬できる順番も決まってたら、もっと世の中、生きやすいはずだよな、と呟く先輩。

 あれ、ここで怒らないんだ、っていうのが正直な感想。

 うん、なんていうか――この人、変だ。


「せんぱい、ここで怒らないのって変ですよ」

「わかってて言うのはもっとダメだろ。怒るぞ」


 そう言いつつ、先輩の顔にも声にも怒気はなかった。

 どちらかというと、呆れ半分な感じ。

 これじゃあまるで、あたしが子供っぽくて先輩が大人みたいだった。

 腹が立った。

 おのれ絶対にこの男の本性を暴いてやる――ムキになったあたしは、そりゃあもう、いろいろ遠慮なく言ったように思う。

 教室でもおじさんとおばさんの家でも、当たり障りのない言動を心がけているあたしにしては、珍しく、配慮ゼロの暴言ラッシュだった。

 一連の暴言を聞き終えた先輩の反応は――



「…………おまえ、結構、口悪いのな」



 完全にダメな子を見る目だった。

 呆れられていた。

 おかしい、ここは先輩がムカッ腹を立てて去って行き、あたしがその人間性の醜さを暴き立て勝利する場面では。

 謎の敗北感と共にうなだれるあたしを、先輩は生暖かい視線で見守っていた。

 やはり先輩は変な人であり、ママによく似ていた。

 しょうがない子を見る目がママそっくりだったので間違いない。



 断じて、あたしが初等部から進歩してないとか、そういう理由ではないのです。



 そんなこんなで、先輩とあたしはお昼を一緒に食べたり、放課後の図書室で少し話すぐらいの仲になった。

 自慢ではないけれど、あたしは人見知り方であり、同性の友達を作るのにだって苦労するたちだ。

 当然、男の子はもっと苦手である。

 よもや、そんなあたしが男の子――それも高等部の先輩と友達みたいになるなんて。


 断じて、妹を見守るお兄さんとかではないのです。

 聞くところによると先輩には妹さんがいるそうだけれど、おそらくきっとたぶん、あたしへの妙に生暖かいリアクションとは無関係のハズ。

 そう、先輩とあたしは対等の友達のハズなのです。


――いや、本当のことを言うならば。


 先輩は無神経なようでそうじゃなくて、決してこっちが触れて欲しくないことには口出ししない人だから、一緒にいるのは心地よかった。

 だからあたしは、初見のときの反感はどこへやら、ずるずると一緒にいるようになってしまった。





 先輩は不思議な人だった。

 ぶっきらぼうなようで気配り名人で、そっけないようで包容力があって、ツンツンしてるようでとっても優しい。

 一緒にいると、まるでお日様みたいに心がぽかぽかする。

 それにしてもわからないのは、そんな彼が、こんなへんぴで寂しい屋上の片隅にやってくる理由だ。

 クラスで浮いてるようなタイプには見えないけれど。


――あたしが寂しそうだったから?


 もしそうだったなら、あたしはもう、先輩と一緒にはいられない。

 哀れまれるのも、見下されるのもまっぴらごめんだった。

 一度、思い詰めてしまうともうダメだった。頭の中がそれだけになってしまって、とても他のことを考えられない。

 だから思い切って尋ねてみることした。




「どうしてせんぱいは、あたしと一緒にいてくれるんですか」


 放課後の図書室、文学コーナーの前の長い机の隅っこに陣取って、いつも通りに先輩と向き合って。

 窓からわずかに差し込む西日のあかね色は、お世辞にも本には優しくない光だけれど、とても綺麗だった。

 新聞部の調べ物だとかで、新聞のバックナンバーと何かの名簿を突っつき合わせていた先輩は、あたしからの問いかけに顔を上げた。


「それ、そんなに大事なことか」

「大事じゃなきゃ、こんなこと口に出さないです」

「……だよな」


 いつも通りの軽口を叩こうとしたのだろう彼は、あたしの顔を見て、すぐ真剣な顔つきになる。

 きっといい加減に受け流されることだけはないと信じられた。

 だから、自分で自分の傷口をエグるような台詞も言ってしまえた。



「家族を亡くしたかわいそうな子だから、あたしに声をかけたんですか」



 有名な話だ。

 夜間に走行中の乗用車が、無人の自動運転車両と衝突事故を起こして、親子三人が死傷した――言葉にしてしまうとこんなにもあっけなくて、新聞の見出しみたいにつまらない。

 親子三人のうち唯一の生存者あたしが、奇跡的に無傷だったのもあってニュースでも大きく取り上げられた。

 自動運転車両の交通管制システムの元締めたる世界企業オムニダインの責任も取り沙汰されたせいで、一時期はニュースがこれ一色になった。

 それが今から三ヶ月前のこと。


 当事者であるあたしでさえ、今でも現実感がない。

 パパもママも、長い出張にでも出かけていて、そのうちひょっこり帰ってくるんじゃないかって。

 そう、錯覚してしまう。

 映画みたいに悲劇を受け止めて涙を流せるのは、よっぽど人間ができている子じゃないと無理なんだなって、我が身に降りかかって初めて気づいた。

 あたしは今でも、長い悪夢の中にいるような気がしている。




「言っておくけどな、俺はそこまでお人好しじゃない」


 先輩の返答は言葉足らずだった。

 おまえがどこの誰で、どんな事故事件に巻き込まれたかなんて一々調べて声かけるほど暇じゃない――そう言いたげな声音だった。

 どう返していいかわからず、あたしが沈黙していると、先に口を開いたのは先輩だった。


「おまえがどんな人間なのか、俺は知らない。だから気の利いたことなんて言えないけど――」

「知った風なこと言わないでください。せんぱいはなんにも、あたしの気持ちなんてわからないじゃないですか!」


 わかるさ、と先輩はうなずいて。




「――だっておまえがつらいのは、一人でいることじゃなくて、一人をかわいそうと思われることだろ」




 はじめて、だった。

 こんな風に、自分の心をぴたりと言い当てられるのも。

 同情も憐憫も好奇心もなく、純粋な共感だけを投げかけられたのも。

 

 何も言えなかった。

 あたしはただ、目をまん丸に見開いて。

 じわり、とゆるんだ涙腺からあふれ出す雫を自覚したときには、何もかも手遅れだった。

 声を押し殺して、目頭を押さえた。


 泣くな、泣くな。

 今だけは泣いちゃダメだ。

 だって、あたしは今、こんなにも――



――うれしいのに。



 そっとあたしにハンカチを差し出す先輩は、優しい目をしていた。

 もう過ぎ去ってしまった何かを追憶するような瞳。


「難しいよな、思ったように生きるのは」


 そう、あたしはこのとき、先輩のことを何一つ知らないと気づいたのだ。

 先輩の名前も、クラスも、部活も知っているけれど、この人の過去も心の中身も、あたしはぜんぜん知らない。

 知りたい、と強く願った。


 胸の奥にこみ上げる感情が、何なのかわからない。

 熱くて、熱くて、息が詰まりそうなぐらい激しい嵐のようで。

 夕焼け色に図書室を染め上げる、沈みゆく太陽よりもまぶしくて、きらきらした感情。




「泣いていいんだよ。いつか、笑いたいときに笑えばいい」




 初恋だった。















「せんぱいはヒーローって信じます?」



 夏休み明けだった。

 例年になくテンションが高いあたしは、うきうき胸を弾ませながら問いかけた。


「なんだよ、やぶから棒に」

「せんぱい、夏の暑さにもめげず、頑張って外回りの取材をする熱心なせんぱいってかわいいですね」

「……おまえ、皮肉も言うようになったのか」


 エアコンの効いた図書室の机に突っ伏す、情けない先輩を見下ろすのは後輩の特権です。

 最近のあたしは絶好調だから機嫌だっていい。

 この夏は、有意義な成果に満ちた夏だった。

 先輩の妹(ナツミ)さんが同じ学年にいることを突き止めたあたしは、なんとか彼女と仲良くなることに成功。

 古人曰く、将を射んと欲すればまず馬を射よ――ちまちま聞き出したところによると、なんでも先輩は長年の付き合いの幼馴染みに告白して見事に玉砕したのだという。

 一緒にお弁当を食べるぐらい仲がいい相手に、である。

 なるほど、それは気まずいだろうなと思う。

 すると「教室にいると気まずいから屋上に来た」というのも嘘ではないらしい。


「せんぱいのことを可愛いと思ってるのは本当です」

「そうか。やめてくれ。正直凹む」

「せんぱいって失恋とか引きずるタイプなんですね」


 うあーとゾンビめいた声を上げていた先輩は、失恋と聞いた途端に顔をあげた。

 眉をひそめて眼光も鋭くなると、中々、迫力のある顔つき――今にも日本刀とか抜刀しそう――だけれど、そういうの女の子に向けると無駄に怖がられるのでやめた方がいいと思います。

 もちろん、あたしとしてはウェルカムですが。


「……ナツミか。あのバカ……」

「パフェおごったら教えてくれました」

「安いな、俺の個人情報」


 情報源が一瞬で特定されたけど、そんなことはどうでもいいのです。

 再び机に突っ伏した先輩の表情はうかがい知れないけど、この四ヶ月のつきあい――夏休み中も何かと理由をつけて先輩と顔を合わせていた――でなんとなくわかるようになってきた。

 アレです。

 もう四ヶ月も前の失恋を反芻はんすうしているときの雰囲気です。

 まったく先輩ときたら、情けないときはひたすら情けないのでダメです。

 言葉の端から未練たらたらなのがわかるので、先輩の中では現在進行形の恋らしいのがしゃくですね。


「せんぱいの秘密なんてわかりやすすぎて秘密になってませんから。それより、この夏調べてたネタは記事になりそうです?」

「……それをまとめようと頭ひねってたんだよ」


 先輩は新聞部で活動しており、夏休みの間はその取材に精を出していたのだ。


「せんぱい、もう諦めて適当な噂話まとめとかにしましょうよ。夜な夜な現れる髑髏仮面スカルマスクとか有名じゃないですか、ウケいいですよ」


 髑髏仮面というのはここ一、二年の間に目撃証言が増えているお化け(ブギーマン)の噂話だ。

 犯罪の被害に遭いそうになっていたところを助けてもらった、という具体的な目撃証言から、夜闇に紛れて路地を走っているのを見たとか、曖昧なものまでいろいろある。


「それ、怪人とか不審者の類だろ。面白がって近づくなよ」

「えー……こういうの、普通、取材とかいって突っ込むのは新聞屋さんですよね」

「俺は学生のアマチュア、所詮は趣味の延長だ。そんな危ないところに首突っ込む気はないよ」


 新聞部と銘打ってはいるけど、主な活動媒体メディアはもっぱらインターネット上の記事の更新だとか。

 一応、保存の意味もかねて紙で刷ってはいるらしい。


 我が校の新聞部は、学生が運営主体の割わりに玄人はだしで本格的だ。

 掲載される記事の内容もバラエティ豊かで、校内の行事レポートから、地域の歴史や民間伝承についての凝りに凝った記事までなんでもござれ。

 その分、こだわる部員の更新頻度は恐ろしく低くて、下手すると一学期に一回あるかどうか。

 そして先輩は凝りに凝る方の部員なので、たまに力作を投げつけるタイプだった。

 部活動なので、誰もそこまでクオリティは求めていないし、事実、頻繁に記事を更新する部員はもっとサクッと手抜きしていくスタイルだ。

 つまり先輩はかわいい。

 不意に、先輩がぬっと顔を上げた。


「で、ヒーローを信じるか、だったか」

「あ、あたし脱線してましたね。流石です、せんぱい」


 なんだその太鼓持ちみたいな台詞、と苦笑する先輩。


「ヒーローっていうと……ドラマや映画に出てくるやつみたいな?」

「別に変身したりビーム出したりしなくてもいいですよ」

「覆面とかコスチュームとかは、別にヒーローの条件じゃないと思うけどな」


 あ、この返答はこだわりがある人っぽい。

 先輩は意外と一家言あるタイプなのかもしれない。


「髑髏仮面なんていかにも夜闇に紛れるヒーローって感じがしません? 密かに活動して市民を悪から守る、って感じの」

「髑髏仮面なあ……たぶん実在するんだろうけど、それだけにコスプレした不審者の線も捨てられないし、俺は保留しておきたいな」


 この夏の取材で、先輩はいろいろなことを調べていた。

 どうやらその過程で実在を確信するに至った都市伝説もあるようで、髑髏仮面スカルマスクはその一つらしい。

 実在する人物だとわかっているから、なおのこと、私刑リンチを行う犯罪者の可能性があるものに対して先輩は厳しい。

 そういう人だと、なんとなくわかってきた。


「まあ、俺個人の願望としては……夢みたいな超人がみんなを助けてくれたらいい、なんて話よりは、みんながもう少しだけ他人に優しくなった方がいいな」

「ボランティア活動とか慈善活動とか、ですか?」

「そういうのも含めて、かな」


 知ってるか、と先輩がしゃべり出した。

 こういうときの先輩は大概、連想ゲームのスイッチが入った状態なので突拍子もないことをよく言い始める。


「この街は、他の地域に比べて噂話……都市伝説フォーク・ロアの類が抜群に多いんだ。人が多いと言っても、同じような人口の都市と比べたら一目瞭然ってぐらいに」


 確かにこの夏、先輩の影響であたしが少し調べただけでも、この都市――臨海部の新市街とその周辺の旧市街からなる地域――ローカルの都市伝説はやたらと多い。

 地域資料館や古い寺院なんかに残ってる、昔からの伝承を含めると膨大な数になる。


「それがヒーローとどう関係あるんですか」

「茶化すなよ」


 ぎぃ、と音を立てる椅子に背もたれに体を預け、天井を見つめるようにして。


「昔、この土地には独特の信仰があったらしい。なんでも『空の果てから神が降りてくる』って伝承でな――時の王朝に征服されてからは、降りてくる神は太陽神ってことになった」

「ことになった、って変な言い方ですね。もとは何の神様だったんですか?」

「わからない。伝承が失われたのか、元々そんなものはなかったのか……御利益があるのか、災いをもたらすものなのかも書いてない。とにかく、昔からこの土地はそういう得体の知れないものがやってくると信じられてた。案外、そういう土地柄だからヒーローやお化けを信じたくなるのかもな」


 あ、これ記事のまとめ方を考えてる顔だ。

 ぶっきらぼうな先輩らしくなく、だらだら長文垂れ流す感じなので間違いない。

 先輩の記事の一読者として伝えるべきだろう、正直な感想を。

 

「うさんくさいオカルト雑誌みたいですね」

「……やっぱそうだよなあ」


 こうして、あたしと先輩の過ごす夏は終わって――すぐに秋がやってきた。

 結局、先輩はそれらしくまとめた都市伝説とその起源についての考察記事――土着の伝承や信仰も絡めた、やたらと参考文献の数が多いテキスト――を更新。

 一部の好事家から好評を得たらしいけど、我が校の読者の大半は「目が滑る」と読み飛ばした。

 まさに先輩という感じの結果です。

 そこがかわいい。


 それがこたえたのか、それとも件の幼馴染みのことがぶり返したのか定かではないけれど。



 しばらくの間、先輩は何かを考えるように、空を見上げることが多くなった。

 取材といってふらっといなくなることも増えて。

 そのくせ何の取材なのかはわからずじまいで。


 そうしてまた、あたしの知らない先輩が増えていく。



 ちょうどそのころだった。








――この都市まちに、銀色の超人が現れるようになったのは。








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