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魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様の長い長いはじまりの日
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その5

 ばたーん、と派手な音をたてて両開きの扉が開いた。

 …あの扉、多分すっごく分厚い一枚板だよね。見るからに高級そうなのに、あれじゃすぐ傷むだろうな、もったいない。と根深い庶民根性がすばやく計算する。


「ユージン!」


 きりっとした顔で飛び込んできたのは、ラフな格好をした、赤茶色の髪の体格のいい男性だった。

 走ってきたのか、息が荒い。獣人型なんだろう。犬耳と尻尾がついているので、犬が「はっはっ」と言ってるみたいで、かわいく思えなくもない。というか、実家で飼ってた猟犬を思い出して、ちょっとそわっとする。


「やかましい。今は大事な話をしている。出直せ」

「む。そうか。すまん」


 ユージンさんのすげない態度に、そのヒトはあっさり踵を返して出て行った。ばたん、と大きな音をたてて、また扉が閉まる。

 そ、それでいいんだ…? と、しばらく扉を見つめていると、今度は複数人の話し声が近づいてきた。


「…の世界…、素直に出直す…がいるか、…たれ」

「おう、それもそうだな。悪かった。というわけで、ユージン、出直してきたぞ!」


 再び、ばたーん、と扉が開く。

 犬耳さん、今度は背中に小さなご老人を背負っていた。全体的に人型に近いけど、ゆったりした貫頭衣からトカゲみたいな尻尾が揺れていて、皮膚はちょっと緑がかってたるんでいる。しわの中に目が埋もれた愛嬌のあるお顔に、ちょろっと細長い髭が、なんかナマズみたいなおじいちゃんだ。

 目が合って、ひとまず姿勢を正した。

 今度はユージンさんも諦めたように、眉間をぐりぐり押さえながら、「もう少し静かに扉を開けられんのか貴様」とうなっている。


「蝶番が傷むと、何度言えばわかる。その頭はすっからかんか。」

「物覚えが悪くてすまんな。数えてないので、これで何回目かわからん。」


 そんな事、胸をはって言われてもなあ。まったく堪えてなさそうだしなあ。ユージンさんがまたため息ついてる。

 耳はぴんとたっているし、声もよく通って、顔つきも割と男っぽくて、服装を整えれば城の騎士みたいになるだろうに、どうにも残念なヒトだ。

 その背中を軽く蹴って、おじいちゃんがぴょんっと降り立つ。ぽて、とかわいい音がした。

 幼児みたいに背丈が小さいので、自然と見下ろす形になる。


「邪魔してすまんの、ユージン」

「あなたが来られたということは、そろそろ主だった方が集まられているということですか。」


 おお、ユージンさんがティーカップを置いて敬語になった。てことは、こっちのしわくちゃのおじいちゃんの方が格上なんだろうか。強そうには見えないんだけどな。魔力も高くないし。

 おじいちゃんは、ちょこちょこと歩いてユージンさんの隣に飛び乗った。すかさずメイドさんが新しいお茶を出す。お茶請けもまとめて来た。このメイドさん、できるな。

 ずずずとお茶をすすって、おじいちゃんが口を開く。


「主な面子はもう広間にそろっておるよ。城に泊まり込んでいるはずのお主がいつまでたっても来ぬから、儂が代表で様子を見に来たのじゃが、…ずいぶん予想外のことが起きておるのう。」


 ちろりと視線が来て、どきりとする。


「まさか、城が人間を引きずり込むとは」

「むっ。その娘、人間なのか?!」


 扉の前に陣取っていた犬耳さんが吠えた。ほらー、やっぱり人間だとこういう反応されるんじゃないかー。


「シバ、ややこしくなるから、少し黙っていろ。」

「長老、この娘には必要な説明をしている途中です。終わり次第、そちらへ連れていきますので、しばしお待ちください。」


 えっ、連れて行かれるの。それ大丈夫なの、主に私の身の安全は。


「わかった、と言いたいところじゃが。向こうへ戻ったところで、何の説明もできないのでは、逆に皆がこの部屋へ押し寄せることになるからのう…。」

「それって、そこのヒトみたいな反応が一斉にくるってことですか」


 想像するだけで、げんなりするかもしれない。別になりたくてなったんじゃないんだけどな、魔王。


「そりゃまあ、多少はあるかもしれんが。どうも、誤解があるようじゃのう。」


 おじいちゃんが髭をしごく。


「お嬢さん。勇者一行は先の魔王様以外にも、多くの魔族を倒していった。」


 はい。当事者ですので知ってます。

 一応弁解しておくと、皆殺しなんかしていない。この先百年くらいは大人しくしておいてもらえるように、ちょーっとばかし、頑張っておいたけど。


「つまりな、魔王になりたがるような、力も主張も強い奴らは、まとめて無力化されたのじゃよ。意味が分かるかの。」


 ああ、そうか。魔王位って、普通ならやりたいヒトで取り合いになってたんだ。でも、今元気で残ってるのは、とても魔王なんてつとまらないような弱いヒトか、ユージンさんみたいにやる気のないヒトばっかりなわけで。


「ここしばらくは、誰に魔王位を押しつけるか、でもめておったのじゃ。お嬢さんがやってくれるんなら、儂はもうそれでええわいな。広間に集まっとる連中も、人間と知ったら少しばかり反発はあるかもしれんが、これで家に帰れるとなったら、受け入れるじゃろう。」


 おじいちゃんは、大変なげやりに、そうおっしゃった。


「私、貧乏くじ引かされたってことか…」


 ユージンさんとおじいちゃんが、お茶請けをかじりながら、同時に首を縦に振る。

 がくりと首が落ちた。

本文書くより、犬耳の名前考える方が大変だった。

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