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まにまにのほころび/あおあおさくら  作者: 藤泉都理
本編 いち 一風船之彩
4/45

薄霞

「で。若旦那様。何を考えておいでですか?」



 絃と居間で別れた寿が今いるのは、尚斗の部屋だった。険のある言い方にも、尚斗は意に介さず、言っただろうがと口を開いた。



「絃と風船が気になった。何故気になったのか。それが知りたい。知る為にはどうすべきか。近くにいてもらった方が答えは見つかりやすい。終了」

「気になったって。絃さんが好きになったとかではないのですか?」

「それはないな」

「そんな自信満々に言わなくても……まあ、それはそれで困りますけど。ちょっと好き放題やり過ぎじゃないですか?」

「別に構わんだろ。俺の店なわけだし」

「否定はしません。ですが、絃さんが本気で嫌だと訴えてきたら、希望通り辞めさせてくださいよ」

「ふ~ん」



 にまにまと意味ありげに笑みを浮かべ始めた尚斗にたじろぐ寿。経験上分かる。この顔は絶対に碌な事を考えていない。



「ふんふん。そっかそっか。いやー。おまえをこの店で働かせてよかったな」

「何を考えているのか分かりませんが、その事に関しても僕はまだ納得していませんからね。僕は本業に徹すべきなんですよ」

「経験だって。経験。いつまでもあっちにいるわけにはいかないだろが」

「そりゃあ。必要だとも思いますけど」



 寿の口は自然と尖った。今回は意図してやっていないのだろう。納得いかない時、勝手になる癖だった。尚斗は目を細めた。寿はまだ早いと思っているのだろうが、自分はそうは思わない。裏から表に出るべきであり、当然裏に戻すつもりも毛頭ない。



(いずれ俺の優秀な右腕になってもらうわけだしな)



 本人に言えば、全力でお断りされてしまうだろう。その時の姿が簡単に想像できてしまい、ちょっと吹き出してしまった。




「そういや。また出たらしいな、幻灰」


 尚斗は懐に仕舞っておいた新聞を寿に手渡した。寿は折り畳んでいたそれを広げて、ざっと目を通すと溜息をついた。


「うちにも来てくれたら。尚斗様も少しはまともになってくれないでしょうか」

「失礼なやつだな。俺は至極まともだ」

「気になるんですか?」



 胸を張って答える尚斗に冷たい視線を向けながらも、寿は疑問をぶつけた。幻灰が出始めたのは半年前で奇妙な事件だった為、即座に世間に広まったが、尚斗が話題に出したのは今回が初めてだった。



「もしかして、絃さんが関係しているのですか?」

「ん?んー」


 寿は周りに人の気配がないのを確認し、声を潜めて問い掛けた。

 尚斗は腕を組んで考えた。数秒。答えが出たら解いた腕をひらひら動かした。


 話題は耳にしていても、そりゃあ奇々怪々だなと思いながらも大して気にはしなかった。うちに来たとしても、金は戻ってくるわけだし。悪徳店主は改心するわけだし。俺は悪徳じゃないから何も変わらないわけだし。だから気にしなかったのだ。



「確かに。今回が初めてかもしれないな、口にしたのは。だが、絃が気になったのは本当に風船を持っていたからだ」




(本当だろうか?)


 寿は尚斗を注視した。本人さえ気づいていないナニカを読み取ろうとするように。



 この人の第六感は五分五分の確率で意味を持つ。人なり物なり、異常なほどに固執する時に働くのだ。それが犯罪者の検挙や事故防止、事件解決に繋がったりする。


 五分五分の確率が高いのかと問われれば、そうだと答える。



(尚斗様はご自分のその能力を大して気に留めてらっしゃらないから)



 偶々だった。幸運だったな。そう言って笑うだけ。もう少し驕ってもいいはずなのに。


 けれどもだからこそ。自分はこの人を選んだのだ。




「睨んでも言は撤回しないぞ」

「分かっています。絃さんのお世話を頑張りますよ」


 物を二の腕で担ぐような形を取って張り切りを見せる寿。失礼しますとお辞儀をしてその場を去って行った。








(…あいつ、変な方向に突っ込まなければいいんだが)



 生まれか、環境か、偶然の産物か。恐らく全てが起因しているのだろうが、寿は自分の事を凄いと、或る種、崇めるような気持ちで見ている。そんなもんじゃないといくら否定しても受け入れない。こうだと決めたら、なかなかにその気持ちを覆さないのだ。


 今回の事も。偶々の行動と発言だったのに、絃と幻灰には何がしかの関連があると決めつけてしまったらしい。もう少し間が空いていればそう考えさせる事はなかっただろう。



(張り切って見張ろうとか思ってんだろうな)



 止めろと言っても聴き入れないはず。




「似た者同士なんだよな」



 くつり。喉を幾分か大きく震わせた。



「まあ、なんにせよ。俺もあいつも幸運だったな」




 天を彩る星々に負けぬくらい、尚斗の瞳は爛漫に輝いていた。
















 偶然だったけれど、有り難い機会。


















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