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まにまにのほころび/あおあおさくら  作者: 藤泉都理
本編 に 双手腕之瞬
37/45

精霊流し






 いかなきゃ。

 いかなきゃ。

 うみにいって。

 いって?


(どうしてわたしはうみにいきたいんだろう?)









「あら。大丈夫?起き上がれるかしら」


 地面にうつ伏せになっていた絃。声が聞こえるも起き上がる力がなくそのままの体勢でいた。微動だにせず、また返事もしない絃の無反応さに自力では起き上がれないと察し、付いている忍びに絃を起こすようにお願いして。

 忍びに持ち上げられた絃を間近に見た糸遊は衝撃を受けて、少し後ろによろめき。

 次には両頬に手を添えて、恍惚とした瞳で、淡い吐息を空に浮かせながら、呟いたのだ。


 かわいい。と。


 ぷっくらとした肉付きのいい手とは裏腹に、痩せている四肢に胴体。

 ふっくらとした桃頬、さらさらの短い髪、ぼさぼさの眉毛、長い睫毛に守られている純粋無垢で意志の強い瞳。

 忍びに匹敵する身体能力とは裏腹に、持続力のない体力。


「かわいい」


 下ろされた地面に直に尻をついて足を伸ばす絃の丸っこい頭を優しく、それはもう優しく撫で続けた糸遊。おねえちゃんと一緒に遊ぶと、脂下がりながら尋ねれば、少し高い声でたった一言、海と言われたものだから、海に行きましょうと即断した。


「糸遊様。よろしいのですか?」


 体力を使い果たしたのだろう。眠ってしまった絃を抱きかかえた忍びは後方から糸遊に問いかけた。

 尚斗たちが絃を捜索しているとの情報はすでに入ってきているのだ。

 即座に知らせるべき、帰すべきだろうと、無駄ながら示唆したのだが。

 糸遊は、くすりと嬌笑を溢した。


「神に選ばれし者の姿を見失うなんて、愚の骨頂。あたしだからよかったものの、他の参加者たちが見つけていたらどうなっていたか。だからいいのよ。暫く肝を冷やさせないと、ね」

「では本当に海に行かれるのですか?」

「いとちゃんの行きたい海じゃないけど。近くに海があったでしょう。そこに行くわ。食事の調達もお願いね」

「大丈夫でしょうか?」

「身投げしないかって?」

「はい」

「意識がどうなっているのか、さっぱり分からないものね。その可能性はあるでしょうけど。万が一の時は、あなたたちが助けなさい」

「お任せください」

「ああ。楽しみだわ。海辺で追いかけっこをしたいわね。砂のお城を作るのもいいわ。あ。ボールの投げ合いっこもいいわ。遊び道具とパラソルと椅子の調達もお願いね」

「はい」

「もしおにいさまたちが来ても、混ぜてあげないの。寿もよ」

「………よろしいのですか?」

「おにいさまには邪険にされちゃったもの。少しは困らせないとね」

「すでに困っていると思いますが」

「じゃあ、いっぱい困ってもらうわ」

「一つ。確認をよろしいでしょうか?」

「忍びなのに口数が多いわね、あなた」


 糸遊は忍びの名前を把握していなかった。

 自分を守る大勢の内の一人だとの認識を持っていたからだ。

 なので声や仕草、身体つきなどで人物を特定することはせずに、いつも呼びかける時は、忍び、か、あなた、であった。


「申し訳ありません」

「いいわ。今は気分がいいから。何かしら?」


 本音なのだろう。歌うように言葉を紡ぎ、歩を進める糸遊に、忍びは確認を取った。

 絃を傷つける行動は取らないのか。と。

 糸遊は立ち止まっては振り返り、満面の笑みでもちろんよと告げた。


「では、寿と竹蔵はいかがしますか?」


 糸遊は前を向いてまた軽やかに歩き出した。


「鍛錬で怪我は?」

「するもしないも本人次第です」

「そう」

「………よほど疲れていたのでしょうね。目を覚ましません」

「ゆっくり寝かせてあげましょう。どうせ束の間の休息なんだもの」


 どんな表情を浮かべているのか。ふと、忍びは思った。









(2021.10.28)



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