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FANTAGOZMAーー完全版ーー  作者: 無道
バリアハールの剣鬼
17/32

黒龍対剣鬼

悲鳴が上がった。殺気に当てられた客たちは簡単に恐慌状態に陥った。我先にと会場の出口に向かって走り出す。

「…」

勿論俺もそれをむざむざ見逃したりはしない。近くを通る者から手あたり次第に拳を打ち込み、倒していく。しかし、殺しはしない。これが終わった後には、そいつらの持つ財産を全て奪い取り、世界征服の資金源にするつもりだ。

(どうせその金も誰かから巻き上げた金だ。それならせいぜい俺が有効利用してやる)

「動くな貴様ぁ!」

「…!」

いつの間にか俺を囲むように警備兵が並んでいた。その手には引き絞られた弓。

「逃げ場などない。射殺されたくなければ大人しく降参しろ!」

「…『補強(リインフォース)』」

「ッ、魔術師か!魔術を行使される前に殺せ!」

その声と共に、一斉に弓が放たれる。だが遅い。そのときには俺は天井に足を付けていた。高い身体能力に加え、補強の魔術を自らにかければこれくらいの高さを跳躍するのも可能だ。

警備兵達には俺の動きを目で追い切れなかったらしい。どよめきながら辺りをきょろきょろと見回している。

(弓兵は面倒だし、打ち損じてシーナにでも当たったら目も当てられない。今のうちに片付けておくか)

今回、客に扮して中に侵入するために、ボディチェックを想定して丸腰にしてある。それでも勝算は十分にあるが、坂本とやり合う前に数は減らしておきたい。

俺は重力に体が引っ張られるのに合わせて天井を蹴る。警備兵はいくら殺しても問題はない。所詮こんな下衆な催しを警護する連中だ。坂本はともかく、他には加減してやる義理もない。加速した体に合わせて放ったパンチは、落下地点にいた警備兵の頭を砕く。トマトが割れたように中から赤い液体が飛散する。

「チッ…。服に少しかかったな」

「なっ…」

突然降って来た俺と、それに潰された仲間を見て絶句する警備兵。それは俺にとっては致命的な隙だ。すぐ近くにいた弓兵の頭がまた吹き飛ぶ。

「くそっ!」

そこでやっと周りの警備兵が弓を引き絞るが、いかんせん彼らにとって俺は速すぎる。目で捉えられない速さで動く俺に、弓の狙いを定めるなど誰が出来ようか。

為すすべない警備兵を、俺は容赦なく殺していく。

「う、うわああああ!!」

遂に敵わないと悟ったのか、一人の警備兵が逃げ出す。一人逃げればそれに続きたくなるのが道理というものだ。警備兵は次々と敗走に移る。

俺も殺しても大した得にもならない彼らには興味がない。警備兵は無力化したと考えたとき、本当に一瞬だが隙が生まれた。そこを彼女は見逃がさない。

警戒心を縫うようにして、気づけば坂本は俺の目の前で刀を振りかぶっていた。気付いた途端、バックステップで距離を離す行動をとる。しかし少し遅かった。

坂本が刀を振りぬいた直後、胸に熱い感覚が走った。




(浅かったですか)

完璧なタイミングで放った奇襲の一太刀は、立花の厚い胸板を少しばかり掠めただけだった。魔術か何かで増強された身体能力が回避された原因だろう。

(魔術まで使えるとは…。しかし相手は所詮丸腰)

立花が奇襲に驚いたのは一瞬。すぐに拳を前に出して構える。そういえば、地球にいた頃、あの男が空手有段者と聞いたことがある。丸腰でも勝算があると踏んでここまで来たのは、素手でも自分に勝てるという自信の表れか。

(だとしたら舐められたモノですね…私も)

剣道三倍段と言葉は伊達ではない。素手で剣を持った者に勝つには実際にそれほどの力量差が必要なのだ。そして楓の見立てでは、立花との力量差はそれほどはない。

(だからと言って油断するのは愚の骨頂。魔術で身体能力の面ではあちらに軍配が上がりますし、まずは一刀であの男の腕一つをもらう)

楓の頭の中には手加減などという発想はない。目の前にいる男を殺す。それ以外の余計な雑念は既に取り払われていた。

「…」

「…」

両者無言でにらみ合う。最早喋る言葉もない。二人はただ、攻撃するタイミングを探りあう。

「ッ!」

先に動いたのは立花だった。気付けば近くまで来ていたような、そんな踏み込みでこちらの間合いを詰めてきていた。

武術の特別な移動技法――縮地。

「ちっ!」

迎撃は間に合わないと判断した楓は、瞬時に身を引く。目の前を通過する拳で起こった風が前髪を撫でる。

しかし、これで私の勝ちだ。坂本は確信していた。今の攻撃で、立花の体は少しではあるが流れている。次の坂本の一刀は避けられまい。

(あっけないものですが)

拳をかわした坂本は、返しの一撃で刀を振りぬく。それは正確に立花の左腕に命中し、その腕を斬り落とす、はずだった。

直後、坂本の一撃を迎撃しようとした立花の拳が刀と激突し――がきいぃんと聞こえるはずのない音が会場に響いた。

「なっ…!?」

「…動揺した」

「ッ!しまっ!」

驚愕した楓に、更にもう一発拳が襲う。なんとか刀で受け止めるが、またも甲高い金属音と共に、打ち合わせた衝撃で楓が大きく後ろに吹き飛ぶ。

「ぐっ…!」

靴の踵の部分を削りながら、なんとか楓は止まる。しかし、未だに驚愕だけは抜けきらなかった。

「…ありえません!刀と打ち合って拳が割れないなんて!まるで拳が鉄にでもなったような…まさか!?」

楓の言葉に、目の前の男は頷いた。

「ああ、その通り。――『鉄の籠手(アイアンガンドレッド)』。拳をただ鉄並みに硬くするっていうだけの最下級魔法さ。けどそれだけで、俺はお前と打ち合える」

直後、立花はまっすぐにこちらに突っ込んできた。




「おお…、なんということじゃ…。シーナが人さらいに攫われたとは…」

「護衛を請け負いながらもこの始末。本当に返す言葉もありません」

宿に帰っていたアセムさんに、俺はシーナが攫われたことを伝え、額を地面に押し当てる。アセムさんはよろよろと後ずさり、椅子にどかっと座りこんだ。

「…まさか、今日宿を出るときに見たシーナの顔が最後に見た顔になるとは…。おおシーナ…。こんなことになるならばやはり連れてくるべきではなかった…」

「待ってくださいアセムさん。シーナを諦めるにはまだ早いです。俺に、もう一度シーナを救うチャンスをください」

「…シュウよ、いくらお前さんでもそれは無理じゃ。おそらくシーナは奴隷としてオークションに売り出されるじゃろう…。例え明日の夜のオークションの場所が分かったとしよう。しかしそのような催しなどトラブルが起こることなど必至、おそらくとんでもなく堅牢な警備網を引いておるじゃろう。そんな中をいくら強いといってもお前さん一人で突破するなど無理がありすぎる!」

「…アセムさん、俺は決めたんです。自分の為すと決めた正義を貫くと。俺はアセムさんと約束した。シーナを護ると。その約束をどうか破らせないでください!」

「…気づいていたと思うが、シーナは実はわしの本当の娘ではなくてな。シーナを養子としてもらう前、わしには本当の娘と妻がいた。しかし、その二人もある日人さらいに連れ去られた。そのときはわしもまだ若くてな、二人を取り戻そうと今のお前さんのように単身でオークションに乗り込んだ。その結果がこのざまじゃ」

アセムさんは着ていた服をまくり上げ上半身を見せる。老いた体には無数の切り傷や火傷の跡があった。

「…それがそのときの傷ですか?」

「そうじゃ。命からがら逃げおおせたが、その時に受けた傷のせいで魔力器官が傷つき、魔法使いとしてそこそこ知られていたわしは簡単な魔術と少しの下級魔法しか扱えんようになってしもうた。――シュウよ。お前さんにはまだたくさんの未来が残っておる。シーナも救いたいが、それでお前さんまで失ってしまうのだけは止めなければならん事なのじゃ。どうかこの老いぼれの頼みを聞いてくれ…」

今度は逆に俺がアセムさんに頭を下げられる。そこには確かにこの老人の願いが込められていた。

昨日までの俺なら、ここで折れてシーナを諦めてしまったかもしれない。だが、もう今は違う。

「アセムさん。どうか信じてください。俺は戦士ですよ?今、そのときのアセムさんを超えてみせます。だからこそ、俺に一つ、今すぐ教えてほしい魔法があるのです」

「…ここまで同情を引いても無駄か。この一ヶ月でお前さんのことで分かったこともあるぞ。シュウ、お前さんは頑固じゃ」

「…すみません」

「よい。もう諦めたわい。それで、何の魔法を教えればいいのじゃ?言っておくが、最近魔術師になったばかりのお前さんでは、覚えられる魔法なんぞ限りがあるぞ」

「それなんですが、実はこういう魔法で…」

俺はアセムさんに、その魔法の効力について言った。アセムさんは唸る。

「うーむ、それなら今のお前さんでも覚えられるじゃろうがそんな下級魔法、魔法に対しては全く効果を持たんぞ。それならばいまお前さんでも使える『魔術(マジック)抵抗(レジスト)』の方がよっぽどいいくらいじゃ。そんな魔法を覚えて何に使う?」

アセムさんの問いに俺は答える。

「いえ、剣なんてものいきなり使ってもやはりその道の人には勝てないんだと再確認しましてね。それなら今までの俺通り、不器用で下手くそでもこれだけを信じようって思ったんですよ」

しかし俺の答えは、アセムさんはよくわからなかったようだ。眉を寄せたが、とりあえずは納得したようにうなずく。

「…まあお前さんなりに考えがあるという事か。よかろう。では時間もないし早速教えるぞ。よく聞くがよい」

「はい。よろしくお願いします」

そうして夜が明け、太陽が昇り始めた頃、遂に俺はこの魔法、『鉄の籠手(アイアンガンドレッド)』を習得したのだった。




「くっ…拳がただ硬くなったところで…ッ!?」

坂本の上段からの袈裟斬りを手首を返して手の甲でいなす。坂本の外側に回り込んだ俺は回し蹴りを入れる。

「がっ!?」

坂本はなんとか腕で防御しようとするが、『補強』で身体能力を強化している分、こちらの方がパワーはある。坂本は見事に壁まで吹っ飛んだ。壁が砕け、坂本を中心に丸くえぐれる。

無理な追撃はしない。俺の拳の表面が薄く切れて血が滴っているのが分かる。今の俺の拳は鉄並みに硬いわけだが、どうやら坂本は鉄すらも斬れるらしい。正面から何度も打ち合わせれば、いずれは拳が使えなくなってしまう可能性もある。

坂本は手にした刀を杖代わりにしてよろよろと起き上がる。そんな坂本に俺は声を掛ける。

「…もうやめだ。今の一撃で左腕は壊した。片手じゃ満足にポン刀も振るえないだろう」

「…舐めないでください。私はまだやれます!」

疾走してくる坂本。相変わらずその速さには驚嘆する。『補強』で強化されている俺をも凌駕する速さだ。

「だが、直線的すぎる」

「!?」

坂本の横一文字の一振りは刃の先端に拳を当てて受け止める。片腕の上に力の乗らない刃の切っ先でなら受け止めるのも容易だ。そのまま踏み込んで距離を殺す。

「ッ…!舐めるなと言ったはずです!」

「なにっ!?」

しかし今度は俺が驚かされる番だった。距離を殺して、刀の間合いから外したと思った矢先に坂本は日本刀の柄の部分で俺の顎を正確に打ちぬいた。敵ながらまさに会心の一撃だった。体は強化されても体の構造までは変わらない。脳を揺さぶられ、たまらず膝が笑い始める。

そのうちに坂本は一歩後退し、鋭い剣閃を放つ。狙いは俺の首元。未だダメージが抜けない体を無理やり動かして、ゴロゴロと床を転がりなんとか躱す。

「往生際の悪い!」

「…!」

体を起こそうと膝を床につけたところで坂本が真上から刀を振りかぶるのが見えた。おそらく『鉄の籠手(アイアンガンドレッド)』中で防ごうとしてもそれごと斬り伏せるというようなほどの渾身の一撃だろう。しかし、だからこそ溜めによる一瞬の隙も生まれた。

(ここだ!)

片膝をつけた状態から思い切り床を蹴り、飛び上がる。反動で床に亀裂が走る。

狙いは真上、坂本の顎下。手のひらを前に出し、掌底を狙う。

「…!!」

坂本はただ目を大きく見開いた。そのすぐ後に俺の掌底が決まる。

坂本はどさり、とその場に倒れた。起き上がってはこない。殺してはいないだろうが、脳震盪で体がいう事を聞かないのだろう。そりゃ、さっき俺が喰らったのより強烈なのが入ったからな。俺は素早く坂本が握っていた刀を遠くに蹴り飛ばす。

「け、剣鬼が…負けただと…?」

「そんな馬鹿な…!」

俺たちの闘いを見ていた残り少ない警備兵も心折られたようだ。どうやら俺の襲撃に際して反乱を起こしたらしい奴隷の少年達に、警備兵は大人しく捕縛されていく。

「…どうやらこれで終わりか」

俺はほっと一息ついたところで会場のステージの方からこちらへ走ってくる足音が一つ。

確認するまでもない。それはシーナだった。

「お兄ちゃん!!」

シーナは目に涙を浮かべて俺の胸に飛び込んでくる。見ればシーナの両腕は縄できつく縛られていた。手刀でそれを断ち切ると、体に腕を回してくる。

「怖かった…。お兄ちゃんに助けに来てほしかったけど、それと同じくらい私のせいでお兄ちゃんが死んじゃうのも嫌だった…」

鼻声でそう言うシーナの体は震えている。当然だ。もともと人見知りのシーナだ。攫われてからの不安は想像できないくらいのものだったろう。なのに自分の心配だけでなく俺の心配まで…。

気づけば俺からもシーナ優しく腕を回していた。シーナが驚いた声を上げる。

「お、お兄ちゃん!?」

「…シーナは優しいな。よく頑張った。もう、大丈夫だ」

「…!も、もう…。せっかく泣かないように頑張ってたのに…。こんなの、卑怯だよ…」

シーナはついに決壊したように大きな声で泣き始めた。俺はそんなシーナに慈しみを感じつつ、背中をゆっくりとさする。だからこそ、いつの間に復活したのか、坂本の声が聞こえたとき、やっと迫りくる脅威に気づいた。

「集!後ろです!」

「――!!」

シーナを庇いながら横に跳ぶ。俺の肩に焼き鏝を当てられたかのような痛みが走る。

「ぐっ…」

「お兄ちゃん!?」

「集!」

肩を庇いながら体を起こし、絶句する。攻撃方向には、今の魔法であろう杖を構えた老人が立っている。その人は、今ここにいていいはずのない人だった。

慌ててシーナを見る。シーナにだけは見せてはいけない、そう思って振り返った先に、大きく目を見開いて固まったシーナが目に入り、何もかもが遅いということを悟った。

シーナの口がゆっくりと動く。


「…お父、さん…?」


その言葉が届いたのか、帽子を被ったその老人はゆっくりと顔を上げた。


「うむ。おはようシーナ。思ったより元気そうで何よりじゃ」


そう、彼――アセムさんは、三人で暮らしていた時と同じように、お辞儀した。

時と場所が違ったならいつもと変わらない一日の挨拶。しかし、それは今までとは全く異なる意味を持っていた。

「あ…ああ…」

シーナはやがてわなわなと震えだす。それは正に壊れることの予兆のようで――。


シーナの目からはまた一滴、涙が伝い落ちた。


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