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まにまにのほころび/あおあおさくら  作者: 藤泉都理
本編 に 双手腕之瞬
43/45

秋ともし






 逃げ出したのだきっと、

 幻滅されるのが怖くて。







『君はお金を盗む。僕は別の物を盗む。盗んで、鍛えて、君も僕も世界を壊す。けど、僕は君とは違う。僕が壊すものは、』


 激しく動揺したのは。

 神様を壊すと言われた事。

 だけではなかったのだ。

 泡儀の強い意志。

 どんな状況下でも変わりはしないとても強い。

 比べて。

 自分はどうなのだろうか。

 岩石を斬って、今の故郷を見たい。

 記憶がないのに、今の故郷を見たい。

 荒廃しているだろう故郷を見たい。

 この心はどこから生まれたのだろうか。

 本当は記憶を取り戻したいとでも思っているのだろうか。

 記憶を取り戻して。生きて行きたいと思っているのだろうか。

 記憶を取り戻してから。両親の元に、あの人の元に逝きたいと思っているのだろうか。

 今のままでは、死は赦されぬと。思っているのだろうか。




 焦燥はどこから生まれたのか。

 早く早くと責め立てるこの心は。

 命をくださいと。

 この心が、竹蔵に乞わせたのか。

 自分一人では叶えられないから。

 覚悟の上ではなかったのか。

 違うから。

 竹蔵の覚悟に応えられない後ろめたさで、こんなに苦しいのか、揺らいでいるのか。

 逃げ出したいと思っているのか。

 早く終わらせたいと思っているのか。

 どうでもいいと、気持ちが切れるのを恐れているのか。




 本当は。

 本当は、どうでもいいと思っているのではないか。

 ただ、何もしないままに死んでは、死んだ故郷の人たちに。

 あの人に申し訳ないと。

 故郷を焦がれ、故郷に戻れぬ現実に激しく失望したであろうあの人に申し訳ないと。

 どうしてか、罪悪感を抱いているから。

 だから、




 焦燥は。

 この心はどこから生まれて来るのか。

 あの人に、両親に、故郷の死んだ人たちに。故郷の生きている人たちに、泡儀に、竹蔵に。

 後ろめたさを感じているからではないか。

 後ろめたさから生じる。






「私は、」






 皮膚を、肉を、骨を掻き毟って濁った血と共に。

 不要な感情を取り出したかった洗い出したかった拭い去りたかった。






「私はあの人に手を振り払われるのが、怖いんだ」






 恐怖を感じているのだ。






「絃さん」

「寿さん」

 

 自分にとってどうでもいい人。

 けれど、願いを叶える為には必要で、どうでもよくない人。


 絃は笑った。

 腹まで海に身を浸からせたまま。

 穏やかな海だった。

 波が連れ去ってはくれない。

 とても穏やかで静かな。


「絃さん」


 寿は馬型自転車を緩やかに下りては丁寧に砂浜に立たせると、焦らず急がず静かに海に入り、絃に近づき、易々と近づき、海に浸かっている手を惑う事なく掴んで言ったのだ。




 僕があの岩石を斬りましょうか。と。











(2023.2.24)



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