パパとくまと時々ママ
ザンギョウタノシイ
ボクザンギョウダイスキ
ラーダンガの中心、冒険者ギルドの上の僕の家。
事情説明する僕、後ろでじゃれ合うくまのぬいぐるみと白猫。そして僕の前には車椅子に乗ったどでかいおじさん、もといパパ。
「はぁ?立花一刀流だぁ?嘗めてんのか!!!」
パパはテーブルを叩きつけ、ドシャァンとグラスが音を立てる。
相変わらずパパは怖い、普段は優しいけど、怒った時はおしっこちびっちゃうぐらい怖い。一線を退いたとはいえ元マスターランク冒険者だし、めちゃくちゃ怖い。まず人相が怖い、義眼を入れてるから余計怖い。上半身の尋常じゃない盛り上がり方が怖い。そして僕が物心ついた時から車椅子なのに全く衰えてない足の筋肉が怖い。
「小蓮!わけのわからんもんに手を出すな!」
「うぅ……ふかこーりょくだもん……」
くまのせいでパパに怒られるし立花一刀流とかいう強そうなの極めないとダメだし泣きたい。
「この呪い人形が悪いのか!」
呪い人形は、呪われて人形にされたひと。この場合呪いくまさんだ。
「知らないよぉ……」
「お前が武道を始めたければ伝手を使っていくらでも強者に指導してもらうというのに!よりによってわけのわからんもんに手を出すとは!」
『まぁまぁ、弱いわけではないですしおすし』
「どっから持ってきたのそれ……もうやだぁ……ぐすっ」
くまが白猫に乗って看板掲げてるしもうやだぁ。わけわかんないよぉ。
「バカにしてるのか!」
カキカキ。
くまが話せばいいのに一生懸命ちっさい体で書いてるし、パパはそれを待ってるしもう付いていけない。
『立花一刀流無刀三之型―五月刃―』
?
「小蓮!」
パパはそのぶっとい腕車椅子を回転させその勢いで僕を抱え込んだ。
「ぐあっ」
叫んだパパの方を見ても何が起きたかわからない。ただわかるのはパパは後頭部に傷を負い、ただでさえ怖いパパが無数の切り傷をつけた後頭部によりもっと怖くになっていると思われること。このくま怖い。話が通じなければ実力行使とか。
正面に向きなおすと目の前のパパの腕に立札を立てたくまが胸を張っていた。
なになに?
『趙布とやら、不要狡辯,甚至沒有任何真正的父』
途中から読めない。なんて書いてあるんだろ。ヤクザ語?くまこえー。
「なぜそれを!」
『強者だからだ』
ワナワナと肩を振るわしパパ、めちゃくちゃ揺れてる。こんなに怒ったパパは僕が攫われた時以来初めて見るかもしれない。
「くっ……いい、強いのはわかった。好きにしろ」
「パパ?」
パパの様子が変だ。いつものパパならここで魔装の一つや二つ呼び出すのに。おかしいこともあるもんだなぁ。
「学べ小蓮」
「パパ?」
ヤクザくま認めちゃうー?
「小蓮は小蓮、呪われたのも何かの縁、小蓮は小蓮の縁を大事にしなさい」
「あ、ママ」
「ふーちゃんも、そろそろ子離れしないとね?」
ママは結婚して13年経つ今でもパパのことをあだ名で呼ぶ。『らぶらぶかっぷる』らしい。
全身が丸太みたいな筋肉で覆われ赤黒い肌をした顔面凶器で鬼族のパパとすらーっとした体型で透き通るような白い肌をした容姿端麗スタイル抜群のママはラーダンガ七不思議の一つに数えられるほど美女と野獣の夫婦で有名なのだ。僕はパパにになくてよかったと時折心の底から思う。
「みーちゃん……」
きしっとママの義腕がきしみながらくまと白猫をつまみあげた。
「シャオをよろしく頼むわよ、強者を名乗るなら、この子の適正をわかった上で剣士にしようなんてことを思ってるんでしょ?」
僕の適正とかママは知ってたんだなぁ、何にも言ってくれないから、というより何でも「じゃあやってみなさい?世界が広がるのは楽しいわよ?」で済ますからわかんないのかと思ってた。町のおっちゃんおばちゃん達もわりと僕には「なんでもやってみろ」のスタンスだし。僕は器用貧乏なのかと思ってた。
『無論、任せろ。』
「なーご」
ジャンヌが頷きながら返事を上げた。よくよく考えたら猫の呪い人形が存在するなんて聞いた事も見たこともないしこれ軽くホラーじゃん。いや、呪い人形の時点でホラーだ。
「じゃあ、よろしくね」
「小蓮を……っ…………頼んだ……………」
ママに怒られたとき以外で涙目になったパパを見るのは初めてかもしれない。
「てかなんで僕が立花一刀流を相伝することになってんの?」
「小蓮?」
「相伝します」
小首を傾げた美人は怖い。最早近代文学のテンプレとも言えると思う。
実際無理矢理な場面転k……
暫く残業はないはず。きっと。