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スウと魔神  作者: うらみまる
第一章 エルフの森の狂騒にて
3/5

3...エルフの森

 エルフの国である森林地帯――『森林国家アザレア』は村が四つに街が三つの計七つの村街で構成された国である。しかし国土の殆どが森林のため『エルフの森』と呼ばれる。

 そしてスウとミィユが最初に出会った広場は森の中心地で、そこを中心に円を描くようにジグザグと村と町がある。

 住民はエルフ、ダークエルフ、ハイエルフ、ダークハイエルフにエルフとダークエルフとハーフがいる。なおエルフとダークエルフのハーフはハーフエルフと呼ばれ、それが進化した者をハーフハイエルフと呼ぶ。

「さてわらわがこの国を案内しよう。広場近くにある村は昔わらわに供物を捧げてきたこともあり、比較的親しく接せられよう。まずはその村に行くとするが、よいか?」

「お願いします。ミィユ」

「オッケーよ」

 スウとミィユ、そして二人の監視役であるネネは森の中を歩き出す。

 ナルミスとビオラの方から条件が出ており、アザレアの中でも軍部に所属する者で、スウとミィユの監視役を見繕う間はアザレア内にいることというものが提示された。スウとミィユに反論する意思はなく、別に探検できるしいいかと逆に良い方向に捉えている。

 そしてその場にいた者同士で自己紹介を終え、それぞれが自分の仕事をするためにそこで解散となった。

「へぇ、ネネちゃんは火の魔法が得意なんですね! なんていうか、見た目通りです」

 案内役のミィユの後ろに続くスウとネネは雑談をしていた。スウ自身はナンパの一貫である会話で、時々鼻の下が伸びたりしているが、ネネはそれに気づいていない。そしてミィユは後ろの会話を聞きつつ、会話には入れないため寂しく思っていた。

「あはは、よく言われるよ」

「ふぅん。そう言えば、元気よく監視役を買って出てましたけれど、なんでです?」

「うーん。まあ、面白そうだったっていう興味本位な理由と、これは一身上の都合も入るんだけど。私のお母さんがね、異世界人なんだ。だから同じ異世界人であるスウさんに惹かれたというか、親近感が湧いたというか」

「それは……なんというか、すごい偶然ですね」

「まあね。最近は異世界人がこの世界に来ること自体がなくなっていたからね。スウさんは久々にこの世界に来た異世界人ってことになるね」

「そっか……。あ、これは興味本位なんだけれど、お母さんの名前教えてくれますか? できれば旧姓で」

「旧姓……旧姓か。えっとね、ちょっと待って……確か山内 茜(やまうち あかね)だよ」

「山内茜さんかあ」

「知ってる名前かな?」

「いんや、知らないなあ」

(……偶然にも三年前に行方不明になった女子高生と名前が一緒だ)

 部署は違えど警察官であったスウは、記憶の中にある行方不明者の名簿内の名前を蘇らせる。すると一名だけ名前が一致している人物がいた。

(でもなあ、合わないよねえ。年齢)

 ネネは十八歳と言っていたので、母親の年齢が合わない。例え自称していようと三歳という年齢には見えない。三年前にこの異世界に来てはいるが、十八年以上は確実に経過している。異世界の時間とスウのいた世界との時間はズレがあるのか、はたまたランダムの時間に迷い込むのか。真実は定かでない。

 この世界は六十秒で一分、六十分で一時間、三十時間で一日、十日で一週間、四週間で一ヶ月、十ヶ月で一年となっている。国家間での会合などで、時間にズレがあってはならないということで、全国共通らしい。全国といえど、この大陸での――グランド大陸内での話ではあるのだが。観測されてはいないが海を挟んであと二大陸ある。偶然にも同じ暦が浸透しつつあるが、それはまた別の話である。

「うーん。そうだ話題変わるんだけど。ネネちゃんになにか魔法を教えて欲しいな。素人でもできる簡単なの」

「スウよ、魔法のことならばわらわに聞くのが普通でないないか? わらわ魔法得意だし。それに相棒だし? というよりお主わらわのスキルでどんな魔法でも習得、習熟が可能なのだが。ってそんなことよりも寂しいから会話に混ざりたいのだが!」

 ミィユは大げさな動作で後ろに振り向き、二人を見つめる。まるで雨の日に捨てられた子犬のような、子猫のようなうるうるとした瞳で訴えかける。

「わたしはネネちゃんに教えて欲しいんだけれどなぁ、手とり足とり」

「えっとじゃあ、二人で教えるっていうのはどう?」

「ネネの意見に賛成だ! スウよ、拒否するでないぞ」

「あーじゃあ、はい。いいですよそれで」

 面倒くさくなったのか、スウはミィユの猛烈なアピールに押されて渋々承諾する。

「スウに教えるとなるとあれだの。文字魔法がよいであろう」

「文字魔法、ですか」

文字魔法(ルーン)とも呼ぶんだけれど。これは命令と魔力を込めながら文字を描くことで発動できる魔法なんだ。特にどんな文字を書くとかはないんだけど、一文字二文字がいいかな。発動に時間差をつけたり、瞬時に発動できたり、文字が残れば術者の意識がなくなったり、死んじゃったりしても半永久的に効果が残るし何かと便利だよ」

「ま、便利ではあるがな、問題もある。無詠唱魔法が普及して以来、どうしてもそれに一歩二歩発動が遅れる。防衛には役に立つが、その他ではあまり使われぬな。見方を変えれば研究がほぼされておらぬゆえに、新たな発見があるかもしれぬとは言えるが」

 ネネ教師とミィユ教師によって文字魔法のレクチャーを受けるスウ。幸い二人は魔法に精通している上に、教え方が上手いため、スウは早々と知識を吸収していけた。

「では、これで試してみますか」

 スウは道に落ちていた葉っぱを一つ拾い、そこに『K』と魔力で文字を刻む。すると、葉っぱはガラスが割れたかのようにして、文字を中心に破片をまき散らしながら勢いよく破れた。

 スウが『K』に込めた命令は『被破壊』だった。効果は見た通りシンプルなもので、スウにも簡単に扱える。

「これ、スタンプみたいに押すだけで文字を出せたら効率良さそうですね」

 『スタンプ?』と疑問を口にながら首を傾げる二人をよそに、スウは新たに葉っぱを一枚拾い上げる。指に予め鏡文字で『K』の形を作り、葉っぱにくっつける。指を離せばそこには『K』の文字が写し取られており、指を離した瞬間先ほどの葉っぱと同様に弾けとんだ。

「へえ、あらかじめ文字を浮かしておいて対象にくっつけるのか。それなら無詠唱魔法にも遅れをとらないね」

「ふむん。これならば複雑な魔法陣を形成しておけば、そこらじゅうに発動し放題であるな」

 と二人はスウのやったスタンプ式文字魔法に感心する。自分達も使ってみるか、と二人も瞬時にスタンプ式文字魔法を習得していた。その上魔法陣自体を縮小してそこら中に貼り付け発動したりと応用も生かしていた。

「でも、スウさんって異世界人の割には、魔力って見えない力をすんなり扱えてるね。不思議」

「ああ、一応この世界ほど凄くはありませんが、元の世界でも使ったことあるんですよ。魔法。あっちでは魔術って言われてましたけれど」

「えっ、スウさんのいる世界って魔術あったの!?」

 興味があったのか、それとも驚きだったのか、ネネはスウの話に食いつく。スウは空笑いをしながら話を補足する。

「まあ、秘匿されてて一般の人には知れ渡っていませんでしたからね。色々と怪異に遭遇している内に習得しちゃったものもあるんですがね。ま、目的日着くまで少しだけわたしのことも話しますよ」

 三人は再び歩き出す。


* * *


 しばらく歩いているうちに目的の村の近くに来たようで、村のような場所が見えてきた。ミィユは『村の周りには高さ約二メートルほどの木の柵で囲われ、木製の小屋のような家が立ち並び、エルフ達が静かに暮らしている』と村の外観を説明していたが、三人が見た光景はそうではなく――気の柵はところどころ壊れ、小屋のような家は半壊していた。むしろ更地になっている場所もある。

「ふむん。何者かに襲われたのかもしれぬな。最近()()()感じ、この村は他の村や街と違い殆どが戦闘の慣れておらぬエルフばかりだ。下位の魔物は結界で入ってこれぬだろうし、もっと強大な存在か人間の可能性があるのう。ま、結界自体破壊されておるし魔物が来るのも時間の問題か」

「ほへー、それは大変ですねえ。……って、大変じゃないですか!」

「確かにこれはマズイですよね」

「むふん! そう、エルフにとっては大変な状況ではあるな!」

 両腕で胸を支えながら、胸を張ってドヤ顔する魔神のお尻を、スウは思いっきり平手打ちして――

「じゃあもっと焦ってくださいよ!」

 ――とミィユを叱る。ミィユは突然の平手打ちにびっくりしたようで、顔から地面に激突する。両膝と右手の三つ這いになってお尻をさすっている。

「い、痛いぞスウゥ……」

「あ、すいません。ついノリツッコミみたいなことを」

「これがノリでツッコミならわらわの身が持たぬ……以後自重せよ」

「さーせん」

 スウは大雑把にミィユに謝る。

 閑話休題と、村の状況を観察する。

 結界が決壊――もとい崩壊している上に今でも戦闘中なのか、金属がぶつかり合うような音や、爆発音に地面がめくり上がるような光景が村の外からでも確認できる。

「ミィユとネネちゃんはこの結界を修復できますか?」

 二人の回答は『できる』だった。ミィユに至っては『これよりも強力なのをかけられるぞ』と誇らしそうに、自信満々で言い放っていた。

「じゃあいっちょ強力なのお願いします。あとは……隠れながら速やかに近づきましょう」


 三人は半壊した家などの陰に隠れながら進む。激しい戦闘音が響き渡っているとは言え、隠密の素人がいるので油断は禁物である。

 そして進んだ先で見たものは、三人の想像を遥か上に行く光景だった。

 身の丈もある大剣を棒きれのように軽々と振り回す胸の大きな美女と、およそ武器と呼べる物を所持せず、拳で斬撃を受け流す背の低い少女だった。

「ほう、オーガ種……ではないな。その上位種鬼人種(きじんしゅ)だな」

「鬼人……ですか」

「あの背が高い方の後頭部をよく見よ。角があるであろう。それに、およそ筋肉のなさそうな腕で身の丈ほどの武器を軽々と扱っておる。オーガは男も女も筋肉が盛り上がっておるが、鬼人へと進化すれば人に少し近づき、その筋肉すべてが最適化てあのように細くなる。少々異なる特徴もあるが、鬼人で間違いなかろう」

 ミィユに言われてスウとネネは鬼人の美女をよく観察する。

 後頭部には細長く赤い角が生えていた。ポニーテールにすると丁度隠せるような位置にある。白銀のショートボブに透き通る程美しい肌、紅い瞳、ミィユ程ではないが、大きくずっしりとした重みのある胸。そして体のラインに沿うように赤いチャイナ服のような服を着ている。白いニーソックスの端から太ももの少し余った肉がはみ出ている。口紅を付けているのか濃い朱色の唇はどこか魅惑的であり、スウは思わず唇の動きを目で追ってしまう。

「ふむん……そしてあの対峙しておるエルフの小娘。見たことがあると思っておったら、昔供物を持ってきておった小娘だな。あの時とあまり姿形が変わっておらん。いくら長寿のエルフとは言え、小さすぎる。成長しておらんのだろうか?」

 胸と身長の小さなエルフ。言葉上だけならばそういう印象を抱くが、鬼人という上位の種族と渡り合っている辺りかなり凄い。なにせ武器を持たず素手で対応しているのだから。

 握り拳と大剣がぶつかり合うたびに高い金属音が鳴り響いている。それはあのエルフの拳が鉄の強度と同等かそれ以上であるという証明にもなりうる。加えて超重量の武器相手に吹き飛ばされていないところを見ると、地力が強いのか、魔法で強化しているのか――少なくとも只者ではないことは確かであった。

「うーん。どっちに味方しましょう」

「何を迷っておるのだ。ここはエルフの味方をするところではないのか? もしや二人共敵に回すという楽しいことを考えておるのではないだろうな?」

「いや、そんなことしたら死んじゃいますって! あ、ミィユとネネちゃんはここで見ていてくださいね。わたしがどれくらい戦えるのかを証明してみせます! あっ、でも、もしわたしが死にそうになったら助けて欲しいなーなんて」

「いや、相手は上位の魔物だしここは私も」

「スウよ。ならばこれを持っていくが良よい」

 ネネの発言を遮りながらミィユは亜空間に腕を突っ込み、そこから一振りの刀と思しきものを取り出した。そしてそれをスウに手渡す。

 ネネは「えっちょ、無視しないで……」と少ししょんぼりとしている。

「この武器は銘を授けることにより、主を特定し、主の思う形へと姿を変える。親友になった証として受け取れ」

 スウは手渡された刀を抜く。曲がりの少ない刃はほんのり桜井を帯びていた。

「なるほど……では、この子の銘は【恋華(れんげ)】にしましょう。刃が恋の色をしています。では、征きます」

 スウは【恋華】の刃を鞘に収め行動に出る。

 なぜ一人で戦おうとするのか、という理由だが、単純にネネにいいところを見せたかっただけである。もちろん真面目な理由もある。少なくとも女一人で相手をするならば相手が油断するであろうということ、そしてもう一つ理由がある。それはスウの本質であり性質の話になってくるのでここでは割愛となるのだが。しかしながらスウは『根拠のない自信』で立ち向かうのではなく、『個人的に極めて高い勝算』があって挑むのだ。

 そんなスウの作戦は鬼人の美女に不意打ちを仕掛け、エルフの娘の味方であることをアピールするというものだった。そして共闘に持ち込んで鬼人の美女を無力化し、あわよくば仲間にする。

(完璧な作戦ですね――具体的な行動を思いついていない点に目をつぶれば、ですが)

 スウは鬼人の美女ことも諦めていない。なにせ体型が非常にスウの好みだったからである。スウの恋愛対象は女性だ。いわゆる同性愛者――それがスウという女性の一端。

 美女を仲間にして冒険というものに憧れを感じているのだ。相手が断ってもスキル【色欲系譜】の権能にある【眷属化】を使用して自身の眷属にしようとまで考えている。鬼畜というか、クズというか、女性と好みが混ざった話になると少々そういう面が出てしまう。もしかするとそういった性格をそのスキルは反映しているのかもしれない。

 スウは手頃な石を拾い、スタンプ式文字魔法を四ヶ所込める。文字は『P』――込めた命令は『強化』。

「あれですね、これ。雪合戦のときに素手で押し固めた雪玉を作る感じですね」

 強化により性質が引き上げられた石を、スウは自分の持つスキル【原初の系譜】にある権能『固有魔術』の『投擲』を使用する。『固有魔術』という権能にはスウが元の世界で習得した魔術が扱えるようになっていた。

 『投擲』は投げたものを必ず命中させるという魔術である。

 狙うは鬼人の美女の手元――大剣の鍔辺り。武器を手から離して、その内に攻撃を仕掛けるという意図がある。そしてスウはフォームを意識して石を思いっきり投げた。

 野球であれば暴投とも言える軌道を描くが、まるで不思議な力が働いているかのようにして、石は狙ったところへと吸い込まれるように激突した。ゴンッと重々しい金属音が鳴ると同時に石は砕け散る。

「えっ?」

 スウは予想外のことが起きて焦る。まず石が割れたことだ。性質を上げたところで所詮石。しかし鉄ならば容易に曲げることができるであろう硬度はあったはずなのだが、鍔は曲がるどころか傷一つ付いていない。そしてそのことよりも驚きなのが、鬼人の美女が大剣を落としていないのだ。暴投するほど力いっぱい投げたつもりだというのに、と驚くがそこは人間よりも強い種族だろうからと自己解決する。

 それに実際それは結果オーライであった。なにせ丁度大剣を振り下ろそうとしていたところで、斬撃の軌道が変わり、エルフの娘のいた場所から少し離れたところに突き刺さっていたのだから。

 これは傍から見れば、トドメがさされそうなところでスウが助けたかのように見える。

(いやしかし、軌道変えるだけって……あのお姉さんなんて握力してるんだ)

「誰だ……」

 寝起きで機嫌が悪い父親のような、そんな重低音(ドス)の聞いた声で鬼人の美人はスウの方を見る。エルフの娘もスウの方を見て、表情を強ばらせる。

「……通りすがりの異世界人。もとい旅人です。覚えなくていいですよ」

 カッコつけながら、二人の前へと進み出るスウ。

「異世界人……人間がなんでここに? まさかハルジオンの人間か?」

 エルフの娘がそう疑問を口にしたのでスウはそれに答える。

「いや、違いますよ。自分最近ここに来たばかりで。まぁ、森を彷徨っていれば何やら喧嘩騒ぎが起きていますし……喧嘩はダメだよーって思って」

 軽いノリで、なるべく刺激しないようにスウは気をつけて言葉にする。

「喧嘩じゃない。決闘だ。このエルフはアタシの同族を殺していた。仲間ではないとは言え、同族を殺られるのはイイ気分ではないのでな」

 鬼人の美女が指差す方には筋骨隆々な角の生えた人型のモノが転がっていた。辛うじて人型を保ってはいるものの、腕が吹き飛んでたり足が折れていたり、顔のないものまである。ミィユの言っていた特徴が合致するため、おそらくアレがオーガなのだろうとスウは思う。体が赤いのが相まって鬼っぽい。

 しかし改めて聞けば鬼人の美女の素の声はそれなりに高かった。声は低いのかと少し落胆していたスウだったが、出せる声が低い方に寄っているのかもしれないと、気を持ち直す。 

「あーなるほど。エルフのお嬢さんの方にも非があると」

「聞き捨てならないぞ! 先に襲ってきたのはあのオーガ達だ! 私は村を守るために戦った。その結果オーガが死んだだけだ!」

 エルフの娘も負けじと反論する。激昂しているのか長い耳が赤くなっている。

「悪いのは死んだオーガさん達だけど、もうすでに死んでいる。で、どちらも自分の意見を正当化したいと」

「話し合いでは解決しない。これは感情の問題だ。だからどちらが正しいか決闘しているのであろう。貴様に水を差されたがな」

 鬼人の美女は鋭い目つきで再度スウを睨む。目で射殺さんばかりの眼光だった。

「いや、解決方法が脳筋的って……話し合いで解決しましょうよ! なにも血を流すことないじゃないですか」

 とりあえず中立の立場に立ったスウは作戦を変更する――このまま話し合いで終わらせよう、と。決着がつかなくとも、このまま有耶無耶になってみんなが面倒くさくなればこの場はお開きになるだろうと、そんな甘い考えを持って。

「既に血は流れている。それにアタシのこの感情はもう止められないぞ。このエルフの前に貴様から処理してやろうか!」

(はい、決闘開演致しました。理不尽ですね。はい。これはもう引くに引けないし、自分の感情も抑えれないほどに肥大化しすぎているといったところでしょうか)

 心の中で実況をしてみるものの、自体は一向に収まる気配を見せない。

「そこの人間は関係ないだろ!」

エルフの娘はスウを庇うかのような言葉を投げかける。共闘の兆しが見えてくる、そんな言葉にスウは乗っかろうと発言する。

「あの、わたしがエルフのお嬢さんにつくので二対一とかは……」

「それでは決闘にならないだろう!」

「誰が人間なんかの手を借りるか!」

 結果は聞いてのとおりダメだった。というよりエルフの娘にまで拒否され、スウの精神はかなり傷を負った。少女の言葉にも弱いのである。エルフは人間嫌いらいでプライドが高いというファンタジーの設定を思い出しながら、少しでもダメージを緩和しようと試みる。

「あー、じゃあ。わたしが相手しますので。そこのエルフの娘は見逃してもらえません? いや、ほらさっきまでの戦闘で消耗してるでしょうし」

「人間、おま、私はまだ戦えるぞ!」

「いや、戦ったら死んじゃいますよ。足震えてるし、手は痙攣してるし。顔も青いですし。まあ、わたしが死んだら隙ができると思うので、その隙突いて逃げれば命は助かるんじゃないですかね? で、どうです。逃がしてあげてくださいよ」

 スウはエルフの娘がリラックスできるようにと思い笑いかける。スウの笑顔に対して見惚れたのか、気持ち悪くて絶句したのかは不明だが、エルフの少女は数歩下がり黙りこくった。

「いいだろう」

 鬼人の美女はスウの提案を受け入れた。

「じゃ、サクッとやりましょう」

 スウは緊張した面持ちでそう言った。

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