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FANTAGOZMAーー完全版ーー  作者: 無道
Welcome to FANTAGOZMA
8/32

灯火

気づけば俺は伊達高校のグラウンドにいた。

昼下がりのこの時間、生徒たちが体育に勤しみ体を動かす。ピッ、と短いホイッスルが鳴る。

しかし瞬きした後には、そこは血の海と化していた。死体を弄ぶ異形の怪物達。こだまする絶叫。そしてすぐそばで横たわる佐藤と桐生だった肉塊。

「やめてくれ!!」

胸が張り裂けそうだった。実際には桐生達の死体がグラウンドにあるなんてことはない。

だが、分かっていても、心は、あのときの絶望を思い出し、押し潰されそうになっていた。


「何に怯えているのですか」


「ッ!?」

振り向けば屋上にいた二人の美女。二人の服にはびっしりと返り血が付いている。

「君もすぐあの人たちと同じになるよ。怖がらなくてもいいんだよ〜?」

「やめろ…くるな…」

剣士風の女がゆっくりと背中の大剣を抜く。

あとずさる俺に、彼女は逃さないとばかりに体勢を低くし――。




「〜〜〜〜〜ッ!!」

気づけば天井が見えた。遅れて自分がベットに横たわっていることに気づく。

近くでパチリ、と音が聞こえる。体を起こすと、暖炉で炎がちろちろと燃えているのが目に入った。

「カムラシヌトネフオネ」

「!?」

声の方に慌てて顔を向ける。そこには、木の椅子に座り、刃物で果物の皮を器用に剥く老人がいた。

やや大柄な体に口元に豊かに生える髭は、昔見たアニメに出てくる、アルプスに住むおじいさんによく似ていた。

「ナフニノホヌケヨミチ。コヌコヘノノチイキシホネクノニ」

「…」

何を言っているのか分からない…。

ひとまず、自分の最後の記憶を思い出してみる。確か、飢えと渇きで意識も朦朧とし、かなり死にかけていたのは覚えている。

どうやらそのまま俺は力尽き、偶然通りかかったこの老人に助けられた。そう考えるのが妥当だろう。

「あの、危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

言葉は通じないだろうが、頭を下げ、感謝の意だけは伝わるように誠意を持って応じる。

果たしてその気持ちは伝わったのか、老人は何も言わずに、ただ、ベットの横に今しがた切ったりんごのような果物を置いてどこかへ立ち去る。

一瞬毒なども警戒するが、殺すなら他にいくらでも機会はあっただろうしその心配もないだろう。俺は一口サイズに切られたその果物を、パクリと口に入れる。

「…これ、ほんとにりんごだな…」

こちらの世界にもりんごはあるらしい。俺は慣れ親しんだ甘い果実に夢中になる。

無心でりんごを食べていると、ふと視線を感じて顔を上げた。

すると、ドアの隙間からこっそりとこちらを覗く、小さい目と視線が合う。

「〜〜ッ!」

俺を見ていた人影は、慌ててドアから離れていく。一体なんだったんだ?

りんごをちょうど食べ終えたタイミングで、部屋に老人が戻って来た。その手には煌々と輝く碧色の石がはまった指輪を手にしている。

俺の前まで来ると、近くにあった椅子に座り、持っていた指輪をはめた。

「どうじゃ。これでわしの言う事が分かるか」

「!?」

俺は自分の耳を疑った。さっきまで全く話が通じなかった老人が、いきなり流暢な日本語をしゃべったからだ。だが、すぐにそれが何の仕業か気づく。

「…その指輪はマジックアイテムみたいなものなんですか?」

「ほう。そなたらの故郷にもマジックアイテムは存在したか。いかにも。これは『交流の指輪』。これをはめとれば例え相手がオーガだろうと会話ができるじゃろう」

「翻訳機の上位互換みたいなものか…」

言葉が通じないことはなかなか厄介な懸案ではあった。それが解消されたのは、かなりの前進だ。

「それはこの世界の人達はみんな持っているのですか?」

「いや。これはなかなか珍しいものでな。この指輪は一部の魔法使いか勇者しか持っておらん。かくいうわしも、昔はけっこう名の知れた魔法使いだったのじゃぞ?」

「そうなのですか…」

ではやはり、言葉の問題というのは残るらしい。俺もどこかであの指輪を手に入れないとこの先あの女を見つけることもできないだろう。

『このじいさんから隙を見て奪っちまえばいいだろう。このじいさんもお前が憎むこの世界の住人の一人なんだぞ?』

心に巣くう、憎しみの感情がそんな事を言った気がした。一瞬出たそんな感情を、自己嫌悪の念と共に飲み下す。

(この世界への復讐はもちろん果たす。だが、それに関係のない人達を巻き込むのは道理に反する)

「改めて御老人。瀕死の所を助けていただき、本当にありがとうございました」

「わはは。さっきも多分そう言ってたんじゃろうな。よいよい。困ったときは助け合う。それが人間の道理じゃ」

そう言っておじいさんは柔らかく笑った。笑うととても若々しく見えたが、目尻に浮かぶ幾数の皺は、この人がどれだけ長い年月を生きてきたのかが分かる。

「それにしてもお前さん。またなんであんな辺境の荒野で倒れておったんじゃ。偶然わしが通りかかったからよいものを、そうでもしなけりゃ確実に死んでおったぞ」

「…」

俺はどういったものかと迷う。無論、馬鹿正直にこの世界をぶっ壊しにきましたなどと言うつもりはないし、だからといって上手い言い訳を思いつかない。

俺が黙っていると、おじいさんは何か察してくれたのか、まあそれは別にいいじゃろう、と椅子から腰を上げた。

「見れば一文無しで、そのうえかなり弱っておると見える。何やら身に着けている衣だけは変わった生地のものじゃが、それでもそこまで汚れておればあまり高くは売れまい。しばらくはここに泊まっていくといいぞ」

(…このじいさん、俺を警戒しないのか?)

いくら弱っているとはいえ、明らかに不審な男だぞ。俺は。俺が悪い人だったらどうするつもりだ。まあ、実際いい人ではないわけだけど。

「…お心遣い、感謝します」

しかし結局俺は、申し出をありがたく応じることにした。事実今の俺はこの世界に対してあまりにも無知すぎる。ここにしばらく泊まって、この世界についていろいろ教えてもらうことにしよう。

老人はにっこりと笑い、うむと頷くと、部屋のドアをガチャリと引いた。

「うわわわわ!!」

するとドアの奥から少女が転がり込んできた。びたーんと床に頭を押し付けると、イタタという風におでこをさすった。

老人はあきれたようにため息をついた。

「シーナ。やはり覗いておったか。気になるのなら直接部屋にはいればいいじゃろうてあれほど言ったのに…」

「サーセコマイスルジャキンネ!」

少女と老人はなおも何か言い合っている。俺はその間、部屋に転がり込んだ少女を眺めていた。

俺より2つ3つくらい下に見えるから十三~十四歳くらいだろうか。やや薄い茶髪にまんまるな栗色の瞳。150センチに満たないであろう身長にあどけない表情は、まだ幼さとを残しているが、同時に将来はかなりの美人になり、多くの男性を魅了するだろう予感を思わせる。

その少女は俺が見ているのに気づくと、慌てて老人の背中に隠れた。

「こら、挨拶くらいせんか。すまんな若いの。この娘は14になるんじゃがいかんせん、ここらへんにはわししか住んでる者がいないもんじゃからかなり人見知りするようになってしまってな。ほれ、これを貸してやるからちゃんと挨拶せい」

老人から指輪を借りた少女はそれを人差し指にはめると(指輪はその少女には大きかったようで、すぐ指の付け根までストンと落ちてしまった)、おずおずとこちらに挨拶してきた。

「私はシーナ。アセムの、娘です」

「…俺は立花集だ」

「タチバナシュウ?変わった名前ですね」

「いや、タチバナは苗字って言って、シュウのとこだけが名前なんだ」

「へえー…。そうなんですか…」

「…しばらくの間、ここで厄介になる。よろしくな、シーナ」

「…(コクリ)」

指輪を老人――アセムに渡すとシーナはとててと奥の部屋に行ってしまった。本当に人見知りな少女のようだ。

アセムさんは、やれやれと肩をすくめると俺に向き直る。

「すまんが、よろしくしてやってくれ。将来ここから出るときのためにもな。――夜ごはんを作ろう。悪いが、手伝ってもらえるかね?」

「あまり料理はしたことが無いのですが…、分かりました」

「わはは。助かるわい」

そうして俺は、アセムさんに付き従い、部屋を後にした。

無人になった部屋では、未だ暖炉がパチパチと音を立てていた。

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