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魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様の長い長いはじまりの日
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その2

 思えば、私の人生はヤツのせいでおかしくなった。

 誰のことかなんて聞かないでほしいが、私の人生を振り返るのにどうしても外せないので、ひとまず「ヤツ」と呼びたい。


 「ヤツ」は私の幼馴染だった。

 私は猟師の父と二人暮らしで、「ヤツ」は食料品店の息子。家は隣同士だった。

 小さい町だったから、逆隣の家は祖父の代からの幼馴染で、お向かいさんは親戚で、というのが当たり前で、それ自体は別に大した意味はない。

 小さい頃は、まあ普通に暮らしていた。学校にも通ってたし、父親の弓矢を勝手に持ち出して森まで「ぼうけん」に出かけて、こっぴどく怒られたりもした。


 おかしくなりはじめたのは、十歳を超えた頃。「ヤツ」がついうっかり、女神の聖剣なんてえらいものに選ばれてしまってからである。

 その少し前から、魔界に異変があったらしく、魔族が人間の世界に出てきて、人や家畜を襲う事件が増えるようになった。

 一件や二件なら、前からあったことだ。でも、あの頃はその数が尋常じゃなかった。


 魔界が荒れているのだ、と偉い魔法使いは言った。

 魔界は弱肉強食を絶対のルールとする世界。その頂上にたつ魔王は血筋ではなく、ただその個体の強さによってのみ継承されるため、代替わりのたびに大きく世界は揺れる。魔王がどんな風に魔族を束ねるかは、その個体の性質によって変わり、統率に興味を示さない場合は、人間の世界にも大きく悪影響が出る。

 これは今までにも何度かあったことで、そのたび、聖剣を扱う勇者を魔王討伐に送り出していたのだと。


 こうして「ヤツ」は勇者と呼ばれるようになった。

―――――ここまでは、まだよかった。

 勇者があらわれた、という報せを受けて、城から迎えにきた人々はこう言った。


「勇者と年の近い、親しい者は誰ですか」


 曰く。

 初代の昔から、勇者には「相棒」がいた。勇者と共に成長し、聖なる神弓を扱い、勇者をよく助ける伝説の戦士。と、歴史書にあったらしい。

 偉い人たちはものすごく大真面目に考察した。その結果、「共に成長するということが何を指すのかはわからないが、わざわざこう書いてあるということは、何か意味があるのだろう。とりあえず勇者を迎えに行くついでに探してみよう」ということになった。


 真面目も極まると、頭おかしく見えるといういい例である。


 確かに「魔王討伐」に「勇者」は必要かもしれない。

 でも、「相棒」って、ほんとにいる?

 わざわざ書いてあったのって、単に「初代がそうだった」ってだけであって、別に後世の人までそれにならうことなくない?

 特別な武器に選ばれた人たちって、一か所に固まって生まれるものかな。

 というか、その場合の「共に成長」って、「一緒に旅をして経験を積みました」ってことなんじゃないのだろうか。私の解釈、結構的を射てると思うんだけど。

 仮にいないならいないで別にいいんじゃないの、と私なんかは思うんだけど、偉い人たちは、ものすごく大真面目に「勇者の相棒」を探そうとした。


 その結果、私にとばっちりがきた。


「勇者と共に育ち、野を駆け、弓の扱いを知る。あなたこそ、勇者の相棒に違いない」


 うちの父親も、「ヤツ」の両親も、学校の先生や友達も、近所のじいちゃんも、みんな口ポカーンである。

 私もそっちに混ざって口ポカーンとしてたかった。

 だって、迎えにきた人も、若干やけっぱちな言い方だったし。「ほんとにこんな子供達でいいのか」みたいな目をしてたし。あの時ならまだ逃げられたと思うんだ。


 が、ここで「ヤツ」は余計なことをした。

 がっちりと私の腕をつかみ、こうのたまった。


「いっしょにまおう、たおそうぜ!」


 何度思い返しても、あの一言が諸悪の根源である。

 かくして、私は城へ連れて行かれ、「勇者の相棒」となったのだ。

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