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それだけは、嫌  作者: かもめ
4/6

ナニ気を使った振りしてんの、毒親め!

あーもうめんどくせー

 3


 帰宅する足取りが重い、梅雨時の晴れ間だというのにどうしてこんなに暗くみえるのだろう、商店街に入る道の脇に咲く花、背の高い葵の花びらの透過光までもがくすんで見える。看板、笑顔の女性の写真まであたしを笑っているみたい。どこにもぶつけようの無い怒り、いらいら、気持ち悪さを抱え、戻りたくない家路に向かう。

 そんな時ラインが来る、先日お互いに初めてHした和成からだった。

 内容は3日後の日曜日、彼の家に遊びに来ないかというお誘いだ。

 気分的に若干めんどくささも無いわけではなかったが、二つ返事でOKする。



 唖然となった、

 彼氏の中島和成の母親から挨拶しあったとき、悪い冗談であって欲しい。

「えっ名前」

「ああお袋の名前? 由貴だよ、へんなこと聞くなあ」

 部屋に上げられ、恐るおそる挨拶した相手の名前だ。

 呆然となる、

 メイの父親の不倫相手だと告発する怪文書の中の女、中島由貴。

「お母さんのお勤め先って、もしかしてマルナカ商事って……」

「え、よく知っているね、そうだけどどうして? 会社関係、お義父さんとかの?」

 どうやら和成はメイと母に彼の知らない付き合いでもあるのかと勘違いしたらしい。

 愕然とするのは、親父のスマホを盗み見て出てきた写真、ホテルでのあのあられもない写真の女とそっくりだったこと。

 こんこんっ、部屋をノックする音がし、

「和成ちゃん、お客様にケーキと紅茶、それから改めてご挨拶を」

「お袋、いいって、二人にしてくれよ」

 なんだか怒ったようにドアを開ける和成だ。

「もうお袋なんていっちゃって、この子、家ではお母さんなんて呼ぶくせに」

「そ、そういうことは言わない約束だろ」

 ありがちな母と息子の掛け合いに顔を引きつらせるメイだ。マザコンの彼氏に引いたからではない、マザコンの彼氏の母親がより一層母である匂いとメイの知っている女の匂いの一面が同一人物とは思えないからだ。

「メイさんっておっしゃるのね、カワイイ娘、和成はまだ幼いから、よろしくお願いしますね」

 息子の彼氏に嫉妬するそぶりなど微塵も見せない大人の女性だ。知性すら感じさせる大人の色気、眉が普通より太い。こういうところに父はほだされたのだろうかとじっくりとっくり観察する。母親とどっちが美人だろうか、判断に迷う。

 (こちらこそ親父をよろしくお願いします)といったらどんな顔するだろう、(あたしたちもこの間初体験を済ませたんですけど、おふたりももうしちゃっているんでしょ? あたし知っていますから)とどれだけいってやりたいか、(親父を寝取った泥棒猫め)ということはおくびにも出さず。

「和成さん優しいから」

 そういって若干引きつった笑顔で、瞳の奥を見つめ返すメイであった。

 母親の由貴が出て行ってからも、いたたまれないような、ぎこちない和成だった。

「せ、折角だから、ケーキ食べてよ、お、お袋のお手製なんだ」

 冗談! こんな猛毒入りのケーキやVX入りの紅茶なんか! この空気を吸っているだけで逝ってしまいそう。その息子に身体を許したのかと思うとぞっとして一気に彼氏が憎く思えてきた。

 誰にも話せないことと思ってきたけれど、和成だって一緒の境遇、あたしと同じ苦痛を共有できるはず。いえむしろ罵ってやりたくて仕方がなくなってくる。このどす黒い感情をぶちまけられるのは彼しかいない。でもここではいけない、彼の母親にすぐ知れてしまうしそんなことはあたしは望んでいるわけじゃないもの。

「和成さぁ~、今日うち出かけているの」

 ケーキのフォークを手に取り、一応食べる振りだけはしながら、

「えっ」

 彼の期待する顔振りをうかがう、媚態を込めて、

「意味分かるでしょ、この後うち来てよ」

 メイからの誘いに目じりの下がるのを見逃さない彼女だった。男ってソレばっかり考えているの? うちの親父も?


 メイと和成は同じ江戸蔵高校に通うクラスの違う同級生だ。

 学校から少しはなれた水本公園でデートをし、近くの売店でクレープを二人で食べた。

 今時コンビニで買った方がそれこそ美味しい物があるけど、都内有数の大きな公園で食べるダサいスイーツこそ風情があっていいじゃない? これから彼氏に地獄を見せる修羅場を想像するだけでわくわくしてくる。さっきまで鉛色だった空まで明るく感じてしまい、上がってきてしまう。

 公園には大きな池がありそこには蓮が植えられていて、つまりこの公園の名物なのだ。

 梅雨の季節だけあって凄く泥の匂いが充満するのだ、雨の匂いと混ざり合い金魚鉢とほこりの湿ったような匂いが混ざり合ったかのような匂い。水辺の匂いだ。

「なんかザリガニ臭くないこの辺?」

 ザリガニという言葉に男子らしさあり、何か楽しくなってしまう。弟の千富にせがまれてこの公園にザリガニ採りに来た日が昨日のようだ。アイツまだガキのままだからなあ。

 昨日までは葵が綺麗に見えなくなっていた、今日は違う。桜よりはるかに大きく紅の濃い透過光は蓮の花の特徴、とても可愛らしく見えてくる。

 クッソ泥便所の中でしか咲かせない薄紅色の花はメイの大好きな花だから。


 メイの家での行為の後、彼女は激しかった。

「あんたヘタクソなのね」

「ゴムくらいテメェで用意しないって、マジ? ですか?」

「死んでください、あたしの制服にかけるなんてありえないでしょ」

 前回まではメイは優しかった、少し前だって普通にしゃべっていたわ。

「Hの行儀のなってない子ね、そこに土下座して床にキスして下さい」

 有無を言わせぬ高圧的態度と冷たい言い方だ。和成は逆らえずに、唯言うがままにしたがってしまう。

「このぉ短小が! ど下手が!」

 土下座する彼氏の背中をメイの脚が何度も何度も踏みつけ蹴り飛ばす。

「あんた気持ちいいのかもしれないけど、全然あたしよくないのよ、死んでくれないこの豚」

 親父の不倫相手を罵るが如く、のたまう。お前が罪を贖え。

「セックスヘタクソな男って存在価値ねえわー」

「マジテメェ金輪際セックスするなよな、だってキモイし、生理的に無理」

 そういってうろたえる彼氏を背にし、胸をはだけたままふらりと机の引き出しから例の怪文書を取り出す。そして汚物を見るような目で彼氏にそれを突きつけるのだ。

「こ、これってまさか……」

 顔を青ざめさせる和成だ。

「豚野郎、これが現実だよ」

 そういって親父のスマホをハッキングし、盗み取ったデータもあわせて御開帳するメイだ。

「お前みたいなカスはママのあそこにへばりついてりゃいいのに生まれてきちゃってさぁ、いいよあたしがこれからたっぷりと調教してあげるから、そうすれがどうしようもない糞豚から唯の豚くらいにはなれるかもね」

 頭では理解していた、彼の和成の母親を奪ったのはメイの親父であるという見方だって出来ることくらいは。だけど心は別だ。あたしの親父を奪ったのは和成の母由貴なのだ。和成に償わせてやる、だってあたしの気持ちを理解できるのは彼しかいないじゃない、あたしと秘密を共有できるのも彼だけ、絶対に許さないんだ。あたしと同じ、いえそれ以上の苦しみを味わうがいい、絶対に許さない。

「豚としての立場理解できたのぉ? 分かったなら四つんばいになれ、ちょうど椅子が欲しかったんだ」

 そう命令しそれに従ってしまう彼氏だった、彼にもメイの気持ちが理解できるから。

「惨めだな~、この豚」

「キモイ! ウザイ!! 死ね!!!」

「ぶひぶひっ、ぶひぶひっさっきからうっせぇーぞ、カス」

「くっせーんだクズ! 息すんなボケ! 密閉空間でありえねーだろ」

 あらん限りの汚い言葉を並べて彼氏をなじる、罵倒した、汲めども尽きぬ罵詈雑言。汚いモノを見る目でさげすみ、見下す。時にはあざ笑い、時には冷酷な目でにらみつけた。そうまるであたかも自分自身を痛めつけるように、執拗に徹底的に。

 そして最後、彼女はこういうのだ。

「どうしようどうしよう、和成あたしたちの家族バラバラになっちゃうよ、どうしよう、怖いよ、どうしたらいいの?」

 メイは彼に抱きつきわんわん泣き喚き訴えるのである。


 彼氏が帰った後、あたしは極端に落ち込んだ、こんなにブルーになったことが無いほど鬱になる。まるで天空からロープ無しでバンジーしているかのよう、自己険悪し、最悪の気分よ。心が汚らわしく思え、口が穢れた様に思う、自分のことを責めに責め、その夜にまたもや手首にカッターナイフを当ててしまう。しかも三箇所も!

 痛みなんて全く感じない、気持ちいいの、ぞくりとするような背徳感が快感なの、赤より紅い血の色がとっても綺麗、鮮血ってマジ超カワイイ、朱い光沢を帯びた液体はルビーを連想するよね? 思わず血だら真っ赤になった腕と机の画像をスマホにとって友達や彼氏に送りつけてやった。願わくば彼氏の和成も手首を切っていてくれてますように……

 朝の朝食の空気といったら、どう表現したらいいのだろうか。親父と母が目配せし合い、どう左手首の包帯のことを聞こうかとしているのがモロにバリバリ伝わってくる。

 聞いて来ればいいのに? どうせ答えないけど。

 優越感すら感じてしまう、自信がわいてくるみたいな? まあそんな感じ、だって今だけあたしの手首の疵に気づいているんだよ、親父も母も、無関心なチトーでさえもね。

 お願いだから親父も不倫なんて止めてよ、家庭が崩壊するかもしれないんだよ。お母さんもホントは気が付いているんじゃないの? 家帰ってきたら修羅場になっているの? どっちを味方すれば関係が壊れないかしら。

 でも親父とはやり直して欲しい。チトーはもっとしっかりしろ、あたしと母にばかり甘えるな、朝起こすよりたまには早く起きて見せろよ。

「……姉ちゃん、その左手のキズ、自分でやったの」

 夫婦二人の聞きにくいことを言い出しにくいことを聞いてくるのは決まってチトーだ。

「ううん、もう大丈夫だから、チトー心配かけた? ゴメンね」

「メイあんた……」

「メイお前……」

 母と親父の声が重なり、底で二人は目を見合わせた。

 親父気が付いてよ、口に出せないことに気づいてよ。この包帯の下に隠されたグロイみみずばれの疵の意味にさ。ほら母さん、親父の異変に気づいて、分かっているの、不倫してんだよ親父、あたしはそれを知っちゃったんだ、苦しいよ、頭変になっちゃいそうなの、でも口に出せないんだよ。

「ガッコ行って来る、今日なぎなたの稽古の日だから、遅くなるねお母さん」

 心とは裏腹に、笑顔を作り元気に家を出たメイだった。


めんどくせー市にテー

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