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まにまにのほころび/あおあおさくら  作者: 藤泉都理
本編 に 双手腕之瞬
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蚊帳の別れ




 一番手に君臨し続ける忍び、名を黒笹くろざさと言う。

 忍ぶるを尊重しているのだろうか。一見しても百見しても戦いに特化しているとはとても思えない体格、旋毛付近に短いポニーテールを形成する、まろ眉毛の四十代男性。

 生まれた時に言ったか言わなかったかは定かではないが、今なら断言する言葉がある。

 戦い大好き、と。

 一対一でも、一対無数も可。

 ただし、己と戦う意志がある者のみ。

 それ以外は捨て置く信条だが、内に秘めてそうだと勝手に判断して戦いを挑む事も、ある。






「久しぶりだな、竹蔵」

「久しぶり。黒笹」


 一番手の忍び、黒笹は馬型自転車を片手で持ち上げたまま、そして、竹蔵はその馬型自転車に乗ったまま話していた。


「相も変わらず強そうで嬉しいわ」

「おまえは。弱くなっていそうで悲しいな」

「あ~ら。やっぱり?よかった~。思わず守ってあげたくなっちゃうでしょ?」

「守ってやりたくなるっつーよりも。う~ん。強くなれって往復ビンタを喰らわしたくなる」

「やだ~。やばーん」

「そのきゃぴきゃぴした話し方は変わらないんだな」

「嬉しいからよ。いつも以上にお花が飛んでいるでしょ」

「さあな。周りのやつはよく言っていたが、俺様には見えていなかったからな」

「そー言えば、言ってたっけ。まあ、あんた、お花に興味ないしね」

「戦う事しかな。わくわくしねえし」

「本当に変わらないのね」

「嬉しいんだろう?俺様が変わらずに強いままで」

「そうね」

「嬉しかっただろう。俺様が仲間じゃなくて」

「それは保留するわ」

「嘘をつけ。嬉しいくせに。おまえは俺様と一緒で戦う事が大好きだった。本当はあのままずっと戦っていられたらよかったと思っていただろう。なのに、おまえときたら。急に忍びを抜けた。俺様がどれだけがっかりしたか、おまえには分からないだろうな」

「あんたも分からないでしょうね。どうしたって一番手になれない。あんたには敵わないって分かった時の私のとてつもないがっかり感は。とっても悔しくって。とっても悲しくって。急に思ったのよ。このまま戦っても無駄なのかしらって。なら、辞めたいって。だから、忍びを抜けた。ふらふら旅を続けたわ」

「そして見つけた」

「ええ。見つけた。だから命を懸けて主の願いを叶えたい」

「邪魔する者がいたら?」

「退ける」

「おまえより強い者でも?」

「ええ」

「俺でも」

「寿と一緒にね。あえて加えるなら、銀哉も」

「対面は諦めたか」

「ええ。諦めたわ。でも、強くなる事を諦めたわけじゃない」

「強くなるか?」

「なるわ」

「そうか。なら、今日はそれでよしとするか」


 破顔一笑した黒笹。ポニーテールを大きく揺らしながら、おもむろに馬型自転車を地に下ろした。竹蔵は馬型自転車に乗ったままハンドルバーに両腕を乗せて上半身を前に倒し、前のいる黒笹を見て笑った。


 終始、穏やかな時間が流れていた。


「ふふ。ぶん投げられると思ったのに」

「強くなると言ったからな。ぶん投げもしないし、往復ビンタもしないでおく」

「私以外にもするんじゃないわよ」

「気合が必要な時もある」

「やり方を変えなさいよね」

「やり方なあ………あ。髪を結ぶと気合が入る。髪を結んでやろう」

「それはそれで怖いけど、往復ビンタよりましじゃない。優しく結んでやるのよ。髪の毛を引き千切らないのよ」

「軟弱な髪の毛じゃなければ大丈夫だ」

「やだ。被害を増大させるような事はしないでよ」

「大丈夫だ。俺様を何歳だと思っているんだ?」

「永遠五歳男児」

「五歳は幼過ぎだな。十二歳にしといてくれ」

「はいはい。じゃあ、永遠十二歳少年ね」

「おう。つーか。いいのか?」

「う~ん。まあねえ。いの一番に行きたいのは山々なんだけどお。今回、だけじゃないけど。寿がちょっと不憫だったから。ねえ?」

「ねえって言われてもな」

「それに、あんたとは話したかったし。よかったわ。和やかな空気で。もっと殺伐した空気になると思ってたのよ」

「まあ。なあ」


 黒笹は腕を組んでは少しだけ顔を横に傾けた。


「俺様も戦い一択だと思ってたんだけどよ。おまえの顔を見てたら、その気がなくなった。今じゃねーなーって。まだまだ青いんだな、おまえ。少し待っててやるから、早く強くなれ。寿と銀哉と一緒でもいいからよ」


 竹蔵は半眼になった。


「あーあーやだやだ。上から目線。もーほんとやだ!あんた!本当に強すぎなのよ!」

「おう。嬉しいだろ」

「嬉しいけどね。嬉しいだけじゃないのよ。もう。あー何か腹が立って来たわ。もうあんたの顔はもういいわ。見たくないわ。もう私、行くわね」

「竹蔵」

「何よ?」


 ハンドルバーから両腕を退けて上半身を起こし、ハンドルグリップを掴んでペダルに足を乗せた時だった。黒笹を見た竹蔵は胸をざわつかせた。


「俺様も主と呼べる人間を見つけた。おまえの主と同じ閑雲出身の主は、」






 黒笹と別れた竹蔵はペダルを漕ぎ続けた。


(莫迦ね。本当に大莫迦)




 神様と戦えるって、嬉しそうにするんじゃないわよ。




『あ。でもその前にな。おまえの主の短刀を破壊しに行くからな。それまでは神様に戦いを挑まないから安心しろ』


(どうせけちょんけちょんに負かされて、喜んで再戦しに行くんでしょうよ)


 その光景を想像して、ちょっと口を尖らせた竹蔵であった。












(2023.2.23)




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