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FANTAGOZMAーー完全版ーー  作者: 無道
エピローグ
32/32

宴の夜

10

「それでは!!これよりシュウ・タチバナ君の入隊を祝して、歓迎会を行いたいと思います!!皆様お手元にグラスはお揃いでしょうか?ーーそれでは、乾杯!!」

『かんぱーい!!』

合唱と共に、それぞれのグラスを傾ける。

学校から歩いていける距離にある一軒の居酒屋で、現在俺のデイティクラウド入隊の歓迎会を行っていた。

この世界では18歳から成人扱いになるため、皆が今呑んでいるのもアルコール類だ。

俺も汗かいたジョッキに並々と入った黄金色の液体をごくごくと喉を鳴らして飲み干す。模擬戦の後の疲れた体に入るビールはやはりといっていいのか、美味い。昔仕事から帰ってきた親父が、毎日のように缶ビールで喉を鳴らす姿を見ていたが、なるほど、この美味さ確かに癖になりそうだ。

「かーっ!勝利の美酒ってやつか!うめえなオイ!」

「…ブラート。なんでお前までいる」

隣で中年のオヤジのような声を出す大男に俺はジト目を向ける。

しかしブラートはそんな視線を軽く受け流し、上機嫌に語る。

「なんでってそりゃお前、俺がお前を勝利へと導いた影の功労者だからだろうよ!裏のキャプテンって奴だな!」

「それはなんか色々違うし、だいたいお前はクレイモアを貸しただけだろ」

「――そのクレイモアを粉々にぶっ壊した挙句、修繕不可能で廃品にしたのはどこのどいつだよ?」

「…」

そこを突かれると痛い。

「お前の分は俺が出しておく。今日は好きなだけ呑んでけ」

「へへっ、最初から素直にそう言えばいいのよ。ーー姉ちゃん!生追加!」

「はぁいただいま!」

スクルドの山嵐をモロに受けたブラートのクレイモアは柄の部分がどこかも分からなくなるようなレベルで木っ端微塵になり、結果的に俺は彼の得物を壊してしまった事になる。

それでも試合が終わった後、ブラートは恨み言一つ言わず「見せてもらったぜ、お前の漢ってやつをよ」と一言、それだけ言って笑いかけてくれた。

あの懐の深さに報いるならばこれくらいの出費は痛くはない、そう思えるほどに、ブラートという男は漢だった。

「お待たせ致しました。生一つでーす!」

「お、待ってました!シュウ、お前もついでに注文しといたらどうだ?」

空になった俺のジョッキを見てブラートが言う。

「そうだな。じゃあ俺も生を一つ――!?」

そこで店員に顔を向けた俺は硬直した。

少し小柄な体型に栗色の髪のその店員は我が『黒龍』の妹分、シーナ・ルーキだった。

「はぁい、少々お待ちくださーい」

シーナは固まる俺ににこりと微笑むとそそくさと厨房の方へ消えていく。それを見たブラートが顎をさする。

「今の娘すげえ可愛いよな。学園の生徒かなあ?」

「さ、さあな…。学園で見たことは無いな…」

「…かなりタイプだし、ちょっとこの後でも声かけてみるか」

「…幾らお前でも、まだあいつは渡さねぇぞ。どうしても欲しいっていうなら…かかって来い」

「急にどうした!?スクルドと闘ったときくらい気迫篭ってんじゃねえか!」

俺がカウンターから立ち上がり構えると、ブラートはドン引きしたように仰け反る。…これくらいで諦めるような男に、うちの妹分は渡せねえな…。

「集、ここは皆が楽しむ酒場です。他人に迷惑をかける不用意な行為は慎みなさい」

「…楓、お前もか」

そして集に当たり前のように注意したのは、カウンターの逆サイドで静かに徳利を傾ける楓だった。珍しく髪を後ろで結い、その上で伊達眼鏡を付けている。

「…てか、ここ日本酒あんの?」

「いえ、持参しました」

「家で呑めよ!」

この店来た意味ないだろ!てかシーナもあいつ摘み出せよ!心の中でそう怒鳴る。

『今日の主様はテンション高えな…。酒入ってるからか?』

カリラが辟易とした感じでつぶやくが、俺はスルーする。楓に言いたい事があったからだ。ブラートに聞こえないひそひそ声で言葉を交わす。

「お前は自分がどういう状況か分かってるのか?一部にはお前の顔が割れてんだ。ばれたらどうするんだ?」

「抜かりありません。お前にはこの変装が分かりませんか?見破れるのはおそらくお前だけです」

「その格好変装のつもりだったのか!?軽くイメチェンしただけかと思ったぞ!」

「し、失礼な!確かに付け髭まで付ければ完璧だったでしょうが、これだけでも十分に変装出来ているはずです!実際、先ほどグラウンドで話したそこの男にはバレる事なく――」

「あ、よく見ればアンタ、さっき校庭で話したシュウの知り合いの人じゃん」

「…」

俺と楓の間に突如訪れる静寂。周りで騒ぐ人達の声がやけに遠く聞こえる。

するとそれまで経過を見ていたらしいシーナが俺たちの所にやってきた。

「大丈夫だよお兄ちゃん。楓さんには『認識阻害』の魔術をかけておいたから。周りにあまり注意を払わない酒場で、しかも皆酔っ払ってるから、滅多な事では気付かれないと思うよ」

「…ッ。だが、その滅多な事が起こらないという保証も…」

「お兄ちゃん。学園の付き合いもあると思うけど、楓さんだってお兄ちゃんと一緒に過ごしたいって思ってるんだよ。最近のお兄ちゃんはただでさえ忙しいんだから、こういう機会でもないと一緒に過ごしてはくれないでしょ?それならこういう時くらい、いつもの分の埋め合わせをしてくれてもいいと思うな」

「…」

シーナの言葉に俺は黙り込む。確かに、最近の俺は目の前の事に集中して取り組むあまり、皆の事をあまり考えられていなかったかもしれない。俺の事を好いて付いてきてくれているのにそれでは確かに申し訳ない。

シーナの顔を見る。成長したな、と改めて実感する。そしてくるりと楓の方を見た。

「…楓、邪険にしてすまなかった。いつか一緒に飯でも行くって約束してたしな。今日は俺が払っておくから、お前もバレない程度で楽しんで行ってくれ」

「集…」

ハッとしたように俺を見る楓。それを暖かな目で見守るシーナ。いい仲間を持った、そう実感したときだ、それを眺める外野からの視線に気づいた。

「…じゃあ、俺は邪魔なようだしどっかで呑み直してくるわ…」

「ちょ…待てって!悪かった。のけ者扱いして悪かったから座れって!」

気落ちしたブラートの機嫌を直すのは存外難しく、彼がナイーブだという事がこの日わかった。




「どう、楽しんでるシュウ?」

それから数十分したあたりだろうか。俺の隣にセシリアが腰を下ろした。手には甘い匂いを放つオレンジ色の液体。ファジーネーブルか。

「…ああ。こんなに楽しい酒は久しぶりだ」

先ほどから何人かが交代交代で俺の隣に座ったが、皆気の良い連中ばかりだった。全員がスクルドのような格式張った奴らとばかり思っていたが、それはどうやら杞憂だったようだ。

「そういえばスクルドは…」

「呼んだか」

「…気配を殺して後ろに立つのはやめろ」

突然後ろから聞こえた声に、思わず身構えかけてしまった。スクルドはそんな俺を鼻で笑う。

「ふん。この程度の隠密も見破れないとは、やはりまだまだだなタチバナ」

「ああ?さっきグラウンドでのびてた奴がよく言うぜ。てめえは鶏かよ」

「…やるか?」

「上等だ」

「もう、やめなさいっ!」

殺伐とし始めた俺とスクルドの間にセシリアが割って入る。

「二人とも戦いが終わった時はもっと『お前やるな』『お前こそ』的な空気になってたじゃない!なんで時間が経ったら元に戻ってるのよ!」

「そりゃお前、俺たちがお互いに」

「お互いを嫌い合っているからですよ」

「息ぴったりじゃない!」

セシリアのツッコミも俺たちは意に介さない。こいつとは根本から合わない、いわば天敵。出会ってしまえば闘うしかないのだ。

しかし楓が先ほど言ったようにここは酒場。

ならばと俺はスクルドに提案する。

「おいスクルド。だが今はお互い消耗している。これ以上の消耗は明日からの仕事に支障をきたす。ーーそこで提案だ。幸いここは酒場。なら今回は飲み比べで勝負と行こうじゃねえか」

「…ふ、君にしてはなかなか良い提案だ。いいだろう。その勝負、受けて立つ」

「ちょ、二人とも!勝手に話を進めないで!今日はシュウの歓迎会なの、もっと楽しく呑みましょうよ!」

盛り上がってきたところにセシリアから横槍が入る。

いくら上司でも、漢の闘いに水を差すのはよろしくない。俺たちは同時に顔を向ける。

「セシリア様。邪魔をしないで頂きたい。これは男の勝負。幾ら貴女様でもこればかりは止められない」

「こいつの言うとおりだ。これは平等な真剣勝負。言うことを聞かせたいなら俺たちに勝ってからにしな」

「〜〜〜〜もうっ!どうしてそういう時だけ息が合うのよ!」

セシリアが悔しそうにしていると、そこに逆サイドから楓がやってきた。

「話は聞かせてもらいました。なんでも勝てば集に言うことを聞かせられるらしいですね。この勝負、私も混ぜていただきます」

そして驚きの参戦宣言。流石にこれには俺も首を振った。

「…お前はやめとけ」

「…そうやって、やはりお前は私だけ除け者にしようとするのですね」

「いや、そういうわけじゃあ…」

「――勝負は真剣にして平等。そう言ったのは私達じゃないか。いいだろう、彼女も迎え入れようじゃないか」

「ッ!お前…!」

そこで楓に意外なところから援護射撃が入る。スクルドは、両手に持った並々と注がれたジョッキの片方を、楓へと差し出す。

「男尊女卑の時代などとうに過ぎ去った考え方さ。それにタチバナ、一度吐いた言葉には責任を持つとは、お前が言った言葉だろう?」

「ぐっ…」

確かに俺は言うことを聞かせたいなら勝負に勝ってからにしろとは言ったが…。苦虫をすり潰したような表情でいると、思わぬ二人もやってくる。

「面白そうな事になってるね〜。それなら私達も混ぜてよ!」

「わ、私まで巻き込まないでください!私はただ兄さんの様子を見に来ただけで…」

「――ッ!」

やってきたのはデイティクラウドに入った意義とも言える、復讐を遂げたい相手。ララとユーリだった。

ララは気さくに話しかけてくる。

「ちゃんと喋るのは初めてだね。私はララ・ブリッツで、こっちがスク兄の妹のユーリ・アイギス。これからよろしくね、シュウ君?」

「ユーリ・アイギスです。よろしくお願いします」

「…ああ。よろしく」

必至に殺気が表に出ないよう努める。ここで俺が彼女らに悪印象を持っていることを悟られるのはよろしくない。今は出来る限り友好的に接するよう努力する。

しかし、中にはその演技を見破る者もいた。

「…シュウ、ちょっと二人で話さない?」

「…!ああ…」

セシリアがそんな俺を見て、目を細めると、酒場の端にある空席を指して言った。

断るのも不自然だと考えた俺はそれに頷く。

「…ッ、おいタチバナ!どこに行くつもりだ。これから君と私の雌雄を決する大事な戦いが始まるのだぞ」

「まあまあ、《疾風迅雷》さんよお。その前にまずは俺の相手をしてくれねえかあ?」

俺を引き留めようとしたスクルドの行動は、突如大柄な男に阻まれる。

「…君は」

「ブラート・ノックスって言ってなあ。アンタには俺のクレイモアを破壊された借りがあるんだわ。悪いが、シュウの前に俺の相手をしてくれよ」

「君になど付き合っている暇は――むぐっ!?」

「なーにーその楽しそうな催し!私もやるー!」

「ちょっとララ!兄さんを圧死させるつもりですか!?兄さんからどいてください!」

そんなやりとりが耳に入り、振り向けば、しっしっとこちらを追い払う仕草をするブラート。こちらに構わず行けということか。

俺はブラートで心の中で感謝の意を述べると、セシリアが待つ部屋の隅のテーブルへ足を運んだ。




「苦手なの?あの二人のこと」

俺が向かいの席に座った途端、セシリアはストレートにこちらに問うてきた。

「…ストレートだな」

「まどろっこしいのは嫌いなの。これから付き合っていく上司の性格だから覚えておいて損は無いわよ?」

茶目っ気を含ませた声音でセシリアは言う。あまりムードを陰鬱な雰囲気にしないための配慮か、つくづく気が回る女だ、と改めて思う。

(…そういえば、俺はこの学園にいるうちにこの女と出来るだけ友好な関係にならなきゃいけないんだよな)

自分のこの学園での目的の一つを思い出す。そう考えると、復讐対象である二人と仲のいいセシリアには、あまりこのような話をしない方がいけないかもしれない。だが、気づけば俺の口からは、勝手に考えていることをぺらぺらと喋り始めていた。

「――その少女は天才だった。優れた頭脳で世界の仕組みを知り、持ち合わせた美しい容姿で人々を魅了し、やがて彼女はその国を統治する女性となった」

「…?シュウ、一体それは何の話?」

突然脈絡のない話をされたセシリアは首をかしげるが、俺は構わずに続ける。今まで心の奥底に抱えていた疑問は、酒が入ったのをきっかけに再び浮上してきていた。

「天才と国民から持て囃されていた彼女は国にとっては名君であったが、同時に他国にとっては暴君だった。あるとき彼女は国の為、圧倒的な軍事力を以て隣国に攻め入った。そして彼女は戦争に勝利し、結果的にその国は繁栄したが、周りの国々の民を大量に殺戮し、捕虜に対しても家畜並の扱いしか与えなかった」

セシリアは静かに続きを促す。いずれは同じく国を統治するかもしれない彼女にとって、この話の続きが気になるのか。

「そしてその国が滅んでからしばらくした後、ある問いが生まれた。――仮にタイムスリップしてその世界に行った時、目の前にまだ少女のその女がいたら、その女を殺すべきだろうか、と」

「なっ…、別に殺さなくても!そのようなことを未然に対処するようにその人が教育すればいいだけじゃない!まだやってもいない罪でその少女を罰することなんて許されないわ!」

「それは俺たちがその国に行ったら、の話だろ?もしタイムスリップしたのが攻め入られた国の民の事を考えても、お前は同じことが言えるのか?」

この問いは俺がいつも悩んだ問いだ。罪ない人間を、いずれ罪を犯すからといって裁くことは、果たして許されるのだろうか。

このタイムスリップした者は俺自身だ。近い未来にこの国、この世界に同胞を殺される俺は一体どうするのが一番正しいのだろうか。

これはおそらく答えの出ない問いだろう。それでも、俺は自らが出した答えをセシリアに提示する。

「この問いに対しての俺の答えはYESだ。痛みというのはその本人にしか分からない。迫害された奴が自分の身を守るため、その女を殺すべきだと考えるならばそうするべきだと思うし、それは罪にはならないと思う。…セシリア、お前はこれをどう思う?」

この問いは自分に問うたことは幾度となくあるが、他人に答えを求めるのは初めての経験だ。

シーナは優しい。彼女に問えば、苦しみながらも少女は殺すべきではないと答えるだろう。殺してしまえば、またどこかに別の形で争いが起きてしまうから。

楓は厳しい。彼女に問えば、迷わず殺すと答えるだろう。少女を殺したことで、他所で争いが起きても、お前も自分自身の手で未来を変えなさいと、叱咤するだろう。

ではセシリアは?未来の王様候補である目の前の少女は、何と答えるのだろうか。

本来自分の考えが詠まれてしまうような、こんな質問をよりにもよって彼女にぶつける気は無かった。しかし、どうしようもなく思ってしまったのだ。どこまでも誠実なこの少女は、この問いになんと答えるのだろうか、と。

「…」

セシリアは熟考する。この答えが俺にとって単なる善悪を考える問いではないと分かったのだろう。やがてセシリアは、ゆっくりと言葉を紡いだ。

「――選べないわ。今の私には、それをどうするのが正しいのかなんて分からない」

「…そうか」

俺は目線を落とす。彼女の答えに失望しなかったといえば嘘になる。選べない、など“偽善者”の現実逃避的な考えでしかないと思ったからだ。

でも、と続いた言葉に俺は顔を上げた。彼女は、やはり真っ直ぐな瞳で俺を捉えていた。

「シュウ、あなたが何故それを私に問うたかは分かるわ。――あなたは自身で答えを出しながらもまだ迷っているのよ。本当にそれが最善なのか、他に方法は無いのか、それを探し続けてる。だから私が選べないと言った時、落ち込んだのよ」

だからね、と続けるセシリアの声が微かに震えていることに気づき、そこでようやく俺は顔を上げ――そして目を見開いた。

彼女の目尻には、今にも零れそうなほどの涙がたまっていた。

何故、とかそんな疑問を口に出す余裕もないほどに驚き、ただただ彼女の言葉だけが耳朶を撃つ。

「だから…、だからね、シュウ。全員を救うことのできる選択を探すのを、決して諦めないで。それはあなたが失ってはいけないものだったはずよ。シュウの…」

そこでセシリアは一旦呼吸を置く。そして、涙を零しながらその一言を問うた。


「シュウ。あなたは何をしたかったの?」


「――ッ!お、れは、俺は…!」

ただ皆を護りたかっただけだった。神崎さんを、佐藤を、桐生を、シーナを。

それだけなのに、振り返れば、俺の通って来た道の後ろには、数えきれないほどの骸。聞こえてくるのは俺を憎む怨嗟の呪詛。

何故、こうなってしまったのか。俺は、どうすれば良かったのか。

未だ俺の口から言葉は紡がれない。

しかし、セシリアはそんな俺を見て泣き顔のまま微笑むと、テーブルに置かれた俺の手を握りしめ言った。

「…一緒に探しましょう。皆を救うことが出来る方法を」

「…そんな理想論なんて、あるのか?」

「分からないわ。でも、きっと見つかるはずよ。私もいるし、あなたには仲間もいる」

ほら、と言い、セシリアが指さす先を見ると、こちらをちらちらと心配そうに見ていたシーナと目が合い、はわわっと慌てる。そしてもう一つ視線を感じる方を見れば、楓がさりげなく腰の刀に手を当て、油断なく俺たちを見据えている。目が合うと、何気なさを装って慌てて目を逸らした。

ふふっとセシリアは笑う。

「やっぱり、あの珍しい剣を持った女の子。《剣鬼》ね。ということは、あなたが《黒龍(アンカラゴン)》ってところかしら、シュウ」

「――ッ!」

「はいはい、そう警戒しないで。あなたがただの悪者でないことは分かったから。とりあえず話を聞かせてちょうだい。それから、これからのことを考えましょう」

全く敵意を見せないセシリアに俺は肩透かしを喰らう。

「…俺を捕まえないのか?」

「まだ何もしてない仲間を捕まえるわけないでしょ。おそらくあなた達の事情にララとユーリが関わってるんでしょうし、私も他人事じゃないわ。――ララ!ユーリ!シュウから大事な話があるからこっち来なさい!」

「お、おいッ!」

彼女らの前で、俺の事情を話せと言うのか。流石に慌てる俺に、セシリアは大丈夫よ、と気楽に答える。

「まどろっこしいのは嫌いなの。あの二人なら大丈夫だと思うし、きっと上手くいくわ」

「…ったく、強引だな…。おい楓!お前も来い!」

俺は夜空を見上げる。そこには相変わらず紅い三日月がこちらを見下ろしている。

しかし、その月にあの苛立ちはもう沸いてこない。

次々と俺たちのテーブルを囲む人数が増えていると、セシリアはいきなりこちらにがばっと勢いよく振り向くと出し向けに言った。

「そういえば、部隊長として、私から言い忘れてた事があったわ。――ようこそ同志よ!我がデイティクラウドへ!これから私はあなたの親みたいなものだから、これからは悩みがあったら、何も相談しなさい!」

「…はは、遅えよ」

俺が笑うと、セシリアもにこりと笑った。

空に浮かぶ三日月は、俺たちと一緒に笑っているようだった。


これで応募しようと考えているところは終わりです。

この作品に興味を持っていただいた方はhttp://ncode.syosetu.com/n3544dc/からでも、続きにあたる部分が読めますので、暇があればぜひ。

この作品の御意見御感想もお待ちしております。

最後に、読了していただきありがとうございました。

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