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魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様の長い長いはじまりの日
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その8

 正直に言おう。

 私はメイドさんというのが少し苦手である。

 普通に世間話するくらいならいいんだけどね。色々耳寄りなことも聞けるし。案外侮れない。

 ただ、彼女たちは若い子が多いので、他人の恋の話を聞きたがる上、人を飾りつける仕事が大好きだ。

もう一度言う。

 大好きだ。






「陛下、こちらはいかがですか?」


 リアルうさぎ耳メイドさんと一緒に衣装部屋に放り込まれて、どれくらい経ったんだろう。

 この部屋、家族四人どころか親戚もまとめて住めそうなくらい広いのに、時計はない。実際はあるのかもしれないけど、大量の服が所狭しと詰め込まれてるので、見つけられない。うっかりすると、床に放り出された謎の布地を踏みそうになる。

 体感では一時間くらいは経っただろうか。お腹の空き具合からすると、お昼過ぎてるかもしれない。

疲れた。


 そもそも、今日は朝から市場に繰り出そうとしていたのだ。美味しいサンドイッチを出す屋台があると噂になっていたから、こっそり城を抜け出して、そのまま街の人に正体がバレるまで遊び倒すつもりだった。

 それが、魔界へ落ちたと思ったら、魔王だのなんだのという話になり、お茶を一杯もらっただけで、今に至る。


 …この後、魔族との顔合わせとかあるんだよね。なんて濃い一日なのか。

 私も大変だけど、魔族の皆さんもさぞかし待ちくたびれているだろう。いっそ、今日はそのままお帰り願いたい。

 今は、衣装合わせくらいと軽く考えてた私が馬鹿だったっていうのを、心から反省している。


 うさぎ耳さん、もといクルルさん。見た目そのまんまの獣人。

 あめ玉みたいな赤い目に、ふわっふわの白い毛皮。まるっこい前脚。そして、見事な上腕二頭筋。

 …うさぎ、じゃないな、獣人の場合もここの筋肉は同じ名前で呼ぶんだろうか。ていうか体の構造どうなってんだろ。

 クルルさん、背丈は私とそう変わらない。顔も、ヒゲが生えてたり、鼻のあたりがちょっと違ったりするけど、表情の動きは故郷の城のメイドさんと近い。

 ただ、趣味がどうにもこうにも。


「クルルさん、それは無理だと思うな」


 がっくり脱力。

 クルルさんが出してくれた衣装は、これで何着目なのか。もう数えられない。数える気にもなれない。


「まあ、これもダメですか…。」


 しょんぼりと、クルルさんがたくましい肩を落とす。


「申し訳ありません。陛下の大切なお時間をこんなにいただいておりますのに、私が未熟なせいで…」


 いやあの、クルルさんに非があるとは思ってない。

 思ってないけど、その、あれだ、小難しく「種族間の価値観の相違」とでも言えばいいのか。


 聞くところによると、獣人の「美人の基準」は一に健康的な筋肉、二に無駄な筋肉、三、四がなくて、五に匂いだそうで。男も女も基本ガチムチ。筋肉最高、筋肉は正義!

 そうなると、筋肉美がわかりやすいファッションじゃないとダメ! ってなるのも、あたりまえで。


 それから、クルルさんはうら若い乙女だ。首や手足が固く盛り上がってても、人間の基準とはズレてても、まごうかたなき乙女だ。きれいなお花、きらきらの宝石、レースにフリルが好きな、れっきとした乙女だ。

 会ったばかりのヒトの趣味になぜここまで詳しいかというと、そういう服ばかり薦められるからだ。

 体にぴたっと張りつく生地、お腹だの背中だのが露出するデザイン、要所要所にごてっと盛られたリボンやレースやフリル、ピンクで白で花模様。そしてことごとくノースリーブ。

 標準的な人間が着れば、似合う似合わないより、まず頭を心配されること間違いない。

 ていうか、この部屋、なんでこんな感じの衣装がいっぱい置いてあるんだろう。今後がすごく不安。


 せめて、普通のワンピースがいい。今なら多少派手でも趣味悪くても文句は言わない。

 贅沢を言えるなら、動きやすいシャツとズボンがいい。いや、だめだ。ユージンさんが「それのどこが前と違うんですか」とか言い出しそうだ。そしてふりだしに戻る。

 クルルさんが耳をぴんと立てて、衣装の海に果敢に飛び込んでいく。


「次の服を探します!」


 クルルさんは一生懸命お仕事をしてくれている。一番初めに「これなんかどうですか?」と見せてくれたのは、隠すべきところも隠せないような衣装だったし。「無理」と私が言うたびに、前のよりはマシかもしれない衣装を探しだす、というのを繰り返している。

 少しでも相手の好みに歩み寄ろうという努力は感じる。私のエンドレスダメ出しにくらいつく根性も。あと、この仕事が好き! っていう熱意も。じゃないと投げ出したくなるはずだ。

 だから、もうこれは埋めようのない溝というか、価値観の違いというか…。


「陛下、これなどいかがでしょうか!」


 輝く笑顔でクルルさんが見せてくれたのは、両胸に大ぶりの花飾りが意味深についてて、首回りにわさっとフリル、当然のように袖はなく、そして、下半身はなんと水着みたいなハイレグ。しかも清楚な水色。誰だ、こんな馬鹿な服作ったのは。


 私は膝から崩れ落ちた。

 うん。上半身の無駄な露出がなくなっただけ、マシかな。


「なんて、絶対言わない!…ユージンさんのっ、あほー!」

 人選ミスにも、程があるだろ!

この話は大変ゆるっとしてますので、水泳時の服装の歴史とか、ファッションの文化背景とか、そういうものをまるっと無視しております。

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