送り火
あの方をどう称すればいいのだろうか。
実力社会の忍びの世界で、圧倒的で臨機応変な強さで以て一番手に君臨し続けるあの方より、二番手のあの方にいつも、いつも、目が行った。
まるで小さな花を誕生させるように、一挙手一投足が華やかな人だったから?
一番手のあの方に幾度も幾度も挑んでは敗れて、悔しいと笑って大声で言える強い人だったから?
身体が資本だと栄養のあるご飯を賄い方に交じって作る親切な人だったから?
想像だにできないくらいの辛痛を重ねて逞しい肉体に鍛え上げた人だったから?
仲間内での対戦の中、勝っても負けても第一声が頑張ったわねと褒めてくれる温かい人だったから?
憧れは、けれどあの方のようになりたいという目標ではなかったように思える。
鑑賞に過ぎない憧憬。声をかけられなくていい。見ていられるだけでいい、と。
あの方が十年前に脱退した時でさえ、感情がそう揺さぶられはしなかった。
ただ、退屈しのぎが消えた程度。
名を宮本竹蔵と言う。
脱退した時に長が告げた。
追うも追わぬも自らで判断せよ。と。
追う者は誰もいなかった。
己も例にもれず。
鑑賞に過ぎない憧憬対象。退屈しのぎをわざわざ追おうと思わなかった。
他の忍びの考えは知らないが、このまま時が移ろうにつれて、興味もまた薄れていくと。茫と考えていた。
のだが。
(それがどうした事か)
黒装束に身を包む忍び、紬は主である糸遊から抱きかかえる絃へと視線を向けた。
竹蔵が主と決めた娘。
神に選ばれし三人の内の一人。
(もしも、糸遊様が王位継承権争いに参戦していれば)
どう、感情は動いただろうか。
喜んだだろうか。
あの方と闘える、と。
否。
喜んだ。歓喜に打ち震えているのだ今この刻。
この娘をエサに闘えると。
興味は予想通り、薄れていくばかり。このまま消え去るはずだったのだ。
それが、どうした事か。
相対せると分かった瞬間に、屑火が一気に燃え上がり、己の全身を燃え滾らせる。
闘いたい。
闘って、今の己の実力を知りたい。
(それに、寿の今の実力も)
かつての弟弟子がどれほど腕を上げたのか。
(楽しみだ)
人生で一番、否、初めて感情が大きく揺り動いた瞬間であった。
(2021.11.11)




