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まにまにのほころび/あおあおさくら  作者: 藤泉都理
本編 に 双手腕之瞬
33/45




「おい、いと。見てるか」



 貴は遠くから見ている絃に声を少し張って話しかけた。

 もうどうしてこんな事になっているんだろうと疑問には思わなかった。

 ただ、絃に話しかけたくても話しかけられない寿の代わりに。



 苦労者という似た者同士故の連帯感と言うべきか。

 年が離れているとか、出会ってそう経っていないとか関係ないのだ。

 寿の力になってやりたかった。

 寿と絃が仲良くなるきっかけを作ってやりたかった。



「いと。しっかり見てろよ」



 水中に浮かぶ板から板へと飛び跳ねながら。

 寿と手を繋いで横並びになった状態で。

 息がぴったしジャン俺たち。拭ってもないのに爽やかな汗が飛び散った。




 今現在、貴と寿は手を繋いだ状態で、様々なアスレチックに挑戦中であり、今は水に浮かべられた、大小水宙配置様々な不安定板から不安定板へと飛び跳ねていた。



 互いに加減はしていた。

 貴は少年だからと寿を気遣って。

 寿は忍者だとばれないように加減に加減を重ねて。

 その加減具合が絶妙に合ったのだ。

 だから、今の今まで、失敗はしていない。

 もはや一心同体と言っても過言ではないだろう。



「都司さんと寿がとても仲良くなっちゃったわね」

「うんうん。友が増えて貴も楽しそうだ」



 遠くから見物していた竹蔵、絃、曇、尚斗、滝。用意されていたベンチに並んで座っていた。

 竹蔵は膝に乗せているいとを見下ろした。

 何やら先程から小さく身体を揺らしているのだ。



 もしかしたら、身体を動かしたいかも。なら、寿と貴の楽しそうな姿はちょっと休憩してみてもいいかもしれない。

 絃ができそうなのは。と、見回してみれば、ブランコを見つけた。底面は水平の丸い箱みたいな形状だったので、危険はないかと判断し、話しかけた。



「いとちゃん。ブランコ乗ろうか?」


 絃は横に首を振った。


「じゃあ、見てる?」


 絃は横に首を振った。


「都司さんと寿がしているのをやってみたい?」



 絃は横に首を振って、縄のぼりを指さした。地面から二メートルほどの高さで格子状に蜘蛛の巣みたいに広がっている縄のぼりは、網目が細かく、大人が傍につきながら、絃と同じ年頃の子もやっていた。

 じゃあしようかと声をかけると、小さく頷かれたので、貴と寿を呼び寄せた。






「絃。寿おにいちゃんはすごいんだぞ。運動神経抜群だ。見てただろ。大人の俺と。しかも運動神経抜群な大人の俺と足並みそろえて、あの不安定な板の上を、ひょいひょい飛んだんだ。なかなかできる事じゃない。すごいなあ。うん。すごい」



 貴は寿への羨望の念を込めながら、ずっと同じ動作を繰り返している絃に話しかけていた。



 絃が縄を両手で掴んで縄に片足をかけて、さあ上るのか身構えていたら、まさか、両方の足を乗せたかと思えば、片足を地に降ろし、もう片方も降ろしてしまった。怖いのか。とりあえず口出しせずに見守っていれば、縄をしっかり両手で掴んだまま、足だけ上っては下っての動作を何度も何度も繰り返している。



 果たして聞いているのか。今何を話しても無駄じゃないのか。

 疑問に思い、貴は絃に尋ねた。



「いと。怖いのか?」


 絃は横に首を振った。

 一応聞いていたらしい。


「今やっているのを続けたいのか?」



 絃は頷いた。

 本心を隠しているのか、本心からしたいのか。判別はつかない貴。とりあえず自分にも視線を向けていないので、寿の手を離し、曇たちが座っているベンチを指さして、休んでくると告げた。



 別に疲れたわけじゃない。

 ただ今なら、寿と二人にしても問題ないと考えたからだ。



「いと。俺はさっきおまえが座っていたベンチにいる。寿に傍にいてもらうからな」



 絃は頷いた。

 夢中になるあまり本当は聞こえてないのかもしれないと思わないでもなかったが、遠くに離れるわけでもなし、気にせずにその場を離れた。私もお茶を飲みたいから。そう言って、竹蔵もベンチに向かった。



 二人が離れた寿は困った。

 この動作なら補助はいらないし、話題は思いつかないし。

 とりあえず、やりたいだけやってもらおう。



 黙視しながら、子どもの時はこうやって過ごしていたのかと、絃の幼少時に思いを馳せた。



 両親と過ごして、友人と遊んで、この年頃ならまだ勉学は始まっていないだろう。いや、字の読み書きくらいはしているか。野を駆け走ったりしていたのだろうか。やんちゃな遊びはしなさそうだが、おままごととか。まさか、あの短刀で淡々と素振りをしていた。わけはないだろう。触るのを嫌がるくらいなのだから。野花摘みとか。花冠作り。虫はわりと平気そうだな。捕まえたら、すぐに逃がして、育てたりはしなさそう。



 つらつらつら。意図せず上がっていた口の端に気づいて、気恥ずかしい思いをしていると、不意に絃が寿を見た。



 純粋無垢な瞳は、特有の力強さもあって。

 気を引き締めて注視していると、絃がいきなり下を向いてしまった。



 見るのが嫌になったのか、それとも、具合が悪くなったのか。

 竹蔵を呼んでから、どうしたのと尋ねながら縄でどこか怪我をしたのかと念入りに見ていると、なんと、絃は涙を流していた。



 これには驚きを禁じ得なかった。



「いとちゃん。痛いの?」

「きらい」



 寿は眉尻を下げると、ごめんねと謝り、竹蔵と貴が来たのでこの場を去ろうとしたが、裾を掴まれて、思わず足を止めた。


 絃は寿を睨みつけた。涙は流したまま。



「きらい。きらい、きらい」

「どうして?」



 顔を歪めた絃を見て、かつての絃の泣き顔が寿の脳裏を過った。

 助けたいと叫んだ時に、怒りと失望を伴って泣いて、最後には崩れ落ちた絃を。



(そう、か。僕は、あの時から)




「ととさん、だいっきらい!」




 絃が叫んだ瞬間。



 点になった目が六つ。その内の四つ目がぎこちなく二つ目に集中する。




「「「え?」」」











「じゃあ、ちょっとハンカチ濡らしてくるから」

「「「じゃあ、ちょっと、事情聴取してくるから」」」

「ああ」



 叫んだ後、身体を丸めて地面に伏して、わんわんと泣いた絃は今、疲れ切って眠っていた。



 竹蔵は絃の腫れた目をハンカチで冷やす為に手洗い場に向かい、激震三人組は絃の父親発言の真相を確かめるべく、縄のぼりの場所で佇む寿の元へと向かった。



 絃の父親ではないと否定しようと思ったが、尚斗はベンチに留まった。

 絃と二人きりになる為である。



 尚斗は真正面を向いたまま、ベンチに仰向けになって寝ている絃を見ないで、おもむろに口を開いた。



「なあ、記憶戻ってるんだろ?」

「………」

「………」

「………」

「………」

「…誰にも言わないでください。若旦那」



 そう呟いた後も言葉を紡ぐ絃に、尚斗は小さく了解と返した。








(2020.5.23)




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